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蛇恋シリーズ

祟姫の涙【前編】

作者: ぼたん

祟姫たたりひめの涙』


【前編】


 たたひめの「たた」は、やくたたずの「たた」。

 はたけもできない。はたおりもできない。

 やくたたずの、たた。


「やーい、やーい、やーくたーたず!」

「くやしかったら、やーくにたってみせろやー」

 はやし立てる村の子どもたちの声が、やまびこのように彼方の山々にこだましている。

「そーらよっ」

 その笑い声と共に飛んでくるのは、水気を含んだ泥団子。

「きゃっ! やあっ」

 それは少女の足元に落ちて砕け、彼女の空色の着物に黒い染みをつくっていく。

「よけねーと、可愛いおべべもやくたたずになるでよぉー」

 いくつもいくつも飛んでくる泥団子は、縮こまる少女を狙っているが、当てる事はない。

 まるで、弱った動物を生かさず殺さずいたぶるような、幼さ故の残虐さがにじみ出ていた。

「や……や、ひうぅ……」

 少女も逃げればいいものを、泥のしぶきにまみれた手のひらで顔を覆い、小さくなって震えるばかり。それがさらに、村の子どもたちの残虐な嗜好を加速させていく。

「ほれっ、こんどは石ころ当てんぞー」

 あろうことか、泥団子を投げつくした子どもの一人が、足元にあった石を拾い、少女に投げつけた。手のひら大のそれは、当たれば黒い染みどころではない。

「え――?」

 不運な事にも、石は、顔を上げた少女の額に向かって、放物線を描いて飛んでいき――、


「どこのどいつだ? ウチのたたを虐めるクソガキは?」


「あ……」

 パシッ、という音と共に、大きな手に掴み止められていた。

「うゆ……」

 少女が茫然と、自分を守ってくれた背に、ぼやける視線を向ける。

「こんなんをウチの大事なたたに当てやがったら……」

 そこには、いつも見慣れた、そしていつも憧れた青年の姿があった。

「――ガキ共、覚悟できてんだろうなァ?」

 そして彼は、低く重い声と、鋭い牙のような脅し文句に合わせ、手のひらに掴んでいた石を、なんと力任せに握り潰した。

「ぎゃー、でたー!!」

「たたひめのオニさまが、かえってきたぞぉー」

「に、にげろー!!」

 それまではやし立てていた村の子どもたちが、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出す。

「あっ、おいコラ!」

「オニさまにくわれるー!」

 そんな悲鳴もやがて遠く聞こえなくなり、子どもたちの姿も見えなくなった後、青年はため息を吐く。

「俺はオニさまじゃねーっての……」

 そして握っていた拳を開いて、粉々になった石粒を、手をはたいて捨てた。

「う、ぐすっ」

 肩をすくめる彼の背を見ながら、少女はよろけるように立ちあがる。そして手の甲で瞳をぬぐったところで、ちょうど彼が振り返った。

「さて、と。――ん? お前、泣いてたのか?」

「なっ、泣いてなどおりませぬ」

「……ぷっ、そ、そうか、ぷぷ」

 少女の白く可愛らしい顔は、泥のついた手で涙をぬぐったせいで泥まみれになっていたが、あえて彼は指摘しなかった。

「どうして笑うのですか、どうして笑うのですか?」

 けれども耳ざとく反応した少女が、むっくりとふくれる。

「いや気にするな、腹の虫が泣いているだけだ」

「うそでございます、ほんとうに泣いてなどおりませぬ!」

「――おっ、とと」

 そして少女は、精一杯の意趣返しとばかりに青年に駆け寄る。大した勢いもなく突撃した彼女を、青年はやんわりと抱きとめた。

「……たたは、泣いてなどおりませぬぞ?」

 彼の胸に泥と涙でまみれた顔を埋めた少女――たたひめは、胸一杯に彼のやわらかな匂いを吸いこんで、はにかみながら告げる。

「おかえりなさいませ、あにさま」

 そして青年も、少女の温かな長い黒髪を撫で、優しく返した。

「ああ、ただいま。――たた」


 ――これは、一人の貧しい青年と、一途な蛇姫の、悲しい恋物語。



 たたひめ。

 彼女は、数年ほど前、行き倒れていたところを青年に拾われた。

 おおよそ人気のない夜の山道に倒れていた彼女。藪の中を歩いてきたのか、ところどころにかすり傷はあったものの、仕立ての良い真白な着物やきめ細やかな肌、ほつれずに流れている黒く長い髪。豪族の隠し児か、身売りから逃げ出して来たのか。青年の家で目を覚ましたたたひめも、自分のその名前以外はあまり昔を口にする事はなく、青年は何かわけありだと考え、過去を深く詮索する事はしなかった。

 青年の暮らしは貧しく、いくら少女とはいえ人一人を養える余裕はない。それでも彼は、就いていた仕事を、無理を言って増やしてもらい、「あにさま」と慕ってまるで仲の良い兄妹のように、たたひめと共につつましく暮らしてきた。

 それは青年の気概もあったが、彼もまた過去に親に捨てられ、幼い身空で辛い生活を送ってきたためでもあった。

 そして何より――


「あにさま、あにさま……?」

 月明かりをたよりに、青年が縁側で着物のほつれを直していると、夕食の後に寝入っていしまっていたはずのたたひめが起き上がり、彼を探していた。

「あにさま、どこにいるのですか?」

 不安そうに枕を胸に抱き、きょろきょろと青年を探すたたひめ。彼女の場所から彼の姿は見えるはずなのだが、たたひめは一向に青年に気づく様子はない。

「ここだ、たた。縁側にいるぞ」

 青年がそう言ってようやく、彼女はぱあっと笑顔になり、小走りで青年のもとへ駆け寄ってきた。

「あにさま、あにさっ――ひゃあ!?」

 その途中で縁側の段差につまずき、転ぶ。それを予想していた青年はやわらかく彼女を抱きとめた。

「ほら、慌てていては怪我をするぞ? まったく、たたはいつも危なっかしいな」

「ううう、うう。あにさまがわるいのです、こんなところで何をしていたのですか?」

「ああ、月を見ながら、着物を直していたんだ。今宵の月は、綺麗だぞ?」

 満天の星空に浮かぶ満月は、ため息の出るほど白く輝いていた。しかしたたひめは、ふいとそこから顔を逸らし、青年の膝に乗り不機嫌そうに呟く。

「見えない月など、……見とうありませぬ」

「ああ――、それは悪い事をした」

 青年は、自分の無神経さに頭をかいた。

 ――たたひめは、目があまり良くない。

 それは、彼がたたひめを放っておけなかった一番の理由でもあった。

 青年に拾われた時から、彼女は顔のすぐそばのもの以外は、ほとんど見えなかった。

 そのため、目を覚ましてからというもの、家の裏にある畑の仕事や、裁縫など、働く青年の手伝いをしようとしたたたひめだったが、結局何もできなかった。

 それをどこから噂を聞きつけたのか、遊びに来た村の子どもたちに「たたひめのたたは、やくたたずのたた」と笑われてしまうのであった。

 いつも家で一人、青年が帰るまでの間、子どもたちに笑われ、さびしい思いをしているたたひめ。

「すまないな……俺が、もっと家にいてやれれば」

 青年は、住んでいる山のふもとにある村の屋敷に、通い奉公をしていた。自身の生活と、たたひめを養うため、ほぼ毎日朝から夕過ぎまで家に戻る事はない。

「それはわかっています。でも、たたが恐ろしい時には、おそばにいてくださいませ」

「何だ、恐い夢でも見たのか?」

 その問いに、たたひめはきゅっと唇をすぼめて小さく頷く。青年の肩に額を寄せ、心細そうにしている彼女に、青年は元気づける言葉を探す。

「心配するな、夢の中だろうが何だろうが、たたを恐がらせる輩は、俺が成敗してくれる」

 青年は昔から武術の才があり、それを見出されて今の仕事に就いている。

 しかし、彼の言葉にたたひめは、今度は小さく首を振った。

「あにさまでは、到底かないませぬぞ」

「何? どんなものだ? 獣か? 物の怪か?」

「いいえ、そんなものではございませぬ」

「? なら一体……」

 首をひねる青年を見て、たたひめは微笑み、悪戯っぽく言う。

「ふふ、内緒でございます」

「内緒では、たたを守りきれないな、どうすればよい?」

 するとたたひめは、意外な答えを口にした。

「いいえ、あにさまがおそばにいてくだされば、それで十分でございます」

 そして、彼女は頬を染め、青年に聞こえないぐらい小さく呟いた。

 ――あにさまがいなくなってしまうことが、たたにはとても恐ろしいのです。

 彼女は、自分を思い養ってくれている青年を、誰よりも何よりも、慕っていた。



「それじゃあ、行ってくるからな」

「はい。今日もお気をつけて、あにさま」

 今朝も、麓の村の屋敷に向かう青年を、握った杖を大きく振りながら見送るたたひめ。目の悪い彼女は、ぼんやりとした視界の中を、普段は杖をついて生活していた。青年がいる時は彼が手を引いてくれるのだが、いつもそうではないのだ。

