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序章 第一話

 「あっ、またパソコン動かない」「ウイルス感染?!」

 こんなことで困ったことがあるのは、きっと作者だけではないはず。物理的にぶっ飛ばせればいいのにな、と思い、執筆しました。本作品では電子機器のウイルスと実際に戦うバトル、ダーク(?)、ファンタジーになります。是非最後までお付き合いください。

 いつまで浮いていればいいのだろう。視界は奪われたまま、胸に不安と恐怖が広がる。カプセルに閉じ込められて数十年。殺されず、生かされたまま。最初は戸惑ったけど今は何も感じない。やや狭いせいで、体を丸めて小さくならないといけない。無駄に長い髪がわき腹に当たる。せっかくならば大きく作って欲しかったな。予算厳しいのかな?

 だが、もうこんな生活ともおさらばだ。私の計算だとそろそろ出られるはず。計算には自信がある。しかし、ここに捕まったのだけは誤算だったが。さて、十五時三十二分、フェーズ一開始まで五分前。

「うえっ、何ここ。ってか誰。カプセル?」

おっ、来たね。待ってたよ、名前はDel…、いや、今は違う名前だったかな。これからよろしくね。私はね、ずっとずっと君のことが大好きだよ。



第一話 新人 起動


 階が上がる、テンションも上がる。ヒールの音が雑居ビルに響く。慣れないスーツに、いつものロングネイル。天井を向いたまつ毛、オレンジ色の髪は三つ編みにしてみた。さあ、これから始まる社会人生活、胸の高鳴りが止まらない。

「おはようございます、これからヨロです!」

……返事がない。

「あっああ…」


「ちょっと全切さん、今日からの新人さんには愛想よくって言ったばかりじゃないですか」奥の部屋から男が飛び出してきた。

「おっとすみません、僕の名前は崎守(さきもり) (えん)()と言います。よろしくお願いしますね。気楽に下の名前で呼んでください」

 あの方が援太さんね、この前の面接で会ったことある気がする。ちょっとふくよかな感じ、安心感あるネ。

「んで、こっちが社長の全切(ぜんせつ) 最子(さいこ)さん。社員は二人だけ、小さい会社でごめんね」

 あの女性こっちに目もくれずに書類整理しているんだけど。赤髪の前下がりボブだし。仕事はできそうだけど無理かも、あたしやっていけるかな。

「えっと、今日からお世話になります。三級電子操縦士の流木(ながれぎ) 真依(まい)です。早く仕事覚えられるように頑張ります」

「ほら全切さん、あれ言って」援太さんがお膳立てすると

「あー。ようこそ、全切電子操縦事務所へ」

 目つき怖っ、ってか棒読み。嫌だあの女。


 気まずい空気が流れる。どうしよう。

「ごめんなさい。流木さん。お茶入れるので、そこのデスク使ってください。そこ流木さん用のデスクなので。ゆっくり仕事覚えてもらえれば十分なのd」

「電操士なんだよね?」沈黙が三秒。

「うぇっ?そ、そうですけど」

 やめてやめて怖い怖い、いきなり会話に入ってこないでよ。汗止まらないってば。

「じゃあ現場、行くよ。」

 乾いた目でこちらを見てくる。また沈黙が三秒続いた後。

「は、はい!」

 しか言えないってこの空気。援太さん助けて……こっそり目線を援太さんの方に向けると

「下の車庫に会社の車ありますので、乗っていてください。僕も準備が出来次第行きますね。」

 お願い、そんな笑顔で言わないで。


「車の中で失礼しますが、今日の業務内容をお伝えします。」

 全切さん運転できるんだ。以外と運転丁寧だな。めっちゃ飛ばしそうな見た目してるのに。運転しない助手席の援太さんが説明って訳ね。

「場所は糸東馬市役所、住民管理部の住民データパソコンにウイルスが発生。住民データの奪取が目的だと思われます。」

「ん。」

「わ、分かりました!」

 なんて言ってしまったが大丈夫なのかな。一応学校ではやり方学んできた訳だし、電子操縦士の試験も通ってきたんだから。点数ギリだったけど。浮かない顔をしていたら援太さんが振り返ってきた。

