全てのはじまり
ミスをいくつか発見したので、今更ながらに編集しました。
その日も、いつもと変わらない一日となるはずだった。そう、両親が帰ってきている以外は。
集めた精霊石を磨き上げて、丹念に研磨をしている作業の最中に、ノックの音が響いた。「どうぞ」と声をかけると、メイド服を着込んだ、まだ幼さを残した少女が一礼をして部屋に入ってくる。肩まで切りそろえた黒い髪に紫色の瞳を持った少女は、表情ひとつ動かさずに淡々と話す。
「シャルさま、奥様がお呼びです」
「お母様が?いったい何の用かしら?」
父の補佐をしている母は、父に付き添って領地を回っているので、あまり会うことが無い。だからたまに会うのは嬉しいんだけど、最近は同じことばっかり言ってくるからあまり楽しくない。ため息をついて、母の部屋をノックすると返事が着たから入る。すぐ後ろにオートドーリアのリリムが付き添って着いてくる。
「お母様。お呼びですか?」
丁度書類に目を通していた母は、こちらを視界に確認すると立ち上がった。
動くと綺麗に結い上げた闇色の髪は光に反射した。
そういえば、母の綺麗な黒髪に小さな頃は憧れていたことを思い出していると、澄んだ若葉色の瞳と視線が合った。
目が合うと母は、いつもと同じ凛とした静かな声で話しかけてきた。
「シャル、あなたを呼んだのは他でもないの。あなたももう、17歳でしょう?」
「そうですけど……」
母はチラリと、近くのドアに控えていた少女に目を送ると、軽くため息をした。
そのしぐさに、なんだか凄く嫌な予感がした。たぶん、リリムの事をまた言われると思い、思わず小さなため息をつく。
「いつまでもお人形遊びをしないで、そろそろ結婚をして身を固めなさい」
「お母様!リリムはお人形なんかじゃありません!ちゃんとしたオートドーリアです!」
結婚結婚と煩いのは仕方ないけど、オートドーリアのリリムの事を言われるのは、聞き捨てなら無かった。
思わずリリムの腕を引っ張って母の前まで連れてくる。
「私から見たら、ただの動く人形ですよ」
「ドーリアは確かに人形のようにヒトガタをベースにしていますけど、中にちゃんと神輝石という命の核が入っているんです。それは命を持っているのとたいして変わらないんです」
そう、神輝石はこの世界の神々が作り出した神力の塊のような、力を持った石。
それはドーリア達の中で、ちゃんと人の心臓と同じ働きをして、知識を覚えこむ。そうして、人との良きパートナーになっていく。
「たとえそうだとしても、全てが作り物の紛い物でしょう?」
「作り物でも、ちゃんとした感情はあります!」
「表情ひとつ、動かしていないじゃないの」
そう、母の言うとおりリリムは感情というものをまだ持っていない。言葉もまだカタコトで、流暢には話せない。
でもそれも、この世に生まれてきてから、まだ一ヶ月ほどしか経っていないためだと私は思っている。
「でも、この子もまだできたばかりで、感情というのを知らないだけなんです」
「もういいわ。だけども、結婚はしなさい。17歳と言えば、結婚していてもおかしくない年頃よ?それに婚約者が居るでしょう。ずっと婚約したままなんてありえないのですもの」
母の言い分はもっともで、貴族の令嬢となると十代後半にはもう結婚を固めている人が多い。
もちろん母も10代後半の時に、このアンデルセ家に嫁いだらしい。
「でもお母様、わたし、デェルシュトさまに一度もお会いしたことがないのですけど……。お会いしたこともない方との結婚は無理です。それに向こうにもその気が無いのがわかりますし」
「なら、シャルが自分から会いに行けばいいじゃないの。それにね、ずっと前から決まっていた事だから、今さら破談なんて無理なのよ?」
そう、物心着く前に両家の両親によって決まってしまった婚約なのだけれど……私は納得いかない。
そして私と婚約してしまったデェルシュトさまも納得がいってないのか、全くの音信不通状態。むしろ私の存在を忘れている気がする。
「そのことでフレイデル公爵と相談したのですが……貴方達二人に任せていたら、一生結婚しないでしょう?だから、私たちの方で結婚の段取りをすることに決めました」
「そ、そんなの勝手すぎます!横暴です!」
母は何が何でも、私とデェルシュトさまを結婚させたいらしい。勝手に結婚の段取りなんて理不尽すぎて、さすがに怒りが沸いてきた。
「わかりました、もういいです!リリム!行きましょう!」
リリムの腕をがっしりと掴むと、そのまま勢いよく部屋を飛び出した。母がまだ何かを言っているけど、それも無視して部屋に逃げ込むように勢いよく入った。そして、絶対に家出をしようと硬く決意した。




