§二人の距離間§
店の裏口脇にある洗い場で海で拾ったものを洗う。
「なにしてんの?」
青司君は二階の小窓から顔をだしながら聞いてくる。
「海の漂流物を洗ってるんだよ。」
「あ、青司君。おはようございます♪」
「おはよう…ございます。」
バケツを持った渚ちゃんも洗い場で拾ったものを洗う。
二階から降りてきた青司君が裏口から出てきた。
「なに、その汚いモノ。」
「これは流木で、渚ちゃんの持ってるのはビーチグラスにメノウに貝殻だね。」
「ふーん。今から洗うんだ?」
「うん。だけど洗うって言っても真水に浸けとくだけだけどね。」
「え!?汚なっ!!洗剤使えよ。」
「汚く無いんですよ?海は浄化作用があるから、海から浜に流れついたあとは、水に浸けとくだけでいいんです。」
そう言って渚ちゃんはバケツに水をたっぷり貯めて立ち上がった。
「水が濁らなくなるまで水を替えてあげたら、もう綺麗なんです。」
「青司君も次は一緒に浜拾いしよう。楽しいよ。」
「ん〜気が向いたらね。」
少しは浜拾いに興味を持ったのか僕や渚ちゃんがしてることをじーっとみている。
「さてと。そろそろ開店準備を始めますかね。」
「はいっ!」
三人一緒に店の中に入って用意を始めた。
「テンチョ。オーダー入りました〜!」
「青司君、これ一番テーブルね!」
「お待たせしました。」
「渚ちゃんっこれ右から三番、五番ね!」
「はい!わかりました!」
バタバタと今日はいつもよりお客様も多く、5つあるテーブルもカウンターも満員。
「すみませーん。お勘定お願いしまーす。」
「はーいっ!少々お待ちください!」
11時半から13時までの間のピークで青司君はもぅ疲れてしまったようだ。ピークも終わってガランと静まり返った店内のカウンターでうなだれている。
「いやー。今日は青司君がいてくれて助かったね。」
「本当ですねー。」
「いつもあんな感じ…なわけ?」
「まぁ。大概。」
僕の言葉を聞いてもっと脱力する青司君。
「でも昨日少し練習しただけで、今日あんなにも働けたのは凄いですよ!頑張りましたね。」
渚ちゃんに頭を撫でられてまんざらでもない顔の青司君と目が合うと、青司君は恥ずかしいのか渚ちゃんの手を頭からどける。
「渚ちゃんと青司君休憩行ってきていいよ。」
「あ、はい。わかりました。」
「やったー。」
二人が奥の部屋に入ると僕は洗いたてのグラスを吹き始める。
静かな店内のせいか部屋に入った青司君と渚ちゃんの声がカウンターまで聞こえる。
「青司君、お昼どうするんですか?」
「上に総司の作ったサンドイッチがあるから。」
「そうなんですか!テンチョの手作りサンドイッチなんてうらやましいです〜。」
「ん、じゃあ…。」
「あっ!青司君さえ良ければ一緒に食べませんか?」
「え…。あ、俺なんかと一緒でいいの?」
「はい!一人で食べるより二人で食べましょう?」
「…うん。じゃあ、まってて。」
青司君がパタパタと階段を上がる音がする。
渚ちゃんと青司君の距離が少しずつ縮まっていくのが解る。
嬉しい反面、少しだけモヤモヤした気がする―。