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第二章  機械人形と守護龍と……


  過去の記録はおぼろげで


  消え去ったものもあるだろう


  たとえそうだとしても


  彼女達はそこに居て


  それぞれにその意志を貫き続けるのだろう


  いつか消え逝く運命だとしても……







   第二章  機械人形と守護龍と……






「まあ、これでも食べなさい。」


 何がなんだか分からない。地下に案内されたと思っていたら、そこにいた小柄な女性が電子レンジで暖めたカレーを差し出してきた。


「すみません、状況が全く呑み込めません。」


 ここは異世界で、魔法の国で、なのにここにあるのは俺の国にあった文明の利器とほぼ変わらないものばかり。そしてレトルト食品でカレーときたものだ。


「どうかしましたか、キリハラ?」


 俺の横には何食わぬ顔でスナック菓子を頬張るリリィク。なんだろう?俺の認識が間違っていたのか?ゲームでよくあるファンタジックな世界じゃなかったのか?


「さて、いい感じに混乱してきたみたいね。これからこの世界について教えてあげるわ。」


「出来れば普通に始めて欲しいです」


 俺の懇願は聞き流され、彼女の後ろにあった『ぱーそなるこんぴゅーた』の前に案内された。いわゆるパソコンである。しかし、説明されずともそうだと分かるあたり問題大有りだな。


「君のその顔を見れば、この世界をファンタジックな物だと誤解しているのは分かるわ。でもね、実質的な文明の発達で言えばこの世界の方が優れているわ。この国は魔法が発達しているから科学の力を使う人が少ないのよ。」


 そう言いながら軽快にキーボードを叩き、この世界の地図らしき物を画面に表示させる。それは十字にかたどられたオブジェのようにも見えた。


「この世界の名は『ミートゥリア』、四つの国と一体の守護龍、そして衛星によって守られているわ。そして、紹介が遅れたわね。私は君たちのような来訪者に世界のことを伝える役目を担う機械人形。名前は訳あって言えないから『機械人形』と、そう呼んでくれてかまわないわ。あと、敬語も要らないわ。」


「あ、ああ、俺は霧原勇人。よろしく頼む。」


 この国の人は敬語が嫌いなんだろうか?


「その名前、陽の守の国の出身ね。出来れば漢字でどう書くのか教えてくれるかしら?来訪者のリストを作っているから……」


 何で俺の出身が分かるんだろう?そう思いながらも促されるままキーボードの前に立つ。配置は俺が使ったことのあるものと同じ。これなら普通に打ち込めるな。疑問は尽きないが……。


「霧、原……勇人……ね。なるほど……」


「素敵な名前ですね。覚えておきます。」


 二袋目のスナック菓子に手をつけようとしながらリリィクが画面を覗き込んでいる。名前を褒められたのは嬉しいが、間食は自重した方がいいと思う。一人で一袋空けたわけだし……・。


「あら、もう二袋目なの?自由に食べていいとは言ったけれど、少しは自重した方がいいと思うわ、身体的に考えて。」


 俺の言葉を機械人形が代弁してくれたが、リリィクはそれを聞く気がないらしい。言われながらも袋を開けてしまった。


「私が沢山食べる理由、貴女はご存知でしょう?」


 不満そうな目を機械人形に向けながらスナック菓子を頬張る。食べる理由ってなんだろう?


「分かっているわ。少しいじわるしてみたかっただけよ。さて、話が逸れたわね。まずはこの国、バーゼッタについて説明するわ。……あなた、ゲームはする方かしら?」


「ああ、かなり。」


 自慢じゃないがゲームは大好きだ。RPGに始まりアクションやシミュレーションなど本当に幅広くやっている。が、ここでこんな質問をされるとは思っていなかった。


「そうでしょうね、前例と同じ反応をされたからそうだと思ったわ。」


 前例?前にも同じ様な奴が来たんだろうか?……と、問いかけようとして龍弥のことを思い出した。そういえばあいつも俺に負けず劣らずのゲーマーだった。つまり、あいつも俺と同じ様な疑問を持って、同じ様な質問をし、そして同じ様な答えを返されたわけだな。俺はまだ質問すらしてないが……。


「先に言っておくわ。この国はあなたが多分よくプレイしてきたでしょうRPGでよくあるファンタジックな国と思ってもらってかまわないわ。魔法で発展し、魔法に頼って生きている国と言うわけね。」


 ふむ、そういう認識でいいのか。だが……。


「ちなみに、この国は世界の中央に位置することから央天とも呼ばれているわ。次に、あなたが質問するであろう機械文明の発達した国の説明ね。」


 この人俺に質問させない気だ……。俺が口を開こうとしたときには地図の東端がアップにされていた。


「東天の『ラトラ』は機械文明で発達した国よ。元々は武器製造で栄えた国だったけれど、今では銃火器以外の武器製造はほとんど行っていないわ。この国はバーゼッタのような王政ではなく『ユエル・アコウバル・コガラシ』と言う女性……まあ、今はその説明でいいわね……その女性を有する『コガラシ家』をトップに、武器製造を担う『アンテマルド家』、隠密集団の『キサラギ家』といった三つの勢力と、それらに属する職人達によって成り立っているわ。」


