ソナタの誕生日の話。
3年1月14日~15日
「おはよ。ソナタ誕生日おめでと」
「ん、選挙権ゲットだぜ」
朝ご飯を食べにダイニングへ入ってきたソナタは、手元のハンドブックから目を離さずに言う。仮卒業期間に入り高校の授業はないそうで、毎日朝から晩まで予備校通い。残り一週間を切った勝負の日にソナタは気が急いていて、誕生日を祝われる暇すらなさそう。就職先も決めて、先日の二十歳のつどいと同窓会に浮かれてしまって翌日の朝は起きれないでいた私も、さすがにソナタの前では神妙な心持ちになってしまう。
「うえ、やらかした」
はっと、正面に座ったソナタを見ると、シャツの胸元がびしょびしょに濡れている。ハンドブックのない方の手にはコップがあり、飲み損じたと簡単に予想できる。あまりの余裕のなさを笑うことすらできない。こんなこぼして……いけない、ことばには気をつけなきゃ。タオルを手渡すと黙って受け取り、口元から首までを拭う。
「最悪……着替えてくる」
ぼやきながら席から立ち上がるも、ハンドブックから目を離せない彼は、気が急いている。今は、静かに応援するしかない。
日付の変わる瞬間は、SNSで公式アカウントがキャンペーンの開始なんかを知らせる投稿で感じる。俺は、ゲームはすれどもキャラクターに対して特段興味があるわけでもないので、誰々の誕生日ですよ、なんて言われても、ああこいつ今日誕生日だったんだ、なんて適当に思って、それで終わり。もう十二時かとわけもなく呟いて、布団から出る。腹が減ったときは、冷凍庫に常備しているキャンディチーズをいくつかくすねれば良い。夜に暖房を付ける文化は家にはないので、頬をピリピリとした冷気が刺してくる。冷凍庫に手を突っ込んでみるが、外気温とさほど変わらない気がする。さっさと布団に戻ろう。
そういや、ソナタの誕生日っていつなんだろ。どうしてそんなことを思ったのかわからない。あいつの誕生日なんか知ってどうするって話だ。そもそも、もう三年の一月、仮卒期間にも入ったし、次に会うのは二月終わり。確率的にも、とうの昔に過ぎ去ってるに違いない。
部屋に戻っても寒さは癒えない。掛布団にしっかりとくるまったあと、キャンディチーズの包装を乱雑に剥く。日付が超えたから、仮卒期間二日目。既に暇だ。今日は早めに寝てしまおうか。