 やがて彼の姿がかすれて見えなくなり、たたひめは寂しそうに杖を下ろした。

「……あにさま」

 いつも、たたひめはお留守番をしている。できることならば、後を追って、大好きな彼のそばで手伝いをしたい。そんな切ない胸中をおさえ、たたひめは首を振る。

「ううん。あにさまが安心して帰ってこれるおうちを用意するのが、たたのおやくめでございます」

 俯いてばかりでは、彼に心配をかけてしまう。たたひめは意気込むように頷き、踵を返した。

「たたも、がんばります」

 今日は、青年に頼まれた用事がある。以前に、やくたたずだと言われふさぎこむたたひめを気にして、彼が用意してくれたものだ。

 今朝は、屋敷から青年が貰って来た(もみ)を、脱穀するお仕事を頼まれた。本来なら脱穀機を使うものだが、日がな一日やることのないたたひめには、一粒一粒の籾をとる単純な作業でも、あにさまとの楽しい夕食を思えば何の苦痛でもなかった。

 縁側に青年が用意しておいてくれた籾の入ったざるの隣にちょこんと腰をおろし、たたひめは脱穀を始める。

 今日は天気が良く、山間から吹く緑香るそよ風があたたかい陽気に照らされた彼女の髪を揺らす。近くの木にとまった小鳥のさえずりが聞こえてくるが、たたひめは威嚇をするのも忘れない。せっかく脱穀した米を盗られては、あにさまに顔向けができない。

「――あにさま、あ~ん、してくださいませ。……え? おはずかしい? たたもはずかしくございますが、あにさまに食べてもらえるのなら……」

 などと、時折頬を染めてぼんやりすることもあるのだが、たたひめにとっては、あにさまを待つ間の至福のひとときであった。

 ――彼女が、来るまでは。


「……あにさま?」

 日が高く上った頃、ふいに聞こえた足音にたたは顔を上げた。

 いつもは夕刻にしか戻らない青年が、こんなに早く帰ってくるのだろうか? 近づいてくる足音につれて、たたひめの胸には徐々に不安が膨らんでいく。

「あ……あにさま?」

 もう一度、たたひめは人影に向かって呼びかける。いつも自分をからかう村の子どもたちなら、複数の足音で区別がつく。けれども今日は、それは一つ。やがてぼんやりとした視界でも分かるほど、近くに来たその人影は、ふいに言葉を発した。

「残念だったわねぇ、大好きな『あにさま』じゃなくて」

「――ッ!」

 その声に、たたひめはびくりと身をすくめる。それはたたひめよりも年上の、女性の声。

「村の子どもから聞いたわよォ、昨日もまた、『たたひめのおにさま』に助けてもらったんですってねー」

「……、うっ」

 たたひめは、その声が嫌いだった。一瞬にして、ぼやけた世界が色あせる。

「助けてもらえて、嬉しかった? 幸せだった? 愛おしかった?」

 相手はまるで小馬鹿にするように尋ねてくる。たたひめはぐっと口をつぐみ、答えない。

「……なに? やくたたずのたたひめが、この私に反抗する気? ……なまいきだわ」

 ぼそりと呟いた彼女は、歩幅を広げぐっとたたひめの目の前までやってきた。そして彼女の着物の襟もとを掴み、捻りあげる。その細腕ですら、小さく軽いたたひめは縁側から無理やり立たされる。息苦しさと、おしろいのきつい匂いに、たたひめは顔をしかめた。

「いいこと? やくたたずのアンタが、誰に断って、カレのそばにいられると思っているのかしら?」

「…………」

 たたひめは声を出そうにも、苦しくて息ができない。掴みあげられているため、正面から顔がそらせなかった。

「誰のおかげで、こうやって呑気に縁側であぐらをかいていられるのかしら?」

 彼女のすぐ間近は、本来なら、あにさま以外には譲らない、目の悪いたたにも良く見る事のできる距離。

しかし、今よく見えるその顔は、たたひめが一番苦手な相手だった。

「私が、カレを、お父様にお願いして、雇ってあげなければ、アンタなんてとっくに野垂れ死んでいるって、分かっているの、やくたたず?」

 押し黙るたたひめを、そうせせら笑った相手の名は――、おすず。

 彼女は、青年が通い奉公をしている屋敷の一人娘だった。

 時折青年から聞く話では、どうやらおすずは、屋敷でも仕事中の彼にべったりしているようで、雇い主の娘であるため無下にはできないと、彼が苦笑していたのを、たたひめは知っている。

「もっとも、カレがウチにいても、アンタはさっさと土の肥やしにでもなった方が、世のためなんじゃないかしら、くすくす」

 村の子どもたちのように馬鹿にする笑いよりも、もっと陰惨な微笑みを浮かべるおすず。

 たたひめはその理由を知っている。彼女は、青年に恋慕しているということを。だから、一緒に住んでいる自分が妬ましいのだと。そして実は、村の子どもたちを自分にけしかけているのも、彼女だということを。

「ほらぁ、何とか言ったらどうなの? いいのよ、暇でやくたたずなアンタの戯れ言ぐらい、いくらでも聞いてあげるから」

「…………」

 言いたくても、言えない。

 言ってしまえば、大好きなあにさまに迷惑がかかるかもしれない。

 だから、たたひめは黙って目をつむり、挑発にもじっと耐えた。

 瞼の裏で、頑張るあにさまの姿を見つめながら。


「――つまらないわね、泣くなりなんなりしないのかしら?」

 やがてたたひめの抵抗に飽きたおすずは、無造作に少女を縁側に放った。

「きゃうっ!」

 尻もちをついた痛みで悲鳴をあげるたたひめ。

「ふん、今日のところはこれぐらいにしておいてあげるわ。ホント、やくたたずはつまらないわね」

「げほっ、げほ……」

 締められていた苦しさでせき込むたたひめに、彼女は吐き捨てる。

「きっとほかのやくたたずだって、もう少しマシなんじゃないかしら?」

 そしておすずは、手を家の裏手に差し向ける。

「ほうら、見てごらんなさい、家の裏に、こんなに立派な畑があるんだから、くすくす」

 たたひめには見えず、そして誰も手入れをしていない荒れた畑を彼女がどうにもできないことを分かっていて、あえて嫌味を言うおすず。

「……ぅう」

 くやしげに俯き唇を噛むたたひめの姿に、ようやく満足がいったのか、おすずは頬に手を当ててにんまりと微笑む。

「それじゃあ、また来るわね…………ああ、そうだわ」

 立ち去ろうとしたおすずは、ふと思い出したように戻ってきた。

「アンタのお仕事、一つ、お手伝いをしてあげようかしら?」

「え?」

 その意図が分からず顔を上げたたたひめの脇を、風が凪ぐ。

「――ほら、これでいいでしょう?」

 ばしゃあっ! 

 それは、たたひめが今まで一粒一粒、あにさまのために脱穀していた米が、ざるごとぶちまけられる音だった。

「……え、え?」

 突然になにが起こったのか分からず戸惑うたた。

「くすくす、よかったわねぇー。やくたたずのアンタに任されたお仕事が、こーんなに増えたじゃない、アハハッ!」

 おすずはこれ以上ないぐらいに声高に笑って、呆然とするたたひめを尻目に今度こそ立ち去って行った。


 ――結局、暗くなって青年が戻ってくるまで、たたひめは散らばった米を半分もざるに戻すことができず、任されていた脱穀も終わらなかった。

 暗い部屋の中で這いつくばり、畳の上の米を一生賢明に探すたたひめに、何かあったのかと尋ねる青年に、彼女は謝ってから、

「……たたが良いお天気でおひるねをしてしまい、ねぼけてこぼしてしまったのでございます。たたひめのたたは、うたたねのたたでございます」

 と、健気に笑うのだった。



 ――さて、いつの頃からだったか。

 家の裏の荒れた畑から、ズズ、ズズズと何かを引きずる音が聞こえてくるようになったのは。

 幾度か、地鳴りのような音に目が覚めて、青年が見に行ってもその正体はわからない。しかし、朝になって見てみれば、手入れを全くしていなかった荒れ野から、およそ人の手では動かす事の出来ない木や岩が、日々少しずつ脇にどけられていた。そして掘り起こされた土には、至る所に青年の肩幅以上のものを引きずった跡が見て取れた。

「一体、何者が……」

 青年は不審な光景に、眉根をひそめた。

 もともと青年は、村の屋敷では、力仕事と併せて、用心棒を任されている。もっとも、用心棒とはいっても泥棒や野党を相手取るわけではなく……。

(どこぞの、物の怪の仕業か?)

