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第四章  研ぎ澄まされた刃の音色  3

 城を出て街の外へ向けて駆けて行く。裏口から出たものの、操られた兵士たちはそこかしこに居た。


「簡単にはいかないか……」


 こちらを見つけるとわらわらと群がってくる。

しかし、むやみに攻撃はできない。彼らは皆傀儡の魔法で操られているだけなのだから。


「動きは鈍いな。なんとか抜けられそうだ。」


「はい、手を出さずに済みそうですね。」


 幸いにも動きは鈍い。開けた一本道にもたどり着いた。後ろがすごいことになってるが、このまま駆け抜ければ行けるはずだ。


「勇人、砂が!」


「何だこれ!?」


 突如左右から同時に砂が一対の蛇のようにうねりながら襲いかかって来た。

その大きさは二人だけでなく後ろの集団も半分ぐらいは呑み込みそうだ。


「勇人、私から離れないでください!」


 リリィクが障壁を張って猛攻を防いでくれてはいるが、思うように進めず後ろとの距離が徐々に縮まってきている。


「あっ!」


 リリィクが小さく悲鳴を上げた。それと同時に一対の砂蛇が障壁の目の前でぶつかり合い、凄まじい衝撃と共に爆散した。

周囲が飛び散った砂で黄色くかすんでしまっている。


「爆砂黄塵……これは、黄塵の魔道砲ですね……」


「追手に魔道砲使いがいるのか!?」


 戦慄した。紅蓮の魔道砲の威力を知っているから尚更他の魔道砲の威力も想像してしまう。


「足止めが目的のようですね。そうでなければ障壁が弾け飛んでいるはずです。」


 リリィクは障壁の無事を確認すると迷わず走り出した。


「だとすれば止まるわけにはいきません。さあ、勇人も早く!」


「ああ!」


 再びリリィクに並んで走る。後ろの集団は魔道砲にも怯まず突き進んできている。止まるわけにはいかない。


 俺たちが走り出すとまたゆっくりと二対の砂蛇が頭をもたげ始めた。


「来ましたね。ですが次は突っ切ります。」


 そう言って障壁の出力を上げた。


「爆砂黄塵が来ます。怯まないで走ってください!」


 彼女を信じていたから怯まずに走った。先程と同じように二対の砂蛇がぶつかり爆散した。

爆発の衝撃で空気が振動していたが、その中を真っ直ぐ突っ切って前へと進んだ。


しばらくは何見えなかったが、すぐに砂煙は晴れた。後続も相変わらずだ。それでも走り続けるしかない。


「勇……人……っ!」


 突然リリィクが怯えた声で俺を呼び足を止め後ろを向いた。何事かと思い彼女と同じように後ろを振り向いた。


 同時に後方の集団も足を止め、規則正しく左右に割れて整列した。その遥か後方に微かに光が見えた。光は段々と強さを増していく。

そして身に覚えのある感覚がした。収束して、膨張して、でもそれを圧縮して、さらに強く、力強く禍々しく!


「伏せろっ!」


「はいっ!」


 お互い叫んで地面に伏せた。リリィクは正面に障壁を集中させていた。砂嵐よりも恐ろしいものが来ると分かっていたから。


「来ます。激流槍……紺碧の魔道砲です!」


 想像以上の威力だった。ソリドのジェットブラスターとは違う一本の水流。それはリリィクが集中させた障壁で僅かに上方に逸れたが、

すぐに飲み込むようにあっさりと障壁を突き破り、遥か後方の建物までもあっという間に貫いていった。


 魔道砲が終息したのを確認して体を起こすが、あっという間に城側を残して囲まれてしまった。


「よう、久しぶりだな、勇人。」


 その隙間から見知った顔が近付いて来る。


「龍弥……」


「お前が姫様と逃げ出そうとしてるって聞いてな。ちょっとからかいに来てやった。」


「ちょっとじゃ済まないだろう。」


「お前なら大丈夫だと思ってたからな。」


「そうか。」


お互い距離を保って目を合わせる。同じ城に居たのにこうして会うのは二回目だ。


「龍弥、行かなきゃいけないんだ。通してくれないか?」


「……愚問だって分かってるんだろう?」


「そうだよな。だったら……っ!」


 不意にプレッシャーを感じて身構えた。


「龍弥様!」


 プレッシャーの正体が龍弥と俺の間に舞い降りた。ルビーのような瞳、威圧感のオーラ、そして大きな違和感。

廊下で龍弥と一緒にいたあの女性だ。


「手を出すな。俺の後ろにいろ。」


「……はい……」


 龍弥の言葉に従いすっと後ろに下がる。おそらくトーマが龍弥に与えた部下なんだろう。


「さあ勇人、だったら、どうするんだ?」


 龍弥はこれ以上手を出すつもりはないらしい。


「……リリィク、魔道書を。」


「勇人、何を……?」


「天を焦がす。」


 腕を天に伸ばした。


「わかりました。」


 何故だかふっと笑ってリリィクが魔道書の白紙のページを開き、俺の腕に自分の腕を添わせた。


「地を穿ち、天を焦がせ。我が手に宿りしは炎の息吹。紡ぎ出すは火炎の砲弾。」


 これを撃つのも三回目か……


「焼き貫け、紅蓮の魔道砲!!」


 リリィクと共に詠唱を終了し魔道砲を天に向かって放った。それは周囲の闇を眩く照らし天へと伸びていった。今まで撃った中で一番長い時間続いていた気がした。

やがてゆっくりと小さな軌跡を残し消えていき、周囲にはまた薄暗さが戻った。


「……龍弥、これをお前や皆に向かって撃ちたくはない。」


「ああ、ご遠慮願いたいね。ま、俺は正直元気そうなお前さんたちが見れて満足さ。道を開けてやれ。」


そう言ってあっさりと道を開けさせる。


「……なあ、彼女は……」


「この世界に居る。そして、彼女のために俺はこっち側に居る。今言えるのはそれだけだ。さあ、行きな。」


「あ、ああ……」


「さあ、走れ!」


 龍弥に急かされリリィクの手を取って走り出した。その先にはまっすぐ外への道が続いていた。

あいつには自分の選んだ道がある。俺はリリィクとこの道を先に進もう。


 民家の数が少なくなり、外壁に近付く。思えば街の外に出るのは守護龍に会いに行って以来か。


 こういう状況なら守護龍に会いに行くのも悪くない気がする。きっと力になってくれるはずだ。それにあの娘のことも気になる。


「勇人。」


 考え事をしながら走っていると、隣から名前を呼ばれた。


「何だ?」


 リリィクの方を見ると意地悪そうな笑顔でこっちを見ている。


「はっきりいって『天を焦がす』は格好つけ過ぎです。」


「それで笑ってたのか……」


 恥ずかしさと不安と期待が入り混じる中、門を越えた。一刻も早く森の大賢者とやらに会わなくては。




















「勇人、姫様のこと思い出してねえな。」


「龍弥様……」


「今は『様』、付けなくていいぜ。」


「はい……うん、龍弥。」


「いつまでアイツを騙せるかはわからんが、もう少し辛抱してくれ、ナナ。」

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