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朝、起きても、私は私のままだった。

作者: 田中アネモネ

 朝、目が覚めたら何かべつのものに自分がなっていたなんて、そんな創作物のようなことは、現実には起こらない。私は私のまま、今日もベッドから身を起こす。


 少女の頃は、信じていた。


 ある朝目覚めたら自分がちょうちょになっていて、ひらひらと春の野を楽しく飛ぶ夢だとか、あるいは輝くような美少女になっていて、クラスのみんなのみならず世界中からチヤホヤされる夢がいつか現実となることを──


 しかし、私はいつまでも、私のままだった。


 死ねば異世界へ転生できるなんて、そんなよくある創作話を本気で信じてしまっていたのは、とても長引く風邪を心がひいていた時期だ。

 

 それでも時は、ゆっくりと動いている。


 秒針の動きよりも、遥かに緩い速度で、私の身体も心も、大人になり続けている。


 その動きのあまりの遅さと、その先に見える未来の空虚さに、私は思わずスマートフォンを手に取るのだ。


 小説投稿サイト『小説家になろう』を開く。


 そこに私の名を書き込む。


 しいな ここみ と──


 私は私でない私になる。

 その私が、さまざまな私をそこに創り出していく。


 今日はどんなしいなになろう。


 そうだ女子高生のここみを創ろう。それは誰もが振り返る美少女で、頭もよくて、喧嘩も強い。

 明日は300年生きたエルフ『シィー・ナ』になろう。輝くようなイケメンだ。日本から転生してきたオフィスレディー田中に恋され、彼女を連れて異世界を回る。テンプレとは違うけど、そんなことは構わない。

 私は私のなりたい私になるのだ。それを読んでくれたあなたが気に入ってくれるなら、私はあなたの中で新しい私となる。


 明日死ぬかもしれない病気を患っている私が、新しい私に生まれ変わる。


 作者としても、ここみはみんなに愛されて、独りの部屋でただスマートフォンを握るだけの私とはまったく違う、人気者になる。


 私が変わる。変わっていく。


 聴覚障害者で、内向的直感型の、誰からもおかしな社会不適合者やつとしか見做されない現実の私は、スマートフォンの中で目覚めると、さまざまな新しい世界に適合し、そのたびに、さまざまな新しい私に変わっていく。


 新しい人生を生まれ変わり直していく。


 永遠に──







 次の朝、目覚めると、目の前には何もなかった。






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― 新着の感想 ―
感想欄って簡潔に書くものだったんですね!すみませんでした。
 今日初めて『小説家になろう』サイトを訪れました。 他の方の作品を読むと自分が恥ずかしくなるので、何も読まずに一つ投稿してしまいました。  それから他の方の作品を読ませてもらおうと思いましたが、不慣れ…
小説を書く人はみな多かれ少なかれそういう思いがあるのかもしれません。
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