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通常ではありえない力を持った人々

水たまりに足をつっこんだ

作者: 矢木 翔

初投稿、処女作になりますね。

読んでやっていただけると幸いです。

 ようやく、雨が止んだ。

 午後五時頃から降り始めた雨は弱いながらも降り続けていたのだ。仕事は終わっていたが、傘を持ってくるのを忘れた俺は窓辺のデスクから外を眺め、ただ雨が止むのを待っていた。

 雨が止んだのは、午後九時を過ぎた頃だった。ようやく帰れる。傘を忘れてなければなぁ。自分の不注意さに腹が立つ。まぁ、不注意がすべての原因ではないのだろう。こんな時に雨が降る、不運であり不幸である。そこには腹の立てようがない。……早く帰ろう。

 会社を出て、駅に向かう。雨上がり後の夜闇は特に暗い。本来ならもっと早く帰れるはずだったのに……と思いながら歩く。歩く。


 バシャン。


 不意に足元に冷たさが押しよせた。

 水たまりに足をつっこんだのだ。

 ため息しかでない。雨がまた降るかも、と思って注意が上にあった。下に意識がいっていなかったのは不注意である。でも、そこに水たまりがあったというのは不運。なんなんだよ、今日は……。そう、口には出さずに呟いて、ため息を一つついて水の入ってしまった靴を水たまりからひきあげる。

 ん?

 何か違和感を覚えた。

 何が違和感なのかは分からない。景色の一部に変化があった?いや、違う。体調が悪い?そうでもない。タイムスリップ?何考えてるんだ。

 そうしているうちに後ろから足音が聞こえてきた。片足を水たまりにつっこんでスーツのすその片方だけが濡れている俺は何と思われることだろう。

 思わず体が動いて、俺は近くの電柱の陰に体を隠した。かなり暗いし、ばれることはないだろう。

 だんだん足音が近づいてくる。

 なんか、聞いたことある足音だな。

 いや、足音なんてどれも同じか。

 だんだんだんだん足音が大きくなる。

 音の主が俺の隠れる電柱の前を通り過ぎそうとしたその時……


 バシャン。


 なんと足音の主も水たまりに足をつっこんでいたのだ。

 濡れた足を意識しながら、親近感を感じていた。どんな人が俺と同じ不幸にはまったのか。他人事になると気になってしまう。俺は足音の主を見ようと電柱から顔を出した。

 そこにいたのは俺だった。まぎれもなく、俺だった。

 なんで、もう一人俺がいるんだ!?

 もう一人の俺はため息をつき、水たまりから足をあげ、何事もなかったかのように歩き出した。俺はもう一人の俺についていってみることにした。


 もう一人の俺は駅に着く。電車に乗り遅れ一本後の電車に乗る。満員ギュウギュウの電車はゆっくり走っていく。不意に電車が止まる。どうやら事故があったらしい。ギュウギュウの電車の中で小一時間立ち往生。ようやく動いた電車で次の駅に下り立つ。ポケットの中の財布はいつの間にかなくなっていたようだ。スリにあったのだろう。そんなこんなで、どうにか駅をでると、外は土砂降りだった。


 そこまで俺の後についていって、景色は元に戻った。足は未だ水たまりにつっこんでいる。

 今のは何だったんだ?

 疑問はある。でも今はとりあえず、駅に向かって走った。


 走っていって駅に着き乗り遅れず電車に乗る。そこまで満員でもない電車の中でポケットの中の財布をカバンの中に、奥におしこんで淡々と走る電車に揺られる。次の駅で降りると、後ろで電車の一時運転見合わせのアナウンスが流れていた。あまり他人事とは思えず外に出る。外は晴れとは言えないまでも、穏やかな天気だった。


 家に向かって歩いていく。よく分からないことが起こり、何も理解できずにボーッとして道を歩いていた。


 バシャン。


 今度はさっきとは逆の足だった。

 足をつっこんだ瞬間、景色が変わった。土砂降りだった。俺の2メートルくらい前にもう一人の俺が立っていた。もう一人の俺は土砂降りの空を見上げていた。

 不意に景色が元に戻った。俺は空を見上げてみた。雲が切れて月が見えていた。満月だった。水たまりに足をつっこむような俺は不注意だし不運かもしれない。でも、「不幸」だとは思わなかった。

 さて、雨が降る前に帰ろうか。俺は水たまりから足をあげ、月明かりの中へ歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 矢木翔っぽい言い回しが多くて楽しかったよ(^_^) おさらぎなだけあるわな [一言] またたまに投稿したら見るからね〜
[一言] 詩みたいな感じのする短編ですね。 これからも執筆活動頑張ってください。
2013/04/03 20:28 退会済み
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