 ――この乱世には、人間や動物の他に、異形の物の怪が跋扈している。多くは犬よりも小さく、人に危害を加えることも少ないのだが、中には悪鬼と呼ばれる好戦的なものや、格の高い物の怪の怒りを買った西方の村が、まるまる壊滅したという噂も青年は聞いた事がある。

 彼が通い奉公をしている村の屋敷も、これまで一度も物の怪に襲われた事はないのだが、そんな乱世の中で不安が募るのか、来るべきもしもの時のために彼を雇っているのだった。

(もっとも、『そんな時』になったら俺なぞひとひねりだろうがな)

 青年はそう思いつつも、自らが生き延びるために、日々、屋敷で時間の空いている時には剣技や武術の鍛錬を怠ってはいない。

「この業が、役に立つ時が来るのが、良いのか悪いのか……」

 青年は嘆息し、朝霧立つ中、家の中に戻った。

 日の上り具合から、いつもはそろそろ朝の支度をする頃だが――、

「たた、そろそろ起きるぞ」

 青年は、襖を開け、隣の部屋の窓板を外す。

「すうー、すうー、……うふふふ、……さま」

 射し込む朝日に照らされて、何の夢を見ているのか布団にくるまりながら気持ちよさそうに寝言をたてている少女。

 青年はその愛らしさに微笑みつつ、一抹の疑問が脳裏をよぎる。

 ――最近、たたひめは朝が遅い。

 床に入る時間はいつもと同じで、時には青年よりも早く起きて彼を起こしに来る事もある。しかし最近は、朝は青年が起こしてもなかなか目が覚めず、あさげの時もうつらうつらしている。彼が心配して尋ねてみても、

『大丈夫でございます、たたは、眠とうありませぬ』

 と、どこか誇らしげに言いながら、たたひめはみそしるを口の端から見事にこぼしていた。

(それに……)

 丸まった布団からのぞく、あらわになった彼女の腕。

 色白なたたひめの腕は、何故か、薄く土汚れがついていた。

 以前にも同じ事があり、尋ねても、昼間に汚したと返されてそれっきりはぐらかされてしまう。

 青年は、決して彼女の素行を疑うわけではなかったが、裏の畑の巨大な跡のこともある、もしも危険な事であれば自分が守ってやらねばと、決心するのであった。



 ――そして、次の晩。

 動物も草木も寝静まった頃、布団にくるまっていたたたひめは、ゆっくりと起き上がった。

 そのまま物音を立てないよう縁側まで這って行き、庭に立つ。

「……たたは、やくたたずではありませぬ」

 ぼんやりと見える夜月に向かって呟き――、少女は蛇になった。

 彼女の影が瞬く間に太く、縦に伸び、縁側に射し込んでいた月明かりを隠す。それは青年の腹ほどの幼女からは到底はかり知れない、巨大な姿。けれども、その肢体はまるで神聖な真白に覆われ、人の姿の頃の彼女の柔肌を思わせた。

『ジャアア――、コヨイも、アニさマノ……タめニ』

 巨大な蛇は、真っ赤な舌をちょろりと出しながら眼球を揺り動かす。

 その視線の先には、はっきりと「視えるようになった」月が、彼女の瞳と同じ色に爛々と輝いていた。

 

 ――少女は、物心ついた頃は蛇だった。

 身体も今ほどではないが、巨大で、山奥で動物を狩りながら日々暮らしていた。

 けれどもある晩、都から来たと言う人間によって、その生活は一変した。彼女の巨体をものともしない人間に、持っていた刀で何度も何度も斬りつけられ、完膚なきまでに叩きのめされた。やがて殺されると覚った彼女は、痛む身体を引きずって必死に逃げ延びて――、やがて気を失った。

 次に目が覚めた時には、彼女は人間になっていた。

 不思議とそれまでなかったはずの両手や足指の感覚もあった。

 ――だが、目がほとんど見えなくなっていた。

 何故か自分は、見た事もない場所に寝かされていることはわかった。後でそこは人間の部屋だと分かったが……、野山でしか暮らした事のなかった彼女は、知るはずもなかった。

 やがて部屋の襖が空き、自分に傷を負わせた者と同じ「人間」が、入ってきた。すぐに彼女は飛び起きて逃げようとしたが、まだうまく身体を動かすことはできない。布団の中でモゴモゴとしていると、その人間が枕元に座り、彼女の顔を覗き込んで声をかけてきた。

 それが、はじめて見た、彼の顔。

『――大丈夫、だったか?』

 そして、はじめて聞いた、彼の声だった。

 彼は「ちょっと、すまんな」と断ってから少女の首元に腕を入れ、ゆっくりと抱き起こす。身体が動かせない彼女はされるがままだったが、不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。

 ぼんやりとする見えない瞳でも、すぐ傍にいる彼の顔ははっきりと見え、蛇だった頃よりはだいぶ利かなくなった鼻でも彼のニオイは、あの自分を傷つけた危険な「人間」とは違うことがすぐにわかった。

『かゆを作ってはみたが、口に合うとよいが……』

 そう言って、彼は少女の口に何かを差し向ける。

 これまで見た事もなかったものだったが、うっすらと湯気の立つそのこうばしい香りに、少女は自然と口を開く。

 はじめて食べた「かゆ」は、とてもあたたかくて、しょっぱかった。

『……ん。…………う、うぅ』

『ど、どうした? 不味かったか?』

 ゆっくりと噛みしめる少女がふいに唸ったため、彼が慌てる。

 けれども、少女はふるふると首を振って否定したが、

『うぅ……ううう……』

 何故か、自分の目から出る雫を、止める事が出来なかった。

『――そ、そうだ、お前さんの名前を聞いていなかったな』

 焦ったように別の話題を口にした彼が、聞いてくる。

 ナマエ、それが何か少女にはわからなかったが、この胸の内にゆっくりと染みわたっていく感覚を、彼女は拙い言葉で口にした。

『……た、た』

「たた? そうか、たたと言うのか。それならば、今日からお前さんは『たたひめ』だな、良い名前だ」

 ニッと笑う彼の顔を見ていると、またその感覚が胸の奥に広がってゆく。

 それは、先ほど食べたものと、とてもよく似ていた――あ「たた」かい、ものだった。

 

 蛇に戻った、たたひめ。

 最初は、おすずに言われた畑仕事を、どうにかしてやろうと夜に家を抜け出し、荒れた畑に転がる大岩に手をついて唸って見たが当然びくともしない。けれども諦めきれず、月が傾くまで土まみれになりながらうんうんと唸っていると、ふいに――、ゴロリと岩が動いた。

 そうして気がつけば、自分は蛇の姿に戻っていた。

 それからは、たたひめは自分の意思で蛇の姿に戻る事ができるようになり、毎晩のように畑の整地をはじめる。本当なら青年のいない昼間の内にもやりたいのだが、何故かいくら頑張っても日が昇っている時には蛇になる事ができなかった。

 もっとも、たたひめは本来の蛇の姿が、あまり好きではなくなっていた。

 その姿になれば力は桁違いにつくし、身体の動かし方も慣れたものだ。けれども、蛇の姿に戻る度に、かつて自分を傷つけた人間の殺意が蘇り、どうしようもなく心細くなる。

 それに何より、あにさまと同じ人間でなくなることが、たたひめには嫌だった。

(良い事と言えば……)

 たたひめは、蛇の鎌首をゆらりと家の窓に近づける。

 窓板の間からのぞく部屋の中では、青年が布団に横になっていた。

 普段は目が悪く、すぐ傍にいかなければ見られないあにさまの姿。それが蛇の姿であれば、いつでも見られる事が、何よりの利点だった。

 しばらくそうしてあにさまの寝顔を堪能したたたは、本来の用事を思い出して畑へと向かった。

 

 窓をふさいでいた影が這う音と共に消え、月明かりが戻った部屋の中で――、青年がゆっくりと起き上がった事に気がつかずに。

 


 ――今晩こそは、その正体を突き止めてやる。

 自分たちに害をなす物の怪であるならば、どれほどの相手だろうが退治してくれよう、そう青年は決心し、おかしな物音がすればすぐに飛び起きて抜けるよう、刀を抱えたまま布団に横になっていた。

 それがまさか、守るべきはずの少女だったとは。

 襖を隔てた隣の部屋で物音がした時にはよもやと思った青年が、そっと庭を覗いていると、そこでは月明かりに照らされたたたが、巨大な白蛇に姿を変えるところであった。

 やがてその大蛇が自分の部屋に顔を近づけたため、咄嗟に布団をかぶり寝たふりをした青年。相手は物の怪であるはずなのに、刀身は鞘の中で眠ったままだった。


 裏の畑から、ズズ、ズズズと蛇がその巨体を引きずり、地をならしている音が聞こえてくる。

 蛇がのぞいていた窓からは、銀の月明かりが差し込み、刀を脇に置いた青年の姿を照らしだす。

 見る者を震えあがらせる金色の眼球、鈍く鋭い双の牙、人間など一飲みにしてしまうほどの巨体。

 ――すべてを見ていた彼の心は、しかしまるで波一つない水面のように穏やかであった。

「そうか、たたは……」

 山中での、傷ついた彼女との不可思議な出会い。どこか浮世離れしていたその言動。

 これまで青年が抱いていたものが、氷解した気分だった。

 蛇の化身であった彼女の過去が、どうあったかは分らない。もしかすると神聖なる存在だったかもしれないし、はたまた、人を喰い、村を呑みこんだ忌むべき物の怪かもしれない。

