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第三話 新人 出会い

 今回は一気に登場人物が増えます。脱マンネリ化ですね。第二話ではコメディーよりだった内容も、少しシリアスになるとかならないとか。今回もどうぞ最後までお付き合いください。

第三話 新人 出会い


 さぁ、いよいよ今日だね。待ち焦がれた流木真依とのご対面だ。胸がゾクゾクするのは、彼女と会えるのが楽しみなのか、それとも胸元の回路にノイズが走ったか。

 私が知る限り、彼女は少し強くなったらしい。うれしいね。そうでもしないと、ここにはたどり着けないからね。ただ、彼女にはもっと強くなってもらう必要があるからなぁ。

 ……ああ、前置きはこのくらいにしておこう。私も準備しなくては。まずはあの会場にウイルスを送ってと。あれ?私は誰かって?大丈夫。そう遠くないうちに分かるから。それでは。


 何気ない日常に、一台の営業車が過ぎ去る。時速六十キロ、コンクリートの破片が飛び跳ねた。向かうは新人研修大会会場、盾前電操株式会社(たてまえでんそうかぶしきがいしゃ)、大ホール。カチカチに固めた髪、深夜までかかったネイル、少し慣れてきたスーツ、肩に力が入る。

「盾前電操株式会社といえば、最も大きな電子操縦士の事務所ですね、全切事務所もあれぐらい大きくしたいですよね、全切さん?」

「……」

 ハンドルを握る手に、いつもより力が入っている全切さんを横目に、明るく振舞う援太さん。そして私は

「緊張しなくてもいいんですよ流木さん。一大企業が会場でも、大量の新人がいても、流木さんなら堂々と胸張って大丈夫です!」

 新人研修大会、それは、今年度入社した新人電子操縦士が一同に集まり、その技術を競う。新人の知名度や実力を業界に広めるのはもちろん、所属事務所の宣伝の場でもある。ただし、失態を犯せば事務所ごと公開処刑という反面も持つ、ありとあらゆる大人の思いが交差する大会でもある。

 そして、会場はよりによってあの盾前電操だ。今年も珠玉の大型新人を何人も採用したとか。その上会場が自分たちの会社となればいくらでも優遇できる。

「いい?盾前の新人野郎に喧嘩ふっかけられても無視。関わるだけ損だから。」

「はい……」

 軽快にハンドルを切りながらも、全切さんは文句混じりにアドバイスをくれた。

 どこか足先がピリピリする。それはこれからの幸運を予知するものか、はたまた、不運を知らせるものか。そうとも知らず、車は無情にも会場に着いた。


 「全切事務所の流木さんですね。エントリーナンバーは一二八になります。そのままホールへお進みください」

「ありがとうございます」

 言われるがまま、私たち三人はエントランスを進み、ホールへ向かった。するとホワイエで人だかりがあるのを見つけた。

「ちょっと見てきます」

 そう全切さんと援太さんに伝えると、二人は浮かない顔をしていた。隙間を縫って様子を見に行くと

「期待の新人の四作野さん!お気持ちいかがですか?」

「まぁ一位以外獲る気はないっすね。盾前電操に泥塗る訳にはいかないんで。」

 なんだあの男は。目までかかるほどの紫色のマッシュルームヘアー。細い目が癪に障る。

「あいつか……四作野 文途(しさくのふみと)

 いつも間に全切さんが隣にいた。

「四作野 文途、二級電子操縦士、盾前電操の採用一位通過、完全に調子乗ってますね」

 いつの間にか眼鏡を持ち上げた援太さんも隣にいた。

「いいですか、流木さん。あいつと出くわしたら要注意です。噂によると巨大な鍵を生み出してウイルスと戦うとか。めんどくさそうなので避けましょう」

 いつも優しい援太さんがあれほど中傷するとは。それにしても、奴は二級電子操縦士。私は三級だから、喧嘩を仕掛けても勝てる相手ではない。

「三級の新人なんて、相手じゃないっすね!」

 頼む、どうなってもいいから奴を殴らせてくれ。


 定刻通り十三時、私たちはホールの席に着き、大会の開始を待った。

「定刻になりましたので、今年度の新人研修大会を始めさせていただきます。」

 甲高いヒールの音とともに、一人の女性の登場で一気に会場がざわついた。司会者にしてはざわつき過ぎに感じる。

「本日司会を務めさせていただきます。一級電子操縦士の打砕 蜜羽(うちくだみつは)と申します」

 打砕と名乗る者は、整った顔に光る笑顔、嫉妬するほどのベビーピンクのストレートロングヘアをまとっている。そして何より、あの豊な胸。私はというと……。落ち着け、女性は胸ではない。