「あれ?アコウバル・コガラシって確か……」


 確かアリスのフルネームがアリス・アコウバル・コガラシだったはず。


「はい、アリスはラトラの出身です。」


 リリィクがすぐに答えてくれた。ちなみに、彼女は三袋目に手を出しています。


「あら、あの子に会ったことがあるのね。あの子は銃の名手よ。ハンドガンからスナイパーライフルまで何でも使いこなすわ。ふふ、姫様に何かしたらどこからともなく撃たれるから注意しておきなさい。」


 とてつもなく危険な情報をどうもありがとうございます。膝枕のシーンを見られてたらここに俺はいなかったかもしれないな……。


「あの子にも色々あるけれど、私が言うことではないわね。気になることがあるのなら直接聞きなさい。さて、次は何処にしようかしら?」


 本当に俺に質問させる気がないんだな。まあ、それでもいいけど……


「ん?」


 こちらに背を向けてパソコンをいじる機械人形の背中に不思議な感じを覚えた。彼女は薄い金髪なのだが、ロングだと思っていた彼女の髪に違和感を覚えたのだ。よくよく見れば、白衣の襟の辺りから外に漏れ出たような毛の塊が九本見える。


「多尾狐みたいだな……」


 意識していなかったが、口から言葉が漏れていた。その言葉に驚いたような反応した後、振り向いて納得したような表情を見せた。


「そうか、陽の守の国の出身だったわね。その名前は『妖弧』のことかしら?」


「あ、ああ、文字通り個体によって尾の数が違う狐のことだ。正式名称は『多尾狐』だけど多くの、主に外国の人なんかは『妖弧』って呼んでいるな。」


 少し昔を懐かしむような顔をして、すぐに嫌そうな顔に変わった。言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。


「……私……いいえ、私が機械人形になる以前、私はとある人間に作られたクローンだったの。ヒトの遺伝子と妖弧の遺伝子を組み合わせて作り上げられた人ならざる者…………」


 悲しそうに笑ってこう続けた。


「そして今は自ら作り上げた機械の体で永遠に生き続ける運命に囚われているわ。話が逸れているけどこれだけは忠告しておきたいの。」


 そう言ってじっと俺の目を見つめる。その目には強い力が感じられた。


「ストラーと名乗る者に気を付けなさい。いつ現れるか分からないけれど、いずれ必ず現れるはず。あなたが出会わなければそれに越した事はないのだけれど……」


 この人は一体どれだけの時を生きてきたのだろうか?きっと何かを背負って一人で戦っているのだろう。追求するつもりはないが、忠告はしっかりと心に刻んでおこう。


「さて、話を元に戻すわね。次は……そうね、南天の『ロワール』にしましょう。」


 画面には南端の地図が拡大表示された。周りを高い山々に囲まれた国のようだ。


「ロワールは見ての通り山に囲まれているわ。交通手段は洞窟を抜けるか山を越えるかしかないわ。残念ながら今この世界には空を飛ぶ技術はないの。魔法の組み合わせ次第で短距離飛行は出来るけれども、山を越えるのには向いてないわね。もし出来ても止めておきなさい。」


 まだ魔道砲とか言うのしか撃った事がありませんのでご安心ください、と心の中で言っておいた。


「この国は、生身による戦闘を主眼において心身の修行に励む人々の集まりで出来ているわ。それ故に王政ではないけれども、驚異的な能力を持った『雷龍・カミガナルカ』が守護しているの。その龍を護衛するのが『近衛守護気功団』と呼ばれる者達よ。彼らが実質的にナンバーワンといってもいいわね。気功団はその名の通り自身の気を操り戦う集団よ。その頂点に立つ者は身体を金剛石の如くまで硬化させる事が出来るらしいわ。あくまで守護を主とするために攻撃の面ではさほど役に立つ訳ではないらしいけれどもね……」


 気功、ね。どうも俺のいた国ではそういったインチキが多かったせいか、にわかには信じ難いな。会って見れば違ってくるかもしれないが。


「ちなみに、そこのリリィクの義理の妹『ルアココ』が今この国に留学中よ。」


「機械人形、その名を言っては駄目ですよ。」


「あら?ああ、そうだったわね。訂正するわ。リリィクの義理の妹『ココ』が留学中よ。」


 よく分からないが何かあるらしい。詳しくは聞いても教えてもらえないんだろうな。どうもそんな雰囲気だ。ちなみにリリィクのお菓子は六袋目に突入しました。


「最近は守護気功団の団長引継ぎを巡って色々あるみたいだから、もし行くときは気をつけなさいね。」


 なんだか忠告されてばっかりだ。そもそも彼女一人で喋り続けてる気がするんだが、機械だと喉が疲れないから構わないんだろうか?