 けれども青年にとっては、そんな些末なことなど大して意味はなかった。

 そっと縁側に出た彼は、たたに気づかれないよう裏の畑を覗く。ただ、青年のそれは危惧に終わる。

 そこでは、巨体な蛇が真白なその肢体が土で汚れるのもいとわず一心不乱に、岩をおしのけ、倒木を転がし、畑の峰を作るように地をならしていた。

「そういえば……」

 青年は少し前の夕食の時にした、たたひめとの会話をふと思い出す。

『――あにさま、お聞きしたい事があります』

『何だ、たた?』

『はい。裏の畑は、どうして荒れているのでございますか?』

『どうしてって……、耕していないからだが。まあ俺もこの家に住みはじめた頃には、どうにかならないもんかと思ったが、奉公勤めではどうにもな』

『そうでございますか……。では、畑を耕すというのはどういった――』

 たわいもないやりとり。

 蛇の化身と分かった今でこそ理解できるが、青年と会ったばかりの頃のたたひめは、まるで城の姫のように人としての生活を知らなかった。

 一人ではろくに着物も着る事すらできなかった彼女は、しかし自身でもそれを克服しようと、好奇心旺盛に青年によく物事を尋ねていた。

 あの晩に畑仕事について熱心に尋ねていたのも、そんな問いの一つだと、青年は考えていたのだが――。

 思い返せば、その頃から夜中の物音が聞こえはじめていた気がした。

「たた……」

 ――大丈夫でございます、たたは、眠とうありませぬ。

 寝ぼけ眼でそう誇らしげに言っていた少女の言葉が蘇る。

 純心で、無垢なたたひめ。

 青年にとっては、彼女が蛇の化身だろうが、何だろうが、関係はなかった。

「……お前は本当に、やくたたずなどではないぞ」

 一生懸命に畑を耕している大蛇にそう呟き、青年は床に戻った。



 ――それからしばらく経った、ある日のこと。

「たた、帰ったぞ」

「お帰りなさいませ、あにさま」

 いつもの夕暮れ時、出迎えた少女に、青年は懐から取り出した子袋を渡した。

「? これは、何でございますか、あにさま?」

「ああ、開けてごらん」

 不思議そうに首を傾げるたたが、袋の口を開けて手のひらにかざしてみると、ぱらぱらと数粒の小さな塊がこぼれ出た。

「これは……、種?」

 米粒よりは大きな、縦じまのあるそれを目の前に掲げて見つめる少女に、青年は言う。

「ああ、このあたりでは見ない花だぞ? 今日な、村に来ていた行商人から買ったものだ」

「急に種なぞ、どうしたのですか?」

 彼らの生活は決して裕福ではない。ましてや、花の種を買うなら生活に必要なものを手に入れた方がまだましだと、たたひめでも思う。けれども青年は、そんな困った顔をする彼女に顔の高さを合わせ、髪を撫でながら照れくさそうに微笑んだ。

「いやな、思えばお前にあまり女らしい贅沢をさせられてやれていないから。本当なら綺麗な着物やかんざしを買ってやりたかったんだが、すまんな」

「え……でも、あにさま……そんな、たたは……」

 青年の心遣いに、たたひめは顔を赤くしながらさらに困った顔をしてしまう。

「それに、咲いた花も並んでいたが、お前には、それがちょうどよいと思ってな」

そしてさらに、彼は少女を驚かせる事を言った。

「……嬉しい事に、『誰か』が家の裏の畑を耕してくれたんでな、たたよ、お前その種を畑にまいたらどうだ?」

「え、え?」

「その花はな、育てるのにそれほど手のかからないものだが、当然放っておいたら枯れてしまうぞ? せっかく買って来たんだ、お前には、毎日水やりの仕事を頼みたい」

「水やりの……おしごと」

 たたひめは、青年が畑の事を知っていたことにも驚いたが、思いがけない依頼に、胸の奥から恐いような嬉しいような、不思議な想いが湧きだすのを感じた。

「植えるのは、せっかくだから一緒にやろう。ただし、花が咲くまでの手入れは……たた、お前にかかっているからな、頑張れよ」

「――はい、はいっ、あにさま! たたは、りっぱな花を咲かせてみせます、がんばります!!」

 目を輝かせ、青年から貰った種を大事そうに胸に抱きしめるたたひめ。その様子を青年は微笑ましそうに眺めて、頷く。

「よし、では今日はもう遅い。明日の朝にでも植えるか」

「はい、あにさま。たたは、今晩はぐっすり寝て早起きいたしますから」

「今晩は? ならたたよ、いつもはきちんと寝ていないのか?」

「はうっ、い、いいえ! 今晩は特にぐっすり眠るのです、あにさまこそ、寝坊してしまわぬよう、お気をつけてくだされ!」

「ははっ、精進しておこうかね。それでは夕食にしよう、もう俺も腹が減ってな」

 慌てて取り繕うたたひめ。青年に促され、家に戻りながらふと振り返る。

「……そういえばあにさま、この種は、何の花が咲くのでしょうか?」

「ああ、……いや、それは言わないでおこう」

 どうして、と首を傾げるたたひめの髪を、青年は優しくぽすん、と手のひらで叩き、言う。

「花を贈るというのはな、己の気持ちや願いを贈るものだ」

「きもち、ねがい……」

「だからな、俺はお前に種を贈った。それをたた、お前が見事に咲かせた時、きっとその花は、お前の『もの』になる。俺もこんな生き様だ、贈り物なんぞしたこともされたこともなかったからな。――たたよ、見事に咲いた花と並ぶお前の姿を、見せてくれ」

「あにさま……」

「まあその時にでも、名前を教えてやるから、今は、ひみつだ」

そう言って照れくさそうに顔を逸らす青年を、たたひめは見上げて、

「――はい、ひみつでございますね。ふふっ、あにさま、ありがとうございます」

 彼の腕にぎゅっと抱きついた。


 次の朝、二人は日の出と共に畑に行き、耕された隅に種を植えた。

 それからというもの、たたひめは毎日毎日欠かさず、畑に足を運び、水やりをするようになった。

 まだ何も出ていないうちから、日がな一日、畑のそばの石に腰かけ、土を見つめて微笑むたたひめ。やがて小さな緑の芽が顔を出し、少しずつ茎が伸び、新たな葉が生えてくる、その様子を夕食の時に、青年に事細やかに話すのが、彼女の楽しみになった。

「今日は、せっかく生えた葉を、なんと、あおい虫が食べてしまっていたのでございます……」

 そう告げながらじわりと涙ぐむ彼女に、青年はつい吹き出してしまいひんしゅくを買うこともあったが、彼は、これでよかったと心の中でいつも安堵していた。

 ――たたひめは知る由もなかったが、実際のところ、彼女の耕した畑は、農耕をするには使い物にならなかった。

 岩をどかしたり木をこそぎ取ったりしてはいたが、それだけではまだ、ただの土がむき出しになった荒れ地である。もともと痩せてしまっていた土地だったこともあり、畑としての役割をそろえてはいなかった。そのため青年は、目の悪い彼女にもできるよう手間のかかる作物を避け、また特に土がこなれていた一部だけを使えるよう、少量の種を見繕った。

「どうして笑うのですか、あにさま!」

 そんな、彼の考えなぞ露知らず、自分で耕した畑に、自分で植えた種を、自分で育てているたたひめは、むくれながら文句を言っている。

「いやいや、すまんな。たたよ、虫にも負けず、見事な花を咲かせてくれよ、ぷっ」

「うむー、どうしてやっぱり笑うのですか! ゆるしませぬ、ゆるしませぬぞー!」

 ぷんすかと怒りだすたたひめを見ながら、青年はもう一度、よかったと頷いた。


 ――しかし、彼らの平穏な日々に、影が足音をしのばせ、少しずつ近づきはじめていた。



 それは、森の木々から蝉の声が聞こえはじめた頃――。

「元気に育って~、あにさまと、たたのお花~」

 どこか音の外れた歌をうたうたたひめの世話で、花もすくすくと育ち、今では彼女の背丈ほどにもなっていた。

「もう、そこまで大きくなっては、たたの手が届きませぬぞ!」

 まるで我が子を叱るように言いながら、背伸びをして手を伸ばし、数本並び伸びつつある花の端から、水の入った鉢からちょろちょろと水をかけるたたひめ。その茎の先には、黄色のつぼみが天に向かって開こうとしていた。

「ふふ~、もう少しで、咲きそうです」

 初夏の日差しに映える水玉の乗るつぼみを、伸ばした指でなぞりながら、たたは微笑む。

「きれいなお顔を、たたに見せてくださいませ~」

 大きく花開いたそれを、あにさまと愛でる日を想像しながら、彼女が隣のつぼみにも手を伸ばそうとした、その時――


「あらァ、うっかり手が滑ってしまったわ」


「え――?」

 バシッ、と鋭い風切り音と共に、何かが叩き折られる音がした。

「え、え……」

 たたひめは手を伸ばしたまま固まる。

「な……い、あれ……? お花……は?」

 伸ばした指の先が、空を掴む。

「たたの……、おはな。あに……さまの、お花が――」

 ふるふると震える腕が下がり、ようやく茎を掴む。

 ――真中から、真っ二つに叩き折られた、茎の先を。

「くすくす、ごめんなさいねぇ~」

 そんな彼女の仕草をあざ笑うかのように届いた女性の声が、たたひめの顔を上げさせる。

「せっかくここまで大きく育てたのに、私ったら、どこかのやくたたずぐらい、ドジよね~」

「あ……う」

 いつの間に来ていたのか。

 ならされた土の上に立っていたのは、屋敷の娘、おすずだった。

「やぁね、カレからアンタが花を育てているって聞いたものだから、せっかくなら私も見てみようと思ってねぇ」

 立ち尽くすたたひめの目の前で、にやにやと笑うおすず。その手には、そばの岩に立てかけてあった、少女がいつも使っている杖が握られていた。

「それ……たたの……」

「ああ、この棒っきれ? ……ええ、そうよ」

 指摘を受けたおすずは、少し考えてから口を開く。

「いつも目が見えないからあっちへ転んで、こっちへ転んでいるやくたたずが、身の程をわきまえずに杖もつかないで畑なんてやっているもの。私もね、とっても心配して、杖を渡そうと思ったらァ~あら不思議。手が滑っちゃって……もう、そんなにコワイ顔しないでちょうだい。くすくす、ごめんなさいねぇ」