「ご存じないですか?流木さん、あの方は一級電操士の打砕 蜜羽です。結構好感度高いで有名ですよ」

 援太さんの耳打ちで納得した。

「さて、挨拶はこの辺にいたしまして、ルールの方を説明いたします。」

 打砕が髪を靡かせると、舞台に一台のパソコンが運ばれてきた。

「まず、参加者の皆さんには無線チョーカーでこちらのパソコン(大会会場)に入っていただきます。」

「え、うちのやつ有線じゃなかったっけ……?」

 周りに配慮しながら小声で呟いた。

「大丈夫ですよ。この日のために経費で無線タイプ買いました!」

 片手でグッドポーズをしながら答えてくれた。私もピースサインをして答えた。ナイス!援太さん。そしてルール説明は続く。

「電子世界に入っていただきましたら、ウイルスを撃破してもらいます。赤いウイルスが一点、青いウイルスが二点、黄色いウイルスが三点となります。最も多くの点数を稼いだかたが、今大会の優勝者になります。ただし、点数が高いウイルスほど強力なのでご注意ください。」

 柔らかい微笑みとともに説明が終わった。仕舞に「うふっ」と打砕が顔を傾けると一斉に会場が盛り上がった。


「真依、チョーカー」

 全切さんにチョーカーを渡されて現実味が出てきた。はい、と勢いよく返事るすと速やかにチョーカーを装着した。チョーカーのランプが数回点滅すると、ピッと音がなり、舞台のパソコンと自動で接続したようだ。

「流木さん、頑張ってくださいね」

 両手でグッドポーズをとると援太さんは花のような笑顔で言ってくれた。

「それでは新人研修大会を開始いたします。メインパソコン電子回路潜入まで三秒前。三、二―一」

 沢山事務所で練習してきた。何度も現場で実践してきた。今の私はきっと誰よりも強い。この私の本気、全部ぶつけてやる。私は静かに目を瞑ると、意識をチョーカーに任せた。

「真依―行け……」

「えー、失礼しました。一つお伝えし忘れました。大会を観戦される皆様におきましては、舞台上のスクリーンはもちろん、お手持ちのスマホやパソコンから見ることも可能です。その場合は、こちらのQRコードをお読みください。それでは、どこが勝つか負けるか、最後まで大会をお楽しみください、うふっ」


 意識が戻ると、私はレトロな雑居ビルにいた。薄暗い空間に、マネキンがこちらを見ている。どうやらここは服屋のテナントらしい。可愛い服がちらほらあり、僅かながら緊張がほどける。ワンピースを着たマネキン、首が取れたマネキン、そして赤いマネキン。

 赤?

「キィーーーー」

 女性のシルエットをしたウイルスが襲い掛かってきた。

「まじ?!」

 とっさに身構えて奴のパンチを受け止めた。

「パンチは私の芸なんだけど!」

 素早く息を吸い込み、ウイルスの顔面に拳をお見舞いした。

“ドゴォーン”

「ウィ、ィィ……」

 相手の顔が歪み、顔から足に向かって体が崩れていった。

「私やるじゃん」

「ピンポン!一二八番、一点追加」

 チョーカーからアナウンスが入った。さて、ウォーミングアップも済んだことだし、行きますか。私は服屋を背に、歩き出した。


 あくびが出る。俺が電子から生み出した鍵をウイルスの胸目掛けて刺して破壊するだけ。もっと歯ごたえのあるウイルスはいないのか。

「あぁあ、ほら、また」

 青色のウイルスに対して何人もの電操士が群がっているではないか。情けない。たかが青色だぞ。俺が伸長と同じぐらいの鍵を生み出すと、ウイルス目掛けて一直線に投げた。そして、胸に刺さると、鍵をひねる動作をして見せる。

「開け」

“バキッ、ガガガーー”

 刺さった鍵が勝手に胸をえぐりながら九十度回転した。そうすると、ウイルスの体はあっけなく崩れた。

「ちょっと、それ私が狙ってたウイルス!」

「おいお前、獲物の横取りとはいい度胸だな!」

 右手を軽く広げ、先ほどよりもやや小さめの鍵を作ると、今度は名も知らぬ電操士に目掛けて

「誰に口きいているとでも?」

 鍵をその電操士の胸の前で寸止めさせた。腰を抜かしている様が滑稽だな。少しは周りの見せしめになったか。

「ねぇ、謝りなよ!」

 背後から甲高い声が響いた。今度はどこの犬が吠えているのやら。鬱陶しく振り返ると、そのには知らない電操士がいた。オレンジ髪のおさげ、ピンクの長いネイル、ギャルのような電子服(エレクトロウェア)、見るからに阿保な奴だ。


