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1. オワリノハジマリ


 人はどうして願いという名の欲望を捨てることができないのか。自分自身も人である以上同じだなと思いながら人殺しに明け暮れる。と言っても、俺自身が望んでその結果という人を殺める行為を行っているわけではない。

 それ自体が時代のせいなのだ。

「今日はいつもより冷えるな」

 戦を前に、軒下に出て外の気候を確認することもしばしばとなった。そして、俺の前にはこう寒くなると必ず現れる者がいた。確かにいつも記憶にある、しかし、その記憶が俺自身の存在する時代のものなのか、それとも重複する時代の一遍に流れる記憶なのか。混同しわからなくなることがあるのだ。必ず現れる者。それは、腕に十字の痣をもつ女だった。そして、現れた。この時代に・・・。

「親方様」

「その呼び方はやめろ」

「では、原田隊長」

「どうしたのだ」

「屋敷の前に隊長を訪ねて来た女がいます」

「そうか。腕に十字の痣があるものか」

「はい、左様にございます」

「わかった。通せ」

「はっ」

 やはり現れた。時代を超えて、悲しき願いを背負った女が。

「この者にございます」

「ほう」

 間もなく使いが連れてきた女の左腕には確かに十字の痣があった。

「いいぞ、下がれ」

「はっ」

 使いが下がったことを確認し、俺は名を尋ねる。

「扇島うきはです。」

「うきは、何を願ってきた。」

「えっ」

「俺は何人も見てきている。いや、正しく言うのなら違う時代に生きる者をどういう形がわからぬが幾度も見ているような気がする」

「大事な人の、笑顔です」

「そうか。」

俺は、はっきりしない記憶、いや褪せていく彼女たちの記憶をとどめることができないのだ。願いを果たしてしまうことで消えてしまうのだから。

「悲しい願いをしたのだな。だが、ここで生きる上での覚悟もしているということなのだな」

冷たい言い方しかできない俺自身を嫌いだと思う。だが、そうせねば彼女の誓いを果たすことはできないのだから。

「もちろんです。原田・・・佐之助・・・」

 うきはの目は強く俺を見据えいていた。悔いなくこの時代へ跳んだのだろう。そして、この先に起こることを全うせねば、再び願いが裏返ることもわかっているようだった。

「よし、今日は休め。戦は近いのでな」

「わかりました。」

うきはを個室に通し、そこを生活の場とするように伝える。もはや、彼女にとって終の住処となることを承知したうえでの始まりなのだから。

「あの・・・」

「原田か佐之助で構わない。お前の時代でもそう言っていたのだろうから」

「えっ・・・はい」

「未来の俺は、お前が何を願いここに来たのかを知っているが、俺は知らない。そしてそれを聞くことはない」

「ありがとう」

うきはの声は少し震えていた。それで初めはいいのだ。覚悟があるからいるのだから。

彼女の命を懸けた願いとやらに興があるにはあるが、深入りは万が一の自らの命にもかかわるので、俺は立ち入らないようにした。

疲れていたのか、うきはは準備した布団の上ですぐに眠ってしまった。

「ふっ。人を殺めるには細い腕だ」

 暖を取っているとはいえ、十分に冷えてしまう部屋だから俺はうきはに布団をかけ部屋を後にした。

 語る資格は俺自身にはない。だが、彼女自身がそれを語るのだ。彼女にとってのオワリノハジマリは俺が見届ける。ハジマリノオワリは彼女が語るのだ。


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