 どうやら彼女は、その杖を叩きつけて茎を折ったようだった。悪びれもせず平謝りをするおすずに、たたは溢れだす涙をこらえ、きゅっと唇を噛む。

「どう……して」

「でもねこんなにあるんだもの、一本ぐらい――え?」

「どうして?」

「……なにが?」

 たたは、胸に渦巻く感情を堪え切れず、口を開く。

「どうして、こんなことができるのですか?」

 少女には、わからなかった。

「どうして、あなたは……、こんなひどいことができるのですか?」

「…………」

 かつて自分を襲った人間は、自分が仇敵の蛇だったから。時折やってきて、からかう村の子どもたちは、自分がやくたたずだから。そして目の前の女性は、自分が恋敵だから。

 けれども、無垢な少女にはわからなかった。

「あなただって、同じ人間なのに、」

 こうも、違うのだろうか。

「――あにさまと同じ、人間なのに!」

 やさしいあにさまの微笑みが浮かぶ。あたたかいあにさまのぬくもりが蘇る。

「何が違うのですか、たたのあにさまと、何が違うというのですか!?」

 少女は、人間が好きだった。

 否、人間が好きになっていた。

 鳴き声とは違う、人間が使う事のできる言葉、目には見えないけれど、そこにある心というモノ、そして、その心が生む、――慕う、という気持ち。

 すべて、人間が与えてくれた。

 すべて、青年が与えてくれた。

「どうして、どうしてえっ!」

 だから彼女は問う。

 あにさまと同じ、そして自分と同じ、人間に問う。

「あにさまは、こんなことをしない! 人間は、こんなことをしないっ!!」

 純真な叫びは、

「……さい」

「え……」

 ――しかし、届かなかった。

「――るっさい! うるさいうるさい、うるさいったらないわッ!!」

 その怒声に混じり、バシッと再び鋭い音が鳴る。隣にあった無事だったつぼみが、無残に散った。

「あにさま? ねえ、誰のあにさま? あにさまあにさま……、うるさいって……言ってるのが、わからないのこのやくたたずッ!」

「ひうっ!」

 それは怯えるたたひめの叫びをかき消すほど、強く、どす黒い感情。

 そしてまるで呼応するかのように、先ほどまでは晴れ渡っていた夏空に、陰りが差しはじめる。

「さっきから聞いていれば、あにさまあにさま! カレがいつやくたたずのあにさまになったっていうの!? ぽっと出のやくたたずが、誰に断ってカレをアンタのものにしてるのって、聞いてるのよ!」

「ひ……ぅ」

 おすずは、かつて蛇だった自分を襲った人間ほど、強いわけではない。ただ金切り声で叫び、感情をたたひめにぶつけているだけ。けれどもその存在は、かつて覚えた恐怖と同等に、おそろしかった。

「……私はね、ずっと前、カレがはじめて屋敷に来た時から、知っているの。戦場で体も心も傷ついたカレを、看病したのは私。この家と場所を与えたのも私……」

 青年から聞いた事がある。たたひめが彼に拾われる以前、戦場を点々としていた青年が、屋敷で養ってもらっていたことを。その恩から、青年は今でも屋敷に奉公していることを。

「それを……何? こんな――、こんな――ッ!」

 おすずはぎりりと杖を握りしめ、立ち並んでいた茎を次々に叩き折っていく。

「あ……あ、や……やめ、て……、それは、たたと、あにさ――きゃうっ!?」

 弱々しくも止めようとしたたたひめ。しかし、おすずにドンッと突き飛ばされ、尻もちをつく。そのまま、肩を怒らせるおすずは、少女のそばに立ち、見下す。たたひめは曇天の空を背に降り落ちる感情に怯え、震えるばかり。

「はあっ、はあ……、拾われたやくたたずの分際で、あにさまあにさま? ……誰が、私のカレを、奪っていいって、言ったのかしらァ?」

 そして持っていた杖を振り上げ、尖った先端をたたひめの顔に向け――

「ひっ!」

 ぎゅっと目をつむるたたひめの耳元で、杖先が突き刺さる音が聞こえた。

「ぅう……、」

 おそるおそる瞼を開けるたたひめ。杖先はわずかに彼女の顔をそれ、地面に突き立っていた。

「……そうね」

 倒れる少女の上に跨り、怯えるたたひめを見下していたおすずは、そう呟き、

「やくたたずなアンタに、教えてアゲルわ」

 暗い顔をスッと彼女の耳元に寄せ、囁いた。

「――私は、憎いの。アンタが。いっそのこと、殺してしまいたいほど、憎いのよ」

 そうしておすずは、憎悪のこもった眼差しをもう一度たたひめにぶつけて、立ち去って行った。

 

 やがて、ぽつり、ぽつりと、黒くなった空から雫がこぼれ落ちてくる。冷たい雨粒は、たたひめの頬も、着物も濡らしていく。

 ――憎い。

 その感情が、少女の問うた答えだと知るまで、たたひめはぼんやりとしたまま、雨に打たれ続けていた。



 それから三日三晩、たたひめは床に伏していた。

 雨が降りしきる夕方、青年が帰ってみると、家の中に少女の姿はない。

 探し回った青年が畑に辿りついた時、見たものは……。

「たた……おい、たたっ!」

 土の上に泥まみれになりながらぐったりと倒れる、たたひめの姿だった。

「たた、大丈夫か!?」

「あ……に、さ……」

 うっすらと瞼を開け、呟くたたひめ。その眦から、泥にまみれた雨粒とともに、雫がこぼれ落ちる。

「もうしわ……け、あり……せ、ん。あ……にさ、ま……、も、う……しわ……」

 うなされるように途切れ途切れに謝り続ける少女。

 そしてそのまわりの不自然に盛られた土の端々からは、青年に見つかるまいと彼女が必死に土の中に隠そうとした、折れた茎の端がのぞいていた――。



「たたよ、かゆ、食うか?」

「…………いりませぬ」

 そう言って、布団を目元まで引き寄せる少女に、青年は小さくため息をついた。

 ――たたひめは三日三晩もの間眠り続けた。その間、青年は特別に休みをもらい看病していたのだが……。

 今は、四日目の夕暮れ。

 青年は目を覚ましたたたひめの病状を心配しながらも、生活のために屋敷へ奉公に行ったその晩のこと。

「食べたいものはあるか? 今日はふもとの村から卵を貰って来たぞ」

「…………たたは蛇ではございませぬゆえ、たまごなぞ、のどを通りませぬ」

 たたひめは、ようやく目を覚ましたかと思えば、布団から出ようとせず、ずっとこの調子だった。

 青年が話しかけるときちんと答えていることから塞ぎ込んでいるわけではないのだが、こんなに投げやりな態度は、これまで一度もなかった。原因はおそらく数日前の畑での事だろうと青年は察していたが、

「なあたたよ、一体何が――」

「なにもありませぬ。たたは、畑の花なぞ見たことも聞いたこともありませぬ」

「そうか……はぁ」

 と、彼がさじを投げ出すほど頑なに口を割らなかった。結局、畑に植えてあった花は全て折られており、つぼみが日の目を見る事はなかった。青年はそれを残念に思う反面、一体たたひめに何があったのか、不安に思う気持ちが強くなる。

「たたよ、お前、まだどこか具合が悪いのか?」

 あの晩、畑に倒れていたたたひめは熱を出していた。彼女のために青年は医者を呼ぶことも考えたが、たたひめの正体を知っている彼は、迷った挙句、自分で看病する事にしたのだ。しかしそれが今、裏目に出ているのかもしれなかった。

 揺らめくろうそくの明かりに浮かぶ少女の横顔には、どこか暗い陰が落ちていた。

「なあ、別に俺は怒っているわけでも、責めているわけでもない。お前が心配なんだ。具合が悪いのなら、すぐにでも医者に――」

「……胸が、うずくのです」

「連れて……ん、胸が?」

 ぼそりと呟いたたたひめの声に、青年は耳を傾ける。

「はい。まるで熱にいぶられるように、じりじり、じりじりと、胸が黒く焦げていくのでございます。今にでも自分のこころを吐き出してしまえば楽になれるものを、その焦げは、たたののどにつかえて、出ようとしないのでございます」

「焦げ……か」

 久しぶりにここまで長く話したたたひめは、疲れたように長いため息を吐く。それを横目に、青年は唸り腕を組んだ。

「……きっと、あにさまが心配するほど悪い病ではありませぬ」

「何を言っている、現にお前はこうして床に伏しているではないか」

「それでもたたは、大丈夫でございます。明日には、元気なたたに戻っています」

「…………」

 それがやせ我慢なのか、強がりなのかは青年にはわからない。

「……あにさま、それでは、たたが楽になれるよう、何か楽しい話をしてくださいませ」

「楽しい話?」

「はい。たたの嫌な焦げは、夢の中にも出てくるのでございます。ですから、あにさまの楽しい話を胸一杯にしまって、楽しい夢見をすれば、きっと焦げなぞ及びませぬゆえ」

 そう言って弱々しく微笑むたた。青年は深く息を吐いて、彼女の額に張り付いた髪を手のひらで拭ってやってから、そうか、とだけ答えた。

「あにさま、今日は、何をしてこられたのですか? たたはあまり村にはいきませぬ。今日あった楽しい話を、聞かせてくださいませ」

 彼女の世界は、この家と、裏の畑と、これまで暮らして来た山の中だけだった。時折、青年が話してくれる村での出来事、行商人の話、開かれた市の様子は、たたひめにとって新鮮で、楽しいものだった。