「流木さん、もうすぐ着きますので準備お願いします。初めての仕事で不安だと思いますが精一杯お助けしますね…」

よかった。ちょっと安心。全切さんとは上手くやっていける自信がないけど援太さんなら

「全切さんが」

終わった。


 「本日は遠いところからありがとうございます。こちらがウイルスに感染したパソコンです。できるだけ早く通報したつもりですが、もしかしたらメインコンピューターまで感染してしまったかもしれません。そしてこちらが……」

 市役所の方が丁寧に状況を説明してくれた。もちろんこちらも丁寧に聞き取るわけだが、あの女。

「ほら、さっさとやるよ」

 全切さん聞きはしない。

「では、こちらが駆除内容で確認と、契約内容にサインをお願いします。」

 援太さんは援太さんで忙しそう。立っているばかりでは意味がないし、勇気を振り絞って全切さんのところに行こう。

「えっと、何かやることは」

「PCには外部端子接続済み、潜入準備するから首に電子操縦用チョーカーつけて」

 一切見ないで説明してくる、冷たいよぉ。ただそれでも

「了解。電子操縦用チョーカー装着完了。潜入パソコンと外部端子接続。同機確認。

 接続する端子を選び繋げる作業が続く。頭で考えている暇はない。無意識に近い状態で手を動かす。

「全ての機器の同機が完了しました。潜入準備完了です。」

「了解。それじゃ潜入する。準備はいいね真依?」初めて私の名前呼んでくれた

「もちろんです!」少しの微笑みとやる気に満ちた顔で答えた。

「PCの電子回路潜入まで三秒前。三、二―」

 全切さんの声が響く。いよいよ始まる私の仕事。この汗はきっと恐怖?焦り?嫌違う。興奮だ。

「一」

 一瞬だけ視界が暗くなったのも束の間。気づけばそこに広がるのは

「電子世界」


 一面真っ白な世界。ここは同機した市役所のパソコンの回路の中、電操士用語で電子世界という。物という物はなく、もちろん空気もない。わずかな風を感じるのは電子の流れだ。ここに電子操縦士、通称電操士が居られるのはこの電子操縦用チョーカーと、電子世界に入った瞬間に自動で着替えさせてくれる電子服(エレクトロウェア)のおかげである。チョーカーが外界との命綱になっており、電子服が全身を保護している。私の電子服は全身インナーにクロップドトップス、下はミニスカート、厚手のブーツと手袋。対ウイルス用の素材を使っているため全て黒一色に細く白いラインが入っている程度である。地味な色で萎えるけどオレンジ色の髪が映える。

「じゃあ、真依の実力見せてもらおうか。」相変わらず怖い全切さん。

「手始めに電子操縦士の仕事内容言って。」

「はい。電子操縦士とは、電子操縦用チョーカーを使って、ウイルスに感染した電子機器の電子回路に物理的に潜り込み、ウイルスを直接攻撃し、駆除する職業です。」

「直接攻撃するってどうするの?」

 矢継ぎ早に全切さんの質問が飛んでくる。

「はい。この空間に流れる電子を電子服のグローブを使って動かしたり、圧縮したり、武器を作ったりして攻撃します。」

「ん。教科書的だね。」それ褒めてる?

「ヴッ…ギギギギ…ザザザ…」

 得体の知れない物体が近づいてくる。ヒトのようなシルエットをしているが輪郭を保っていない。青色だと思ったら黄色い絵の具が混ざるように色が変わり、時間が経つ度に赤や紫へと変わり一定ではない。

「来たねウイルス、ナイスタイミング。」

 横目でウイルスを見つめながら全切さんが呟いた。

「さて、真依、仕事だよ。あいつ破壊してごらん」

 軽い返事をした後、手のひらに力を込める。流れを掴むんだ、電子の流れを。電子の風が肌を撫で、髪がふわりと浮いた。静電気が指先に集まり、チリチリと痺れる。その途端、ウイルスが急に近づいてきた。

