§僕の思い 夜空の星§
足早に店に帰ってきたからか、動悸と息切れが激しくて、水を一杯飲んで落ちつこうとした。
胸が苦しくて、悲しくて、淋しくて。
大人気ない。26にもなってあの場所に居たくないからって逃げたして…恥ずかしい……。
カタンっと裏口の方で物音がする。きっと二人が帰ってきたんだ。
扉を開けて二人が部屋に入ってくる。
「あ、テンチョ。大丈夫ですか?」
「う、うん。ちょっと、店でしなくちゃいけないことがあってごめんね。なにも言わず。」
「いいえ、大丈夫ですよ。急ぎだったら大変ですから。」
渚ちゃんはそれ以上なにも言わないし聞かなかったけれど、青司君は僕の言ったことに納得いってないみたいだった。
それからお昼までいつもと同じ感じだった。
「じゃあ、次、僕が休憩貰うね。」
「はーい。」
お昼ご飯を食べながら休憩していると青司君が部屋にやって来た。
「どうかした?」
「…総司ってさ。たまに大人気ないよね。」
「なんの話かな。」
フォークを置いて青司君をまっすぐ見つめる。
「今朝の事があってから、ずっと渚は総司の事を心配してるのに、そんなんきずいてませんってな顔してさ。」
「その話は終わったはずだよね。」
「少しくらい、渚にも気を配ってあげろよっ。」
青司君は言葉を吐き捨てて、店内へと戻る。
ふぅっ。と息を吐いて気持ちを落ち着かせようとするけど、頭の中にうごめくのは昔の記憶。
消せないし、消えない。僕の大切な―。
喫茶店も閉店時間になって店内の後片付けをしていた。青司君は午後からどこかに出掛けたきり帰ってこない。
「青司君、遅いですね…。」
「大丈夫でしょ。もぅ、高校生なんだし。」
「…そうですよね。」
一生懸命モップがけをしてる渚ちゃん。会話がいつもみたいに続かないのは、君が僕に気を使っているから…?
「渚ちゃんさ。このあと少し海岸に行かない?」
「え?テンチョ。急にどうしたんですか?」
「行きたいんだ。渚ちゃんと。ダメかな?」
「私は、大丈夫です。」
店内の電気を消して戸締まりをする。田舎町だから街灯も少なくて暗い。いつも通る道を一緒に歩いて海岸にきた。
「夜の海って怖いですよね。」
浜辺を歩く渚ちゃん。暗い夜空と同じ色の海が広がる。
「そうだね。不気味。」
気持ちが沈んでいく。海で無くしたものを最近、よく思い出す。
「テンチョ。星っ、星凄いですよ。」
渚ちゃんが指差した方をみると、真っ暗な夜空にある、いくつもの星たち。
「テンチョ。綺麗ですね。」
「うん。…ありがとう。」
沈んでいた気持ちが少し軽くなったような気がする。僕は彼女のそばに立つ。
「え?なにがです?」
「今朝も、今も。僕を助けてくれる。」
耳元でありがとうとお礼を言うとうつ向いてしまった、暗くてよくわかんないけど、多分顔真っ赤なんだと思う。
「わ、私、なんにもしてないですよっ。」
僕から逃げるため、一歩後ろに下がろうとして転けそうになった渚ちゃんの腕を掴む。そしてスススッと手のひらまで自分の手を移動させてそのまま手を握った。
渚ちゃんはまたうつ向いてしまう。恥ずかしいんだろうな。
「転けちゃうからね。」
そういってしっかり手を握るのは彼女を逃がさないため。僕のもとから離れていかせないためなのかもしれない―。