「今日の話か……、そうだな、ああそういえば今朝、村に行く道中でな――」

 やがて青年も顔色を変えて、身振り手振りを交え、今日あった事を面白おかしく話しはじめた。しばらく話していると、少し調子が戻ったのか、相槌を打ちながら時折くすりと笑うたたひめ。そんな彼女の様子に、青年は心の中でわずかに安堵しながら、続きを話す。

 そして屋敷の話題に移った時、青年はふと思い出して――言ってしまった。

「そうそう、今日な、おすずにも驚かされたぞ」

 その名を出した瞬間、ぴくりと、たたひめが反応したことを、青年は気づかなかった。

「……何に、驚かされたのですか?」

「ああ、これまでもよく声をかけてきたおすずがな、今日は一段とめかしこんでいてな」

 彼の口元をじっと見つめるたたひめ。てっきり、話の続きを心待ちにしているのだと勘違いした青年は、つい、口に出してしまった。

「いやな、仕事中急に呼び出されて何事かと思ったら――夫婦の契りを結んでくれと、迫られたんだ」

「めお……と?」

 本能からだろうか、夫婦という言葉を知らないたたの胸が、ざわりと揺らめく。

「ん、まだお前には早いかもしれないが、要はもっと仲良くする約束を結べと、言ってきたわけだ」

「…………それは、たたと、あにさまよりも、でございますか?」

「む……ん、まあ、場合によっては、だろうな」

 ぎしり、と確かに彼女には聞こえた。自分の胸の奥で、黒い焦げが一斉に広がり、固まるのを。

「ふ……ふふ」

「でもまあ、おすずには悪いが俺には――、ん、たた?」

 続きを口にしようとした青年だったが、ふと、彼女の様子がおかしい事に気づく。

「ふふふ……さようでございますか」

「たた? お前、一体……」

 青年の心配する声をよそに、静かに笑いながら、ゆっくりと起き上がるたたひめ。

「ねえ、あにさま。たたには、わかりました。わかってしまいました」

「分かった? 何を――」

「人間とは、このようなものなのでございますね」

 ようやく彼女は理解した。数日前、自分に向けられた、あのどす黒い感情の正体を。

「あにさま」

「……何だ、たた」

「もう、たたは大丈夫でございます。胸の焦げも、喉のつかえもとれました」

「取れたってお前――」

「そろそろたたは寝ます。あにさま、ありがとうございました」

 ぺこりとお辞儀をして、ふたたび横になるたたひめを、青年は不安げに見つめていた。

「……これで、たたは、たのしい夢見ができます」


 その晩、少女は楽しい夢を見た。

 自分の身体が、風のように軽くなり、村まで飛んで行ける夢。

 大きな屋敷に舞い降り、屋根も壁もすり抜け、一人の人間の床に立つ夢。

 自分の知らなかった感情を、教えてくれた人間。

 ――憎い。

 自分にはあんなひどい仕打ちをしておきながら、のうのうとあにさまとメオトになろうとする女。

 ――憎い、憎い。

 胸の内を焦がす黒い塊が、今ではとても力強く、自分を後押ししてくれる。

 ――憎い、憎い、憎い。

 寝息をたてる人間の首に、ゆっくりと手が伸びる。

 ――憎い、憎い、憎い、憎い。

 その手は真白く、鱗の付いた――蛇の肢体だった。

 ――ああ、憎い。

『イッたイ、ダれに断っテ、たたのアニさマを、ウバうノで、ゴザいマスか?』

 少女は、楽しい夢を見た。

 楽しい楽しい、夢を見た。



「……ん」

 ふと、たたひめは目を覚ました。

 窓からは、鳥の声と共に朝日が差しこんでいる。

「う、……ん」

 ゆっくりと起き上がる。つい先ほどまで、どんな夢を見ていたのかは思い出せないが、何か憑き物が落ちたように、身体が軽かった。寝汗をかいたのか、着物の背はべったりと湿っている。

「ん、む?」

 たたひめは、すんと鼻をひくつかせる。何か良い香りが漂っていた。

「あ……」

 見れば、枕元に蓋のついた小ぶりの鉢が置かれていた。手に取ってみれば、それはかゆだった。まだ作りたてなのか、朝のひんやりとした空気に湯気の立ち上るかゆ。白く輝く米粒に、溶き卵の黄金色が絡めてあった。

「……あにさま」

 もう日の出はとうに過ぎており、青年は出かけた様子。ただ、寝込むたたひめにかゆを用意してくれていたのだ。

 昨日まではあれほど何も食べたくないと思っていたたたひめの腹が鳴る。そろそろと添えてあったさじを手に取り、口に運んだ。

「…………」

 なぜだろうか。少女は俯く。

 あにさまがせっかく作ってくれた卵がゆが、今は――おいしくはなかった。


 夕方、帰ってきた青年は、彼女が元気になった事を大いに喜んでくれた。照れて笑い返すたたひめだったが、手放して嬉しい、と言えないしこりが、胸の奥に残っていた。黒い焦げとは違う、時折胸をきゅっと締めるような痛みは、しばらく続いた。

 ――そんな、ある日のこと。

「そういえば、あのおすずがな、原因の判らぬ病床に伏しているそうだ」

 たたひめは、奉公から帰った青年の口から驚きの事実を聞かされた。

 思えば、たたひめが寝込んでからというもの、頻繁にあった村の子どもたちのいやがらせも、おすず自身がやってきて何かしてくることもなくなっていた。

 理由を尋ねるたたひめに、青年は聞いた話を口にする。

「俺もここ数日、屋敷でおすずには会っていないんだが、それが、奥の座敷に匿われているらしい。なんでも、憑き病というそうだから、時折、祈祷師やら坊さんやらが出入りしているのを見たが……」

 たたひめが聞くと、憑き病についても教えてくれた。

「身体のあちこちに痣のようなものができてな、病と名はあるが病気ではなく、呪いや祟りの類なんだそうだ」

「のろい……たた、り」

 人を恨めしいと思う気持ち、憎らしいと思う気持ち。それが原因だと告げられた時、たたひめの胸の奥にあったしこりが、ふいに痛んだ。

「このままでは、もう長くはないかもしれぬと、屋敷の者も噂している。俺も随分と世話になったから、心配なのだが。どうにもな……」

 重くため息をつく青年。

「あにさま……」

 たたひめは、薄々気づいていた。

 その病の原因が、自分にあるのではないかと。

 あの夢に出てきた人間は、おすずに違いなかった。

 自分は、知らぬ間に彼女に、祟りをかけていたのだ。

(そんなつもりでは……たたは、そんなつもりでは……)

 確かに、おすずは嫌いだった。それは今でも変わらない。

 けれども、彼女を苦しませるつもりはなかった。ひどいことをするつもりではなかった。

「ん、どうした、たた?」

 俯く彼女の様子に、心配そうに青年は声をかけてくる。

「あ……あにさま、たたは……べつに……」

 しかし、彼女の唇はなかなか開かない。

「……たた?」

 何も知らず、顔を覗き込むあにさま。その心配している気持ちが、痛いほど伝わってくる。

 けれどだからこそ、たたひめの口は動いてはくれない。

 ――もしも、自分が原因だと告げた時、あにさまに嫌われてしまうのではないか。

 そんな恐怖にも似た想いが、少女の唇を重く閉ざしていた。

(もしも、あにさまに嫌われたら……)

 かつて自分を襲った人間の殺意を思い出す。

 それが、目の前の青年から一瞬でも向けられたら、自分は……それだけで死んでしまう。

 できることならばおすずに謝りたい、けれども、あにさまには絶対に、嫌われたくない。

 相反する感情がぐるぐるとたたひめの胸中を渦巻いていた、……そんな時、ふいに青年が口を開いた。

「――おお、そういえば今日は、お前に土産があったんだ」

「え……? おみや、げ?」

 ああ、と頷いて一度外に出る青年。そしてすぐに戻ってきた彼の手には――、一輪の花が握られていた。

「今日、以前に種を買った行商人がまた来ていてな、もう季節柄だ、今度は並んでいた花を買ってきたぞ」

「それは、なんのお花でございますか?」

 青年がたたひめにも見えるよう、差しだしてくれた花。たった一輪だったが、その茎は太く長く、そして先にはたたひめの顔ほどもある黄金色の花が咲いていた。

「――これはな、向日葵だ」

「ひま、わり」

 聞き覚えのない名だった。けれども、どこか見覚えがある。

「そうだ、以前にお前が育てていた種は、この花になるんだぞ」

「えっ、あ……」

 一瞬だけ、畑に並んでいた花達の手折れた姿がよぎる。言われてみれば、茎や葉の形がよく似ていた。

「まあ畑の花はなくなったが、せっかくだ、たたよ、受け取ってくれるか?」

「はい……でも」

 こんな時に自分が受け取っていいものなのだろうか、迷うたたひめに青年は小さく息を吐いてから、続ける。

「本当は、花をお前が咲かせた時に伝えようと思っていたんだが……覚えているか?」

「この花が、あにさまの想い、でございますか?」

以前に青年とした会話を思い出し、尋ねるたたひめ。

「ああそうだ。実はな、花を売っていた行商人から聞いたのだが、花にはそれぞれ、『言葉』がかけられているそうだ」

「ことば?」

 頷く青年は丁寧に説明してくれる。

「花を贈るというのは、己の気持ちを伝えるというのは、話したな。もちろん、贈るそれがどんな花でも構わないというわけではない。それぞれ違う色、違う形をしている花は、その見た目かたちになぞらえて、一つ一つに贈る言葉がかけられているんだ」

