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神紋


荷物を解くと、ポシェットから二種類の精霊石を取り出した。色は、赤と緑の相反する色。

二つの小瓶を用意して、精霊石を一つずつ入れる。ベッド脇にある水差しからコップに水を注いで、水の用意をする。

後は、ベッドとベッドの間のテーブルにコップ入りの水と精霊石入りの小瓶を二つセットすると、意識を胸元にあるフィルストリアの神紋に集中する。


「創世の女神、フィルストリアの名の下に付いて告ぐ、失われし英知の欠片から……今、その片鱗を……」


フィルストリアの神紋が微かに熱を帯び始める。神紋を中心に、高揚感に似た不思議な感覚が巡ってくる。

それを沈めるように、落ち着かせていく。そしてゆっくりと小瓶に詰めた精霊石をそれぞれ指先で小瓶の上からなぞり、指先に意識を集中する。


「火は緋であり陽に通ずるもの。緑は翠であり碧に通ずる……

火精霊王、サランサー 水精霊王、アクアローネ 両者は対極を成すもの

今一度、我にその加護と力を貸し与えんと願う……」


まるで呼応するように、小瓶に詰められた精霊石が光を帯び始める。小瓶の中に、そっと水を入れる。


「我に、その色を示したまわん」


小瓶の中に入れた水が、まるで氷を溶かすように精霊石の色に染め上げられていく。やがて赤色を宿した水と水色を宿した水の二種類が出来上がった。

精霊石は、まるで色を水に吸い上げられたように、無色透明に変化している。

二つの小瓶の中身を混ぜ合わせると、ちょうど真っ黒な液体が出来上がった。それを飲み込むと、鳥肌が立つような寒気が全身を駆け巡る。少し立つと、冷や汗を含んだ、おかしな熱も出てくる。

落ち着いてくると、手で髪をひとふさ掴んで髪色を確認してみた。青銀だった髪色は、青みがかった黒色に変化していた。


「相変わらず、神紋術はすごいですよね。込み入った術式も精霊の媒介も無しで、そこまでの術が使えるんですから」

「ふふっ、もう凄い便利よ?カルアもどう?」

「冗談はやめてください。神紋持っている人なんて限られているじゃないですか……そもそも生まれつきじゃないと無いですからね」


確かに、所持者は生まれつき持っているという人が大半だ。だけど、世間に知られてないけど、極まれに後天的に手に入れることができるらしいということを、ふと思い出した。


「本当に、そう思う?先天的にしか手に入らないって……」

「シャルさま、何を言ってるんですか?」

「私も、詳しくは知らないけど……先天的にだけじゃなくて、極まれな例外として、後天的に手に入れることができるらしいのよ。お師匠様から聞いたんだけどね。お師匠様……そのときは、私がいくら聞いても教えてくれなかったのよね。今になってわかるんだけど、きっととても、人には話せないような手段なのかもしれないわね」


神紋は神の化身のような証で、神々と魂が繋がっている証のようなものなのに、後天的になんて無理がある。だったら、きっとそれは、おそらく想像でしかないけど、魂を利用するような残忍で残酷な手段かもしれない。


「そう、たとえば……持ち主の魂を壊して、そこから神紋の力を抽出するとか……?」

「魂を弄ぶんですね、もう人の所業じゃないですよ……。だったら、なおさら……シャルさまは気をつけてください。創世の女神フィルストリアなんて、もし手に入るのだとしたら、人はどんな手段で来るかわからないですからね」

「そのときは、カルアが守ってくれるんでしょ?」

「…………シャルさまの、護衛騎士ですから」


少しの間を空けてから、表情一つ変えず当たり前のように言い放つ。それにカルアらしさを感じて思わず苦笑いを零した。ほんの少し気になったことを訪ねてみることにした。


「ねえ、カルアなんで同じ部屋にしたの?」

「一緒の方が何かあった時に安全だからです。ああ、間違っても手なんて出しませんので安心してください」

「なんだからちょっと引っかかる言い方ね。まあいいわ……ふふっ、それに大丈夫よ。私、カルアのこと、信頼してるもの」


もう何年の付き合いにもなるのに、今更何を言ってるのかしらと思いないがら思いっきり背伸びをするように腕を伸ばすと、そのまま後ろに寝転んだ。

ベッドがギシリと音を立てて弾む。いつも眠っている時間だけに、さすがに眠い。

一応、着替えの寝巻きも持ってきているんだけど、せめてこの町から出るまでは警戒しておかないとと思って服のままで寝ることにした。

寝返りを打つように横向きになると、所在無さ下に壁に寄り添うそうに直立で立っているリリムがいる。思わず手招きをした。


「リリムもこちらにいらっしゃい。今日は一緒に寝ましょうね」

「シャルさま……よろしい、ですか?」


リリムの表情はほぼ無表情で、何を思っているかわからない。だけども、なんとなくで、嬉しそうに見えた。

ベッドを片手でトントンと叩いてにっこりと笑顔で返す。


「全然良いわよ、おいでリリム」


リリムは少しだけ前に進むと、ベッドの横で立ち止まった。不思議に思ってリリムをじっと見ていると、そのうち口を開いた。


「ドーリアの、眠り。機能停止……です」

「そんなことくらい知っているわよ?リリムは心配性さんね、リリムを作ったのを誰だと思っているの?気にしないで、あなたは私の横に居ればいいのよ?」


ベッドの掛け布団をめくり上げ、リリムを招き入れる。さすがのリリムも大人しく入ってくれた。

その横に寄り添うように入ると、まるで姉妹で寝ているかのような錯覚に陥る。


「シャルさまの、傍。とても、核が、暖かい……です」

「ふふっ、そうね。核は、ドーリアの心みたいなものだから、人でいうと、心が温かいってことかしら?」

「核……心?難しい……です」


リリムはやがて、目を閉じて静かになった。たぶん、機能を停止したんだと思う。

この機能停止というのは、全機能を停止させているわけじゃなくて、神輝石という核石の力を核石のみに留めて、使用量を最低限まで押さえ込み、神輝石の力を溜め込むという方法。

もちろん、その間は人間で言う仮死状態に陥ってしまう。

あまり力のない神輝石を持っているドーリアが行う方法で、最高級の神輝石を持っているリリムには本来なら不要なことなんだけど、なるべく人間に近い存在で居てほしいから、リリムにも同じように睡眠という形で起動停止モードに入ってもらっている。

 ふと、リリムの向こう側に見えるもう一つのダブルベッドにカルアが座っているのが見えた。


「カルアは寝ないの?」

「仮眠くらいは取るので、大丈夫です」

「そっか。じゃあ、私もそろそろ寝るわね。おやすみなさい」


夜にこっそりと家出をして、初めて市民の宿屋に泊まってと、色々なことで脳が興奮しててまったく眠くなかった。それでも明日にはこの町を出ないと、捕まってしまう。それにはやっぱり今日以上の精神力や体力を使うのは解っていたから、瞼を閉じて無理に眠りについた。



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