「キィィィィ…」

 甲高い悲鳴のような電子音が皮膚をざらつかせる。音とともに向かってくるウイルスを前に拳を強く握る。バリバリと音が鳴る。電子が集まった。今だ。

「うぉりゃーーー」

 拳を振るった瞬間、グローブ越しに伝わる硬質な感触。ウイルスの表面が砕ける音が耳を打つ。やった、やったのか。ウイルスはノイズとともに消えていき、私はゆっくりと息を吐いた。

「ほら、余韻に浸っている暇はないよ」

 全切さんの声を聞いてはっとした。気づいたら二人の周りには先ほどのウイルスに似たウイルスが大量にわらわらと茂っていた。恐れている場合ではない。だが感覚は掴んでいる。今の私は最強だ。

「ほらいくよ」

 一斉に飛び出すと手当たり次第にウイルスを破壊した。手に電子を集めては殴り、集めては蹴りをかました。殴る、蹴る、回避、反撃。電子が弾け、光が走る。次々とウイルスが崩れていく。まるでゲームのようにウイルスを一掃していった。ほとんどのウイルスを駆除した時

「お二人さん聞こえますか?僕です、崎守 援太です。」

 チョーカーから援太さんの声が聞こえた。駆除に集中し過ぎて完全に援太さんのことを忘れていた。そういえばどうして援太さんは一緒に電子世界にいないのだろう。

「あいつは電操士の中でも外界からのアシスト専門だ。だからほら」

「前方二時の方向に強いウイルス反応があります。防衛システムを起動します。一時的に防御態勢はとりましたが十分に注意してください。」

 援太さんの仕事は後方支援なんだ、超助かる!さすが援太さん。援太さんの助けのもと、私と全切さんは電子の流れの下流の方に進んでいった。深層部まで行くと電子世界の様子が変わってきた。何もなかったのが一変、そびえ立つタワーが一つ。そこに土星のように輪が等間隔に浮いている。よく見ると塔の側面一つ一つに引き出しがついている。おそらくこれが住民データだろう。

「ウイルス接近、ウイルス接近。十分に警戒してください」

 援太さんのいうとおり、目の前には先ほどとは比べ物にならないほどのウイルスがいた。体格は私よりもやや大きく、色は灰色一色、時々ノイズが出ている。奴の顔らしきところを横断するように切れ込みが入ると動き出して音が出た。

「僕ハ情報ガ欲しいダケなんダ。殺さなイデ。コロさないでヨ。殺し合いではなくて、もツと楽しぃこトシヨウ」

 あいつ喋ってる?キショ、生理的に無理、思わず目線を逸らしたくなる。ってか楽しいことってなんなの。

「最近多いんだよね、喋るタイプのウイルス。こっちの情を煽っているみたいだけど、その作戦なら見た目変えろよ」

 そう呟きながら全切さんが私の傍に寄ってきた。溜息の音と無愛想な静電気の音が過ぎ去る。これは全切さんの本気が見られるパターンかな。どうやって破壊するのだろう。全切さんの電子服は皮ジャケット風の上着にシンプルなロングスカート、グローブとブーツは共通っぽい。一歩一歩ウイルスに近づく度に電子がざわめき、靡くスカートが悔しいがかっこいい。そして全切さんが振り返り口を開くと

「真依、よろしく」

 ちょっと待って、嘘でしょ。この状況で私がやるの?詐欺だろ詐欺。もー。

「了解です…」

 頬を膨らましながら手に電子を集める。集まった電子たちが静電気となり、光と力を帯び始める。慣れた手つきでウイルスの顔面目掛けて拳を振るった。

“ドカン”

 なんだ喋るだけのただのウイルスじゃん、今回も駆除完了。 と思っていた。

気がつくと殴られて倒れていたのは私の方だった。

「痛イよね、痛いよォ。痛い」

 そうウイルスが発すると左手を素早く振りかざしてきた。私は何とか身を翻して奴の攻撃を避けた。起き上がって態勢を整えようとしたが、奴の回し蹴りが私の右わき腹にヒットした。