 それを聞いて、たたひめは青年の持っている向日葵を見る。黄金色の花びらは、大きく手を伸ばすように開き、たった一輪でも眩しく、これが陽の光を浴びたらどんなに美しいかと、思ってしまう。

「それでな、この向日葵には、こんな言葉がかけられている――」

 青年は少しだけ気恥ずかしそうに咳払いをした後、教えてくれた。

 ――いつまでも、笑顔で。

「えがお……笑うので、ございますか?」

 尋ねるたたひめに、青年は困ったように笑ってから口を開く。

「まあそれもそうなのだが、この『笑顔』というのは、多分別の意味だろう」

「別の?」

「たたよ、お前は泣き虫だな」

「――っ!!」

 いきなりずばりと指摘されて、一瞬たたひめの目が潤んだ。

「きゅ、急に何を申されるのでございますか。あにさまといえど、あまりひどい事を口にされると、たたは怒ってしまいますぞ!」

ハッとしてむくれるたたひめ。それを見てにんまりと笑みを浮かべる青年。

「まあまあ、別に泣くのはいいとしてだな」

「よくはありませぬ、よくはありませぬぞ!」

 糾弾を聞かぬふりをして、青年は口を開く。

「たたよ、お前には、ずっと笑顔でいてもらいたいのだ」

「……む、む? どういう意味でございますか?」

「人間はな、時に泣いたり、怒ったり、落ち込んだり、それに他の人間を憎らしいと思ったりする生き物だ」

「――っ」

 まるで的を得た言葉に、たたひめは鼻じろぐ。それを意図してか知らずか、青年は続ける。

「……俺はな、昔、そうだな、お前と同じぐらいの歳で、はじめて人を憎んだ」

「あにさま……も?」

「ああ。貧しさにわけもわからぬ日々を送り、その日を生きるために物を奪い、盗み、時には相手を傷つけもした。そこでふと、思ったんだ。……これは、誰のせいだってな」

 静かに語る青年。たたひめは、知らなかった彼の過去に驚きながらも聞き入る。

「神か? 仏か? それとも物の怪か? いいや、俺が憎んだのは……、俺を生んだ親だ」

「おや……」

 蛇として生まれた少女は知らない響き。けれども以前に、家族という存在を青年から聞いた事はあった。

 親が子をうみ、子がやがて大人になって、また子を為す。それが遥か昔から続く命の繋がりであり、すべての生きものに在る絆だと。

「俺がこうして酷い生活を送っているのは、俺をこの世に生みやがった親のせいだと。そして年端もいかぬうちに俺を捨てて、どこかに消えちまった親のせいだと。村や町で手を繋いで歩く親子を見る度に。強く強く、憎んだ」

 青年は、その絆ゆえに、人間を憎悪した。

「やがて俺は、その苦しみから逃れようとして、戦場に出た。あそこは、何も考えなくて済む。何か考えていたら、次は自分の首が飛ぶ場所だったからな」

 たたひめは、あまり青年から戦の話を聞く事はない。ただ、恐い場所だと言われていただけだった。

「そしてそんな生き方にも疲れきって、ある時世話になったのが、村の屋敷だ」

 おすずが言っていた頃の話だろう、たたひめは静かに頷く。

「ただな、そこでも俺は、おすずや、屋敷の者にあたたかく迎えられる度に、辛かった」

「どうしてで、ございますか?」

「俺が……、奪って、傷つけて、腹を痛めて生んだ親を憎んで、戦場で数え切れぬほど人を斬った俺が、こんな場所でのうのうと生きていてもいいのか、と思ったんだ」

「それは――」

 その思いに、たたひめは似たような感情の覚えがあった。

「俺はな、きっと自分がやくたたずだと、思っていたんだ」

「やくたたず……」

 その言葉は、何よりたたひめがよく知っているものだった。

「ああ。こんなごくつぶしのやくたたずは、さっさと死んだ方が、世のためだと、何度も思ったよ」

「そんな! あにさまは――」

 まるで青年が遠くに行ってしまいそうな感覚に、たたひめはおもむろに手を伸ばす。

「――そんな時だ、たたひめ、お前と出会ったのは」

「え……」

 伸ばした手は、大きな手のひらにやわらかく包まれた。

「最初はな、行き倒れの童など捨て置こうかと思った。俺は、その日の物もろくに食えず、腹を空かせて死んでいった貧乏仲間も大勢いたし、戦で人の死を飽きるほど見てきた。山の中に倒れている奇妙な童なんて、何がついてくるかわかったもんじゃない。だから、見ぬふりをしてしまおうと思った」

「…………」

 青年の告白に、たたひめは言葉が出なかった。けれども、しっかりと握られた手のひらから、彼の温もりが伝わっていた。

「だがな、そこで昔、俺が親を憎んだ気持ちが、ふいによぎったんだ。見捨てられた者の苦しさ、それに恨み。俺は運よくやくたたずながらも生きながらえてきたが、目の前にいるこの童は、俺がもし見捨てたらどうなるのだろうか――、とな」

 青年は、たたひめの手のひらを握り直す。

「そうして、気がつけばお前を背負って家に帰り、看病していた」

「……あ、う」

 たたひめは、何を言っていいのか分からなかった。ただ、不思議と熱いものが胸に広がるのを感じていた。

「俺はな、やくたたずだ。今でもそうかもしれない。だがやくたたずならやくたたずなりに、できる事はある。それを、たたよ、お前に出会って教えてもらった」

「あにさま……」

「お前と暮らした毎日は、俺にとって眩しいものばかりだった。たた、知っているか? 俺は、お前が諦めるところを見た事がないんだ」

「たたが、あきらめる?」

「ああ。いつもまっすぐで、もちろん失敗もあるが、それでもできる事を、諦めず、一生懸命にやりとおそうとしていた。俺は、そんなたたの姿を、いつも眩しく思っていたんだ」

「たたは、たたは……」

 自分はただ、やくたたずでないと思いたかっただけ。目の前にいるあにさまのために、少しでも、役に立とうとしたしただけだった。

「たたよ、『役に立つ』というのはな、できない事をやろうとするのではない。できる事を、やりとおす。それを、お前は諦めずに続けている。俺にだってできる事とできない事がある。だがな、できる事を続けることで、役に立っていると思いたい」

 ――その気概が、「役に立つ」というものだ。

 青年はそこまで話し、抱いていたものをすべて出しきったように、大きく息を吐いた。

「あにさま……あにさま、」

 じっと聞いていたたたひめは、胸一杯になるこの気持ちを伝えようと口を開く。しかし、出てくるのは大好きな青年へ向けた、その呼び名だけ。

 そんな少女の様子に微笑む青年は、思い出したように言葉を続ける。

「話は少し逸れたが、この向日葵の言葉は、俺の、お前への願いでもある」

 ――いつまでも、笑顔で。

「たたよ。お前も、これから泣いたり、怒ったり、それに誰かを憎らしいと思うこともあるだろう。それでも、また、心から笑える時が必ず来る。俺が、お前に出会えたように、な」

「…………」

「だから、お前はその時が在るのを忘れないでくれ。そして、いつまでも、笑顔でいてくれ。――俺の可愛い、たたひめよ」

 青年は告げて、握っていた彼女の手に、向日葵を持たせた。

 それで、もう限界だった。たたひめは、気持ちをおさえきれなかった。

「あ……う、あ……あに、さま……あにさま、あにさまっ! う、うあぁぁぁぁぁ――」

少女の瞳から、大粒の感情が溢れだす。

「あにっ、さま――、もうしわけありませぬ。たたは、たたは――、もうしわけ、あっ、あう、うううぅぅ――」

 青年の胸に飛びつき、嗚咽を漏らしながら謝り続けるたたひめ。

 けれども、その涙は決して、冷たいものではなかった。


 やがて落ちついたたたひめは、青年にすべてを打ち明けた。

 自分が人間ではなく、蛇の化身だという事。

 おすずを憎み、無意識ながらも祟っていた事。

 そして少女の告白を聞いた青年は、涙と鼻水でぐしゅぐしゅになる彼女の髪を静かに撫で、忌み嫌う事もなく、糾弾する事もなく、ただ一言だけ、尋ねた。

「――それで、お前はどうしたい?」



 翌朝、屋敷へ通うため、青年は身支度を整え村へと向かう。

「少し長く歩くが、杖はいらないのか?」

 しかし、今日だけは違った。

「――はい。あにさまが、手を引いてくださりますから。これ以上、支えなど必要ありませぬ」

 彼に手を引かれ、顔を前に向けて歩く少女。

「そうか。……頑張れよ」

 青年は多くを言わず、ただ、彼女の手を握り返した。

「――はい。きっと、たたはやくにたってみせます、あにさま」

 たたひめは、たった一晩で、見違えるほど穏やかな、そして自信に満ちた微笑みをもって、それに答えた。


「おや、今日はたたひめさまもご一緒かね?」

「あんれまぁ、アンタ、どこから盗ってきたのやら。可愛い娘っこでないかい」

 しばらく山道を歩いた二人。

 やがて村に入ると、既に朝の畑仕事から戻ってきた大人や老人が、青年に手を引かれるたたひめを見て声をかけてきた。

 もともと、屋敷で働いている青年はその体力を生かして、村の仕事も手伝う事が多い。そのため村の大人の受けはよく、家に持って帰る野菜や米も彼らからおすそ分けしてもらっていることもあった。