「次は、西天の『ガルマンド』ね。」


 このまま最後まで黙って聞いていよう。西端の地図を拡大する機械人形を見ながらそう思った。


「この国は剣術が優れているわ。生活様式はほとんどこの国と同じだけれど、魔法に頼ってはいないわ。国を治めるのは『カルメア・ガルマンド』女王、優秀な双剣の使い手よ。カルメア女王の代になってからはバーゼッタとの交流が増えたわ。その象徴としてガルマンドでは魔法を剣術に生かす研究が成されているわ。そして、バーゼッタには近々優れた剣士たちが派遣されてくる予定よ。その歓迎式典が魔法大会と同時に開催されるわ。ふふ、それまでに魔法を詳しく教わって出場してみたらどうかしら?」


 結果はきっとボロボロだろうな。出来ればやめておきたい。


「どうです霧原、出場してみますか?」


 なんだかキラキラした瞳で見つめられてしまう。お菓子は七袋目だ。


「えっ!?あ、ああ、そうだな…………」


 やめておきたいとか考えながらも、リリィクが期待に胸を膨らませているらしいことに気付いてしまうと心が揺らぐ。魔法大会がどういったものか分からないが、良い結果が出せれば彼女は喜んでくれるかもしれない。そこまで考えが到達すると俄然やる気が出てくるのは悲しい男の性なんだろうな。


「出てみようかな。」


 そう言った瞬間、彼女が微笑んだ。


「はい、期待していますね!」


 言って良かった!よしっ、頑張ろう!!


「……なるほど……」


 何やら機械人形に納得されてしまった。すみません、自分男なんで、悲しい性を背負っているんで……。


「ふふ、私が説明するのはこれくらいにしておくわ。北天については明日にでも『守護龍』に会って聞いたほうが詳しく分かるでしょう。」


 そう言って機械人形はパソコンの電源を落とすと俺の手からカレーを奪い取る。そういえばあったな。すっかり忘れてた。


「温め直すわ。その間にあなたの得意な属性を調べましょう。」


「属性って……魔法の?」


「ええ、そうよ。ちなみに龍弥は水だったわ。そういえばあなたは紅蓮の魔道砲を撃ったそうね。でもそれはあなたの属性ではないわ。残念ながら、ね。」


 意地悪な笑みを浮かべてふふっと笑う。


「炎が得意じゃない、ということか?でもあれだけ凄まじいのを撃ったわけだし、にわかには信じがたいんだけど……」


「いずれ分かるわ。でも、私の口からは言えないわね。ふふ、あなたの得意な属性は風よ。」


 調べる、と言っていたのにあっという間だ。もしかして今の会話の間によく分からない手段で調べられていたのだろうか?


「調べるまでもないわ。だってあなた、お父様にそっくりなんだもの。」


「お父様?君の?」


「違うわ。あなたのよ、霧原勇人。あなたはあなたのお父様に見た目がそっくりなのよ。ロワールにいる『霧払いの使徒』にね。」


「は?俺の父さん?霧払いの使徒?」



 ふと、俺が小さかったときの父親の言葉が脳裏をよぎる。





『父さん魔法が使えるんだぞ!』


『風を操れるんだぞ!!』


『実は父さん別の世界からやってきたんだぞ!!!』






 ……父さん、俺は今まで冗談だと思ってたんだが……


「彼もあなたと同じく『伽の守人』に世界を行き来させられた人間の一人なのよ。あなたとの違いは元々こちら側の人間だった、ということね。」


「だからあんな不思議な名前だったのか……」


「あら、なんて名乗っていたのかしら?」


「きりはら しとう……霧原紫藤だよ……」


「……そのままね……」


 なんだか恥ずかしい。ほとんどノリだけで生きてるような人だったけど自分の名乗り方もノリで決めてたのか……。まさかこんなところで生存を確認できたうえに身内の恥をさらす事になるとは思わなかった。是非ともロワールに行く機会を作って会いに行かなくてはならなくなってしまったな……。


「ふふ、彼は元気よ。近い内に会えるといいわね。さあ、これを食べたら今日は帰りなさい。」


 またもや忘れかけてたカレーを受け取った。


 しかしこの世界、食べ物や機械、使う文字やら言葉やら何やら俺がいた世界とほとんど変わらない。だからこそあまり混乱することなく馴染む事は出来るかもしれないが、疑問は尽きない。明日会うという守護龍はもう少し詳しく教えてくれるだろうか?


 そして、父親が生きていると言うことをここで知ることになるとは思わなかった。だとしたら、龍弥がいて俺がいて父さんがいて……あの娘は?


「ごめんなさい、女の子が召喚された記録はないわ。」


 機械人形はそう答えたが、彼女も見られていたということを思い出すと、やはりこの世界にいるような気がしてならなかった。





 ちなみに、リリィクはスナック菓子を十袋、一人で完食していた……

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