クマとトラと女 その3
「そうかねぇ。クマの口からそんな話を聞くとは夢にも思って見なかったよ。実際あんたのダンナとムスコには随分と獲物を横取りされたのだか」
そのカラスが皮肉を言うとカァ、カァと仲間のカラスも同意して鳴いた。
「あんたたち私が冬眠明けで弱っていると見てからかっているんだね」
「とんでもない! 俺たちは同じ森に暮らす仲間じゃないか。実際、俺たちはあんたに同情しているんだよ」
「どういうことだい?」
「俺たちは昨日ダンナとムスコをみかけたけど、ぬくぬくとした暮らしぶりだったよ。あの様子じゃ、この冬は食い物にも困ることなく気まま暮らしをしていたに違いないよ。あんたはこんなに苦労しているというのに……」
「ダンナとムスコはお調子者だけど、根は善良なクマなのよ。私にうそを言って怒らせようとしてもまったく通じないよ」
カラスはクマのいうことに反論しようとした。クマはそんなカラスたちのことは一切無視してカラスたちから遠ざかっていった。このカラスもクマのことは忘れ食事を再開した。
クマはダンナやムスコのクマを信じていたがカラスたちの心ない言葉には腹が立ちカラスにあってズーッとイライラが消えないでいたのだ。
しかしながら、クマが出くわしたこの匂いのせいでクマの心からこのイライラが一気に消え去った。クマの体に力が漲りはじめた。匂いに向かうクマの足取りはしっかりしていた。