 けれども、たたひめはといえば、

「おんや! のう、たたひめさまか? たたひめさまじゃな? おつかいが終わったらウチの坊と遊んでくれんかねぇ」

「……いえ、あの、今日はその……」

 すれ違いざまに、腰の曲がった老人に声をかけられ、あまり青年以外の人間とは話す事のないたたひめは、ぼんやりと見える相手に思わず口ごもってしまう。

 実のところ、たたひめは村に入った事はない。

 彼女に山道を歩かせるのは酷だと青年が考えていたのと、たたひめ自身が村にはあまり来たがらない所以であった。

「あの……あぉ……」

 そんなはじめての場所で、次第に声が小さくなり顔が俯きはじめるたたひめ。そこへ青年が代わりに老人へと答えた。

「おい、爺さん。今日は屋敷に用事で来てんだ。それにてめぇンとこのいたずら坊主にたたをやる気はねえよ」

「あにさま……」

 たたひめは熱く潤んだ瞳で青年を見つめる。

「そらぁ将来、えれぇべっぴんさんになるでよ。少しくらい孫んためにツバつけとっても、バチはあたらんぞい?」

「そんなら爺さんとこの坊主に言っとけ。こないだたたをいじめたのを謝りに来たら、考えてやるってよ」

「ああ、ンの坊めぇ……きつく灸をすえとくからに、堪忍してやってな、たたひめさま」

「はぅ……は、い」

 たたひめが俯き加減で頷いたのを、深いシワをつくりながら笑い見届ける老人。そして青年と二言三言話し、立ち去って行った。

「……なあ、たたよ」

「はい? あにさま」

「さっきの爺さんな、いつも俺がお前の話をする度に、勝手に自分の孫の嫁にするつもりで笑いやがるんだ」

「は……はあ」

「でもな、本当はあの爺さん、とんでもなく頑固者なんだよ」

「ガン、コ」

「俺は、普段は爺さんが怒って怒鳴り散らしている顔しか見た事がない」

「えっと……でも、」

 たたひめには、先ほどの老人は青年の言うほど怒っていなかったように思えた。

「ああ、だからな、たたひめよ。お前は、もっと己に自信を持っていいんだ」

「じしん、でございますか?」

「お前が思っているほど、この村のやつは怖くない。お前を、やくたたずなんて思っていない」

「――っ」

 青年の問いにぎくりとするたたひめ。繋いでいる手にぎゅっと力がこもった。

 そんな彼女に、視線の高さを合わせて、青年はニッと笑ってやる。

「見えるか、俺の顔。馬鹿面だけど、笑ってんだろ?」

 こくりと、頷くたたひめ。

「お前には、見えなかったかもしれないがな、声をかけてくれた村のやつは皆、こんな顔してたんだよ」

「え……」

 目の悪いたたひめには、遠目では声の調子でしか相手の機嫌を判断できない。怒っているのか、それともからかわれているのか、声をかけられる度に彼女は、胸の内に湧いてくる不安をおさえるため、できる限り聴かないようにしていたのだった。

「さっきの爺さんだって、いつも会わせろ会わせろって言ってたからな、今日は本当に上機嫌だったぞ」

「そんなに……たたは」

 たたひめは、うっすらとだが先ほど見る事ができた老人のしわくちゃの笑い顔を思い出す。あの笑顔は、青年がいつも向けてくれるのと同じ、あたたかいものだった。

「だからな、たたよ。もっと胸を張れ、顔をあげろ。お前は、俺の自慢のたたひめだ」

「は……はい、はい、あにさま!」

 はっきりとそう答えるたたひめの背を、青年は笑顔でぽんっと叩く。

 そして二人は、ふたたび前を向いて歩きだした。



 やがて屋敷に着いた青年は、たたひめを庭で待たせ、家人に声をかける。

 玄関で青年と家人が話をしている間、たたひめは庭石に腰かけ、空を見上げていた。

 今の彼女の目には、まるでその胸中と同じ、澄み切った青空が映っていた。

「――たた、行くぞ」

 しばらくして話がついたのか、青年がたたひめの手を引いて家の中に入れてくれた。

 女中に屋敷の廊下を案内されながら、たたも青年も、何も言わない。

 やがて奥の座敷の襖の前に来て、青年が口を開いた。

「この先に、おすずが寝ている。――たた、頑張れよ」

「はい、あにさま」

 たたひめは頷いて、中へと入った。すぐに襖が閉められ、暗闇が彼女を包む。

 ここからは、たたひめ一人。

 杖も、青年の手もない。

 けれどもたたひめは、怖気づくことなく、前に進んだ。

 そして、二枚目の襖を手さぐりで開けると――おすずがいた。

 布団に横になっている彼女の周りには、何かの儀式をしているのか、燭台に灯されたろうそくが淡い光をたたえていた。

 たたひめは、ぼんやりとする視界の中、畳に座る。

「あの……」

「…………だれ」

「――っ!」

 てっきり寝ているのかと思っていたたたひめは、その問いかけにびくりとする。声は弱々しいものの、これまで受けてきた辛い嫌がらせが彼女の膝を浮かせる。けれども、逃げ出したい気持ちをぐっとこらえ、たたひめは口を開いた。

「た……た、たたです、きました」

「……たた? た……あぁ――、あの、やくたたず?」

 自己紹介をした途端、あざわらうように返されたたひめは泣きそうになる。けれども、今回は少しだけ違っていた。

「なあに? ふ……ふ、わざわざやってきて、私を、やくたたずだっ……て、笑いに来たの?」

「え――」

 それは、これまでたたひめの前で高圧的にふるまっていた者の言葉ではなかった。

「ふ……ん、げほっ、いいわ、笑いなさい……よ、今なら、ここまで……来た、アンタよりも、やくたたず……だもの」

 彼女の身体を蝕むものがそうさせるのか、自嘲するように笑い、咳き込むおすず。

そんな彼女に、たたひめの心はひたりと決まった。

「ね……え、黙ってない……、で、笑ったら? やく……たたず」

「――たたは、やくたたずではございませぬ」

「は……あ?」

「たたは、たたひめでございます。やくたたずでは、ございませぬ」

「あん……た、げほっ、げほ……、何、言って――ごふっ」

 おすずは問いかけて、そして咳き込むと同時に、びしゃっと何かを吐きだした。たたひめの鼻を、つんとさびた臭いがつく。

 ――暗がりで分からなかったが、布団に飛び散ったそれは、血だった。

 たたひめの聞いた、おすずがもう長くはないという話は本当だった。

「はは……、ぐっ、あ、アンタがおかしなこと、言うから、また……」

 彼女の声は、既に風前の灯だった。

 それを悟ったたたひめは、一度、深く息を吐いてから、胸に抱いていた言葉を告げた。

「――ごめんなさい」

「…………」

 閉じ切った部屋に、はっきりと響いたたたひめの声。おすずは黙っているのか、それとも問い返す気力がないのかわからない。もう一度、たたひめは言った。

「ごめんなさい、……おすず、さん。たたの、せいでございます」

「……アンタ、何を、言っているの?」

 ようやく、怪訝な声が返ってきた。

 今度こそ本当に、逃げ出して、青年の胸へ飛び込みたい気持ちをぐっとこらえて、たたひめは告白した。

「おすずさんの病は、たたのせいでございます。……ですから、たたが、治します」

「は、あ? だ……から、ゲホッ、なにを……」

 その声をたたひめは最後まで聞かず、瞼を閉じて集中する。

 ――あにさまに貰い、せっかく育てた向日葵を台無しにされた憎しみ。

 ――酷い仕打ちをしながら、想い人であるあにさまを、奪おうとしたことへの憎しみ。

 そして、それを打ち消す、あたたかい感情。澄み切った思い。

 二対の相反する情動を胸に――、たたひめは蛇になった。

「――っ、な……に! な、あ、あ……」

 今なら視える。

 吐いたせいで血まみれになっている布団を押しのけ、驚愕の顔を自分に向けるおすずが。

 そのはだけた寝間着からのぞく肌には、至る所に蛇が這ったような痣が浮き出ていた。

 憎しみを糧に、どこまでも締めあげ、死の淵まで蝕み続ける蛇の祟り。

「な……な……た、たす、け……」

 開け放した隣の部屋にまで伸びる蛇の尾。ゆらゆらとろうそくの光に揺らめく、天井近くまでもたげられた鎌首。そこから、落ちた体力でも必死に這って後ずさろうとするおすずに、空を切るような声で蛇は言う。

『たタが、助ケます。――もウ、だいジョうぶ』

「ひ……あ、う……」

 ちろちろと舌を出し、蛇はじっとおすずを金色の瞳で見つめる。すると、彼女の身体に浮き出ていた痣が、しゅるしゅると這うように解け、次々に部屋の暗がりへと消えていく。

「あ……あ……」

 やがて何の痣もない、綺麗な身体に戻った彼女の顔には、心なしか血色が戻ったようだった。ただ、ずっと床に伏していたため、おぼろげに視線が揺れ、やがてすぅ――と、おすずは静かに気を失った。

『――……ほンとうに、ゴめんなサイ』

 そして、たたひめはもう一度、その鎌首をゆっくりと下げて、起こさぬように謝った。



後編につづく

己の中の憎しみを知り、それを乗り越えたたたひめ。

明るい兆しが見えたかに思えたが……。

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