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買い物。

清々しい朝日が瞼の裏ごしへと光を運んでくる。そっと目を開けると、眩いばかりの朝日が目を刺激してきた。

なんだかベッドが硬いなぁと思いながらゆっくりと起き上がると、自分の部屋じゃない……そこでぼんやりと、家を飛び出たことを思い出した。


「シャルさま。おはよう……です」

「おはようございます、シャルさま。よく寝れましたか?」

「ふぁ……おはよう、カシル、リリム。ちょっと眠いかも……それにしても、二人とも早いのね」


窓の外を見ると、まだ日が出たばかりのようで外は、ほんの少し薄暗かった。

カルアはもしかして、寝てないんじゃあ……と、少しばかり心配したけれど、平気そうに涼しい顔をしていたので聞けなかった。


「はい。朝日、起動設定……です」

「僕は騎士団在中の時に。朝日と共に起きるれるように訓練しましたから」

「え、二人そろって朝日と共に起きてるの?」

「まあ、……そうなりますね」


何気なく聞くと、リリムはきょとんとしてカルアは興味もないらしくて素っ気なく答えた。


「シャルさま。ご朝食は?下の階、食堂……です」

「それについてですが、朝食はここでは取らない方が賢明かもしれません。恐らくですが、そろそろシャルさまが居ないことに気づいて探し始めてるかもしれませんから」


せっかくリリムが宿の主人に聞いてくれたらしいけれど、ここはカルアの言うとおりに避けた方がいいのかもと考えた。


「そ、そうね……あ、だったら市場に行って見ましょう!そこで食料を調達してきたらいいと思うの!」

「そうですね。そうした方がまだ安全です」

「よし、とりあえず着替えましょう。リリム、予備のメイド服を貸してくれる?」

「はい」


リリムの持ってきたメイド服を着込むと、鏡面台に座って髪にざっと櫛を通す。

サイドの髪だけを少し残して二つほど三つ編みを作る。その二つの三つ編みを編みこむように結い上げる。

着てきた服をキレイに畳み込むと、荷物の中に入れた。


「二人とも用意は大丈夫?」

「僕は大丈夫です」

「はい。問題、ない……です」


宿屋の主人に部屋の鍵を返すと、足早に市場に向かった。

もともと宿屋自体が大通りにあったので、少し歩いたところに露天が沢山立ち並んでいる通りに出た。

思わず色んな店を覗いてしまって、何回もカルアに「シャルさま、僕たち急いでいるんですよ」と指摘されては進むといった行動を繰り返していた。


「ねえ、あれって服屋じゃない?」


沢山の服を扱っている店を発見して近づいてみると、『服・売ります!買います!リフォームもできます!」と大きな文字で書いてあるのが見える。

リリムとカルアを店の前で待たせると、さっさと一人で店に入っていった。


「すみません!服、売りたいんですけど」

「ああ、服ですね!こちらにどうぞ」


カウンターの向こう側でミシンを動かしていたらしいお姉さんが、すぐにカウンターに来てくれてにっこりと笑顔で出迎えてくれた。

荷物の入っている袋から、昨日着ていた服を取り出してカウンターに置くと、すぐにお姉さんが広げてチェックを始めた。


「あら、とてもいい生地ね!縫い目だってしっかりしているし、なかなかのものね。これだったら、10フォルってとこかしら……」

「じゃあ、それでお願いします。それと、新しい服が2,3着欲しいんですが見繕っていただけません?」

「ん~、いいけど、これと同じようなものなんて扱ってないわよ?」

「それは、以前にお付き合いしていた方から頂いたものなんですけど、別れたあと着るのはちょっと……。それにこの後、旅に出かけようかなと思ってその準備も兼ねて売りに来たんです」

「あら、そうなの。さしずめ傷心旅行ってとこかしら?それにしても、女に服を送るなんて……まあ、あなたのくらいの外見なら仕方ないかもしれないわね」


店員のお姉さんの言い方に妙なひっかかりを覚えて、服って送ってはいけないものだったかしら?と、疑問に思っている間にお姉さんは、ざっと店の中を回ると店内の服を3着ほど持ってきた。

2着は下がスラックスのようズボンでしっかりと厚みがある。上は、リボンとレースが主にデザインされているのと、もう一着はワンピースタイプらしく、上はしっかりと体にフィットしていって下に行けば緩やかになるフレアタイプで、民族衣装のように裾部分に細やかな花と葉っぱの刺繍が入っていた。


「あなた、スタイルがかなり良いもの。せっかくだから体の曲線が出やすいものにしたわ。よかったら靴もあるわよ?その靴で旅は辛いでしょう?後はそうね、羽織物も必要でしょう?」

「あ、お願いします。あの出来れば妹と弟の分も二つほどお願いします」


返事をするとお姉さんはすぐに、店の中を回って靴と羽織物を戻ってきた。

上の方に金の金具が付いたハーフブーツが一足と、旅人がよく羽織っているマントが3着ほど出された。

マントは、上の方に帽子が付いているタイプのようだった。


「まあ、だいたいはこれでいいかしら?おおまけして、全部で9フォルでいいわよ」

「え!?本当に9フォルでいいんですか?結構な量がある気がするんですけど……」

「いいわよ。ほとんどが古着ですもの。それに、傷心旅行なんでしょ?私にも失恋の経験くらいあるわよ、ゆっくり心の傷を癒しなさいな」


全部とってつけたような出任せだったのに、ここまでされると少し気が引けるというか悪い気がしてくる。

騙したことにお詫びも兼ねた頭を下げた。というか、罪悪感でいっぱいで申し訳がなかった。


「本当に、本当にありがとうございます!」

「いいのよ。気にしないで行ってらっしゃい」


買ったものが入った袋と、1フォルを手渡されて罪悪感と感謝というなんとも言えない複雑な感情を抱えたまま、また頭を下げてお店から出て行った。


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