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第三章  想いと思惑  5

「霧原、貴方しかいないのです。お願いできますか?」


 リリィクにそう言われたのは今朝のこと。

 何の話かといえば今晩開かれる歓迎式典前夜の晩餐会で行われるダンスにおいて、

俺に彼女のラストダンスの相手を務めてほしいということだった。


「……少し考えさせてくれないか?」


「はい、ラストダンス直前までは待ちます。でも、それまでに答えがいただけなかったら、


 強引に腕を引っ張ってでも踊らせますから……」


 俺が嫌だと答えなければ確実に踊らされるわけだ。

 しかし、彼女はどうしてこんなにも俺と一緒にいようとしてくれるんだろう?

一目惚れしてしまった俺からしてみればこの上なく嬉しい状況のはずだが、何故か腑に落ちない。


 もしかして彼女も俺に一目惚れを!?


 そんな考えさえ浮かんでくるが、何か違和感がある。

 来訪者だから親切にしてくれてるわけでもないようだ。現に龍弥には声をかけることすらしない。話題にすることすらない。


「ストリア大臣には気を付けて下さい。

 リュウヤさんのように引き込まれては戻れる保障はありませんから……」


 不意に彼女の言葉を思い出す。もし俺もそのストリア大臣とやらに引き込まれていたら、

今こんな風に話すことすらできないのかもしれないな。

 ん?つまり彼女は俺が来訪者で且つストリア大臣に引き込まれていないから話しかけてくれるのであって、決して好意からではなく……

 いかん、それは悲しすぎる。

そもそもそれだけの理由でラストダンスの相手に選んでくれるはずがない。そう信じたい。

 そもそもラストダンスというのは……


「また考え事ですの?」


「ひょっ!?」


 どうやら悩みながらひたすらウロウロしていたらしい。

突然ユリアルに声をかけられて変な声が出てしまった。


「まったく、お姉様のラストダンスに誘われただけで悩みすぎですわ。


 それではお姉様に対して失礼ですわよ」


「もしかして顔に出てたか?」


「いいえ、お姉様から聞きましたわ。『ユウトを悩ませてしまうとは思いませんでした』と、

 落ち込んでいましたもの。」


「いや、だって俺なんかが受けていいものか……」


 そう答えながら違和感。……ユウト?


「お姉様がそうしたいと願っているのですわ。お兄様が悩む必要はございません。

 さっさとOKの返事をしに行きなさいまし。」


 その違和感を上書きされた。


「なんだよお兄様って!?」


「わたくしがそう呼びたいだけですわ。気にしないでくださいまし。」


 いや、気になる。気になりすぎる。確かに妹がほしいと思ったことはあったけれども、

これは唐突過ぎる。


「あら、そういう趣味がおありですの?ちょっと距離を置こうかしら……」


「ああ、こういうのは顔に出るのね……」


「ええ、ばっちり、ですわ。」


 やはり俺の顔は万能の会話機だな。正直いらない機能だと思うが……


「ほら、さっさとお行きなさいまし。お姉さまは……うん、何処かにいらっしゃいますわ。

 御自分でお捜しなさいまし。」


「……まさか散策に?」


「ええ、いつも通り……」


 また飲食店巡りか……


「仕方ない、捜すか……」


 街に向かおうと一歩踏み出した。その時……


「あら、仕方ない、だとあの子は悲しむわね。」


 不意に声をかけられた。声のした方を向くと一人の女性が立っていた。

黒の長いポニーテールに、黒に紫のヒラヒラがついたドレスを着た女性だ。

腰には二本の剣を携えている。


「あの子は貴方を選んだのよ。仕方ない、では駄目。しっかりと決心してから行きなさい。

 ユリアル、無駄にけしかけては駄目よ。考える時間も重要だと覚えておきなさい。」


 赤い瞳と落ち着いた話し方に引き込まれてしまう。リリィクみたいに何か不思議な魅力がある。


「お母様!」


「え…………ええっ!?」


 俺は自分の耳と目を疑った。ユリアルの母親といえば、剣の国・ガルマンドの女王

『カルメア・ガルマンド』であるわけで……。で、確かユリアルともう一人お子さんがいるわけで……。

いや、それにしてはものすごく若く見えるわけで……。それはもうリリィクあたりと

同年代に見えるわけで……


「ふふ、ありがとう……。褒めているのよね?」


 その瞬間、俺は自分の顔を潰したくなった。


「え、ええ、大変お若く見える……うん、失礼を承知で聞きます。


 本当にカルメア女王ですか?」


 聞かずにはいられなかった。失礼なのは重々承知だが、この容姿でユリアルとさらに

その兄を産んでいるとは到底思えなかった。


「お兄様!」


「良いのよユリアル。この外見では貴方が疑問を抱くのも当然だと思うけど、

 それでも私は私。間違いなくカルメア・ガルマンドよ。」


「大変失礼しました。」


 俺は片膝をついて頭を下げた。今のは結構な失言だ。相手が悪かったら命すら

危うかったかもしれない。自分で「この外見」と言えるほどに彼女自身でも疑問を

持っているに違いない。そういったことに関して安易に質問すべきじゃなかったな。


「気にしないで、キリハラ ユウト。疑問をぶつけることは決して悪いことじゃないわ。

 そうね、いつか時が来たら貴方にもこの身体の秘密を話すと約束しましょう。それで良いかしら?」


「……はい。本当にすみませんでした……」


「ふふ、さあ、立って。」


 そう言って差し出された手を取って立ち上がる。不意に母親が恋しくなった。


「さあ、リリィクを捜しに行きなさい。あの子は一途なのよ……早く行ってあげなさい。」


 全てを包み込むような優しさと、そんな中にも厳しさが顔をのぞかせる。

きっとこれが母親なんだろうな。


「はい、失礼します!」


 踵を返して駆けだした時には、もうリリィクのことしか考えないようにした。

彼女に誘ってもらえて嬉しかった。ただそれだけじゃないか。それでいいじゃないか。




 でも、何故彼女は俺を……?




 その疑問だけはどうしても拭えなかった。



















「行ったわね……」


「……お母様、一つだけ聞いてもよろしいですか?」


「何かしら?」


「どうしてお姉さまはお兄様をあんなにも慕っているのですか?それにお兄様も……」


「……ユリアル、貴方には話してもいい頃ね。この話誰にも……

 特にユウトには決して話してはいけないわ。良いわね。」


「……はい。」






「……あの子と…………リリィクとユウトは幼い頃に出会ったことがあるのよ。」

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