第2話
第2話完成しました!!
「ねぇ、そんなに痛かった?」
「寝起きに、いきなり的確なみぞおち狙いのパンチを受けて痛みを感じない奴を紹介してくれ。」
「はぁ?そんなのいる訳ないじゃん。時砂ってそんなにバカだったっけ?」
「…舞奈、皮肉って知ってるか?」
「ん?何?まったく聞いてなかった。」
「…。」
ちなみに今、俺たちは駅のバスターミナルで隣信学園前行きのバスを待っている。
私立隣信学園、近隣の学校の中ではトップ3に入るレベルの学力を誇る学校で、ミッション系のため、教会から援助金が出されているらしく、私立高校としては学費がかなり安い。そして今日はその学校の入学式、俺たちはその学校の新入生なのだ。
俺は片親っていうこともあって、あんまり金銭的な負担をかけたくないという理由でこの学校を志望した。(結局、特待生で授業料はタダになった。)が、舞奈にはこの学校を志望する理由が見当たらない。実際、勉強以外は人一倍出来る舞奈はいくつかの学校から声がかかっていた。そっちに乗っかっていれば、受験前に勉強を教えてくれと俺に泣き付かなくて良かったし、学費の面でも得だったはずだ。勉強を教えているときに、一度だけ、「なんでこの学校に行きたいんだ?」と聞いたことがあったが、「時砂ってなんでそんなにバカなの…」と言って拗ねてしまった。
(…やっぱり女子の考えることはよくわからない。)
「あっ、バス来た。ほらっ、早く行くよ!」
「わかってるよ。ハァ、だるい…。」
俺達はバスに乗り込み、後ろの席に座った。
「空いてるね、なんでだろ?」
「入学式は2、3年生が出席しないからだろ。」
「そっか…」
そしてドアが閉まり、『まもなくバスが発車いたします…』というお決まりのアナウンスを運転手がして、俺達を乗せたバスは発車しようとしていた。
「ま、待ってくれ~!」
(なんか聞いたことがある声だな…)
バスの窓から後ろを見てみると、真新しい隣信学園の制服を着たド金髪が全力疾走していた。
「あ、浅岡だ。おーい、あさおかー」
「おぉ、我が愛しの舞奈ちゃん!」
バカがこちらに手を振りながら走っている。
バカ、もとい彼の名前は浅岡海斗、中学のときに知り合って、それから舞奈に猛烈なアタックをし、それにことごとく気づいてもらえていないかわいそうなバカだ。だが浅岡はモテないというわけではない。初対面の女子には風貌のせいでドン引かれるか、怯えられるの二択だが、実際は話してみるとなかなか良い奴だし、容姿に恵まれているので中学時代は複数の女子から告白されている。しかも、かなり真面目なところがあって、加えてめちゃくちゃ勉強ができるため、教師たちも浅岡のことをあまり注意できない。極めつけは県内のかなりの数の学校から学力面で評価され、特待生の誘いが来ていたということだ。ちなみに浅岡は、その誘いを全て蹴って俺達と同じ高校を選んだ。その理由は、「我が愛しの舞奈ちゃんと同じ高校に…」ということだ。まとめると、〈勉強のできるバカ〉それが浅岡海斗だ。
「あっ、転んだ
…勉強はできるんだよな」
「うん、浅岡って素でバカなんだよね…」
(舞奈よ、お前も人のこと言えないぞー)
「な、何?人の顔じろじろ見て」
「いや、なんでもない」
「なんでもなくないでしょ?何か言いたかったんでしょ?言ってよ!」
「なんでそんなに必死なんだよ?
それよりどうした?顔、赤いぞ?」
「!!!っ」
「どうしたんだよ?」
「…なんでもない」
「お前こそ、なんか言いたいんじゃないか?
あ、もしかして2、3日前に借りたマンガか?あれなら家に帰ったらすぐに返すよ。」
と、俺が言うと舞奈はなぜか少し怒ったように、
「今、私が着ている服について何かないの?」
と言った。
「制服がどうした?別に普通じゃないか?
あ、もしかして見栄張ってちょっと小さいサイズで買ってキツいとかか?」
舞奈ならありそうな話だ。
「そう…時砂には、そう見えるんだ…」
なんだか悲しみの中に少し怒りが混じっている表情だった。なんか悪いことしたみたいだ、何か褒めないと…
「さ、さっきのは冗談だ。似合ってるぞ、制服」
「…本当?」
おっ、表情が和らいだ。正解だったみたいだな。
「ああ、本当だ。」
「そう、かな?」
舞奈が妙にしおらしい。俺が気味悪がっていると、顔を真っ赤にしながら、
「か、かわいい?」
なんて訊いてきた。
なぜにそんなことを俺に訊く!
~時砂の脳内シュミレート~
・「ああ、かわいいぞ。」→「何言ってるの?キモッ」→冷ややかな視線
・「さぁ?」→「はっきりしてよ!」→機嫌悪くなる、暴力
・「普通じゃないか?」→「…」→無言で暴力
…どう転んでもアウトじゃん(泣)
…暴力のない「ああ、かわいいぞ。」でいこう。
~シュミレート終了~
「ああ、かわいいぞ。」
…さあ、どうなる!
「ホントに?」
舞奈は上目遣いで俺を見てきた。
(な、なんだ?舞奈がいつもと違う!)
「ねえ、時砂?」
「な、なんだ?」
「…私ね、時砂にずっと言いたかったことがあるの。」
「なんだよ?いきなりかしこまって。」
「わ、笑わないでよ!笑ったらボコボコにするからね!」
(やっぱり、いつもの舞奈だ。)と、俺は安堵していた。
(…ん?なんで俺は舞奈がいつも通りだってことに安堵してるんだ?)
「あのね、私、実は時砂のことが…」
と、舞奈が何か言い掛けたのと、ほぼ同時に、
「間に合ったー!!!やあ、舞奈ちゃん、おはよう」
という無駄な大声と共に、バカがバスに乗り込んできた。
「ああ、おはよう、バカもとい浅岡」
「うるせーぞ童顔が!」
「…弱い犬ほどよく吠えるか、昔の人って良いこと言うなぁ。」
「このガキ!」
「…アメやるから黙ってろ」
「そんなので釣られるかよバカが!」
「…いらないのか?」
「いや、いるけどさぁ。」
「じゃ、少し静かにしてような?前のほうの席に座れ」
「おう!わかった。」
そして浅岡は一人、最前列の席に座った。
「ふう、やっぱりバカは扱い易くていいな。
で、舞奈、なんだ?」
「………なんでもない」
一体何なんだ。
その後、俺と不機嫌な舞奈とアメを嬉しいそうに舐めている浅岡を乗せてバスは学園を目指した…