 「何やってんの!」

「何やってるんですか、真依さん!」

 ホールで全切さんと援太さんが叫んでいる気がした。聞こえはしないが。それもそのはず、私はやらかしてしまった。あれだけ無視しろと言われたのに。ウイルス探し歩いていた時に、大きな音の後に尻餅を着いた者と煽る者がいたのだから、つい口を挟んでしまった。

「ねぇ、謝りなよ!」

 言った瞬間、後悔が背中を走った。紫髪の電操士がゆっくりと振り返り、顔を見た。そいつは

―四作野 文途

「誰、そこの女」

 まさかあいつが四作野 文途だとは。絶対に関わってはいけない人物に絶対にしてはいけない大口叩いてしまった。

「あっ、その、あれがですねぇー。んー、あれ?、あー」

「はぁ?」

 眉間をゆがませて真っ直ぐ見てきた。身の毛がよだつ。とりあえず逃げる?どうやって?この状況で?

「そ、そ、そうですね…。誰かを、脅すとですねぇ、はい。なんか、バチが当たる的な?」

 これほど目が泳いだことはない。四作野がゆっくりと近づいてくる。足が震えた。

「じゃあさ、ちょっと勝負しない?あんたと俺、どっちがポイント稼げるか?単純だろ?」

 不気味に上がった口角を見ると、足が震えてきた。

「ねぇ?やるよねぇぇ?せっかくだから負けた方は罰ゲームをしようy」

「あっ!あっちにウイルスがいる気がする!私行ってくるね、またね!今度ネイル教えていげル」

 全力で走った。四作野の視線も、周りの視線も、どこかで見ている中継の視線も、全部の視線が痛い。私って、ほんとーに恥ずかっっしい。

「あら、エントリーナンバー一二八の方、逃げてしまいましたね。うふっ。ええっと、この方の所属事務所って」

 外では、ざわつくホールと突っ伏した全切さんと援太さんの姿があったことを、私は知らなかった。


「あらら、逃げられちゃった。せっかく楽しくなってきたのに」

「そうだよね、僕ちんもそう思ったんだよー、四作野くーん」

どこからともなく、甲高い声が響いた。

「えっ、てかお前だr」

“あ゛っ、あ゛あ゛ーーーー”


 とにかく誰もいない方へ、とにかく誰もいない階へ、フロアを、階段を走り続けた。

「はぁ、はぁ、本当に恥ずい、ここまでくれば、さっき見てた人、いないんじゃないかな」

 恥ずかしさのあまり、何も気にせず走った。そして足を休めようと、ふと周り見ると

「はぁ、あれ?私雑居ビルにいたよね?」

 いつの間に知らない場所に来ていた。そこはテナント一つもない。というか、ビルの様子をなしていない。息が白くなるほど静かな空間だった。

「うえっ、何ここ。ってか誰。カプセル?」

 約二十帖ほどの空間に、壁が無数のスクリーンでできている。そして中央には柱のようなカプセルが一つ。中には一人の少女が眠っている。

「えっ?女の子?」

 長いエメラルド色の髪と白いロリータドレスを着ていたから、女の子だと思い込んでいた。だが、近づいてよく見ると、輪郭や体格が女性とは言えない。むしろ

「男の子……?」

 もっとはっきり見ようとカプセルに手をついた。その時

“ガン!シューーーー”

 少女?を覆うカプセルが音を立てて溶け始め、中に入っていた液体が一気に流れだしてきた。

「うわっ、こぼぉ、こぼぉぼぉぼぉ」

 私は思わず溺れかけるが、なんとか態勢を維持する。

「は?どうなってんの?なにこれ?ってか女の子も流れちゃうやつ?」

 全てが流れ出ると、顔を手で拭き、恐る恐るカプセルがあった方を見ると

 その少女は宙に浮いていた。

 少女がゆっくりと瞼が開くと、七色の瞳が私を映す。そして女性とも男性ともとれる声で

「ありがとう。会いたかったよ、真依」

 そう少女は言うと、まるで春一番が吹いたかのような速度で私を横切り、消えてしまった。一体何だったのか、頭の整理が追い付かない。服が全く濡れていない。それだけ確認すると、私は元いた雑居ビルへ引き返すことにした。

 この謎の空間には一つだけ入口があり、長い長い一本の通路が続く構造になっている。周囲を見渡しながら通路を歩いていると、側面にもいくつものモニターが付いていることに気づいた。

「私こんな不気味なところ走ってきちゃったんだ」

 そう呟くも、ただ響くばかり。そして通路の終わりまで歩いてきた。ようやく雑居ビルに戻ってきた。戻ってきたはずだった。

 そこは、さっきまでいた雑居とは、似ても似つかないものであった。

“ぐちゃり”

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