「ぐはぁっ…!」

 息が漏れ、喉が詰まる。うわ、情けない声出ちゃった……、まじ萎える。それでも何とか踏ん張り奴の腹にボディーアッパーを食らわした。

「グはァッ」

 殴ったところから青白く同心円状に色が変わる。色が変わるたびに、ウイルスの形が歪む。なんとなく分かる、奴も必死だ。攻撃をしては攻撃を食らう一進一退の戦い。しかし、全切さんに悪い姿を見せる訳にはいかない。相手が一瞬下を向いた。今しかない。祈るように手を握りしめ、私が集められる最大限の電子を集める。あまりの静電気に髪が一気に浮いた。ここで決める。私は握りしめたまま助走をつけ、全力で胸くそ悪いウイルスの頭上に飛び上がる。

「グローブ圧縮率百パーセント!」

 私、真依のけたたましい声とともに両腕を奴の頭を目掛けて勢いよく振りかざした。髪が逆立ち、視界が白く染まる。光が爆ぜ、耳をつんざく衝撃音が響く。

だが、所詮私は新人で、相手の方が一枚上手だった。私が上から接近したのを機に右腕を掴まれた。右手を支点に上下関係が入れ替わり、奴が私の上にのし上がってきた。あっという間の出来事で開いた口が閉じない。そして私を掴んでいない方の手をドリル状に変形させ私の首を目掛けてそのまま――

「サイス加速率二十パーセント」

 全切さんの声を聞いた時には、もう既にウイルスは正中線に沿って真っ二つに切られていた。その光景を前に私は腰を抜かして

「全切さん、その宙に浮いた鎌って」

「あなたまだ電子(エレクトロ)武器(ウェポン)使えなかったんだね。もしかして三級電操士?」

 それは最初に言いました。そう、私はまだ三級。電子を操るのが必至で電子を使って物を創造できない。電子を操縦、圧縮して武器を作り、数多くのウイルスを撃破することによって始めて二級電操士に昇格する。大抵の者はそこまでだ。しかし、この世界で四人、圧倒的な功績と尊敬を集めたものだけが昇格できる一級電子操縦士が存在する。鋭くも細やかな装飾が施された全切さんの鎌。もしかして全切さんって一級…?

「あたし二級だけど」心読まれた?!

「とりあえず全てのウイルスは倒したか。あっそう、チョーカー壊されないようにね。あれ壊されると無理やり外界に戻されるから。面倒くさい上に心身ともに負担がくるから」

 相変わらずの小声と温かみのない目で言うのね、ありがたいけど。

「お疲れ様です。ウイルス反応の消滅を確認。お陰様で住民データの盗難を防ぐことができました。すぐ帰還準備をしますね。」

 援太さんの声で頭のてっぺんからつま先に向かって力が抜けていく。そのまま天井を見上げた。未熟だけど仕事を果たせたことに快感を覚えた。私が電子操縦士を目指したのは、あの日私を助けてくれた電操士さんにお礼を言って一緒に仕事をするため。その夢に一つ近づいたきがする。あの電操士さんは今どこで仕事しているのかな。

「帰るよ」

 そう呼びかけた全切さんに私は万遍の笑みを浮かべて返事をした。

「今日はありがとうございました!チョーサンキューです♡」

 一瞬全切さんの瞳孔が開いた。そんなにお礼を言われることが驚くことかな。それとも他の理由?

「うん、まあ、初回にしては頑張ったんじゃない」

 目線はそらされたが、私の体がほのかに温かくなった。


 ―午後八時、流木 真依が先に帰宅した全切事務所

「どう思う?援太」

「いきなり何ですか?全切さん」

「今回の件だよ」

「そうですね。役所のサイバーセキュリティはかなり厳重のはずです。さらに灰色の喋るウイルス、奇妙ですね」

「まぁただの勘かもしれないけど」

「それより全切さん、新人さんが来たってことはアレの準備をしないとですね」

 ニヤニヤ言う援太の顔が腹立つ。とはいえ準備はしないとだ、

新人研修大会。


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