§総司と青司§
喫茶店の店内のカウンター奥には扉が2つあって、向かって左側は僕がお客さんに出す料理をつくるキッチン。右側は渚ちゃんや僕が休憩しつとして使ってる部屋。
僕は青司君を連れて右側の部屋に入った。入ってすぐのところにある椅子に青司君を座らせると、僕は机を挟んで正面に座る。
「……いつ家を出たの?」
「…今朝だよ。大きい荷物は段ボールにいれて宅配にした…から。」
「僕になんの断りも無く勝手に?」
「早く“あんな所”から出たかったんだ!総司だって解るだろ!?総司だってっ!!総司だって俺と一緒じゃないか!!」
その言葉を聞いて僕はズキリと胸が痛んだ。嫌な事を閉まった箱の蓋が開いてしまいそうだ。
気分が悪くなってきて僕はぐっとはを食いしばる。
「…総司が…。」
青司君がいいかけた言葉が気になって彼の顔を見ると、僕の方を苦しげな表情で見ていた。
「総司が…、俺をここに置いてくれないなら、俺はアイツに…親父に総司の居場所を、ここの事を話す―。」
「……わかった。いいよ。ここに置いてあげる。」
僕は家族にここの事を知られたくない。なら話しは早い。青司君を僕の所に置けばいい。いざというときは……。
「青司君、僕から一言預かってるって連絡を…するから。いいね?」
「あ、うん。」
「じゃあ、少し出てくるから。」
青司君を一人部屋に残して僕は店内に戻る。
「あ、テンチョ。大丈夫ですかっ!?」
掃除をしていた渚ちゃんは僕に気づくと急いで駆け寄ってきた。何事もなかったかのように笑顔をつくる。
「ん?なにが?」
「顔色が悪いですよ?具合悪いですか?お水飲みます?」
渚ちゃんはおろおろしながら僕に訪ねる。彼女がこんなに心配してるってことは僕はよっぽど顔色が悪いんだろうか。
「大丈夫。僕、ちょっと出かけてくるけど店、任せて大丈夫かな?」
「あ、はぃ。……あのっ今の時間帯は暇ですし。私一人でも大丈夫ですから…ゆっくりしてきてくださいね。」
「…うん。ありがとう。」
彼女に気を使わせてしまって情けない反面、心配された事に嬉しさを感じる。
僕は渚ちゃんが安心するように頭をポンポンと撫でて、そのまま店を出た。
店の前にある大きな道路は海と平行して真っ直ぐ伸びている。僕は道路を歩き始める。
田舎町だからかな。しばらく歩いていくと公衆電話がぽつんと1つあった。
僕は公衆電話の受話器を取るとお金をいれる。プーっと機械音がする。携帯を開き実家の番号を見て公衆電話のボタンを押していく。
プルルルルッて電話音がなるたびに僕の心臓の鼓動は早くなっていく。出ないでくれって願いも虚しく、数回目のコールで相手は出た。
『はい。どちら様ですか?』
「あー。総司です。
中岡[ナカオカ]さんはまだいますか?」
『中岡さんですね。少々お待ちください。』
どうやら電話に出てくれたのは新しい家政婦さんみたいだ。
『総司様!?』
受話器越しに聞こえる懐かしい男の声。中岡さんはお父さんの秘書で僕らのお世話係でもあった人。
「やぁ。久しぶり。中岡さん。お父さん宛に1つ伝言を頼むよ。」
『総司様っ!?ま、待ってください。今どこにいるんですか!?』
「いくよ〜。実は青司君がどこから情報もらったのか僕の家に来ててね。家で預かることにしたから〜よろしく。」
『えっ!?青司様が!?』
ガチャンっと受話器を戻すと公衆電話からおつりが戻ってきてそれをポケットに直すと僕はふらふらと浜辺に向かって歩いていた――。