愚痴
「なぁ、シェーブル。それ、やめてくんね?」
今まで黙って聞いていたソナタは突然俺の話の腰を折った。そういえば、話している間一度もソナタを向いていなかったと思い向き直れば、彼は眉をひそめて不満を全面に押し出している。しかし彼は目が合った途端にふっと俺から顔を逸らした。なにか気に障るようなことをしただろうかと顧みるが、心当たりはない。一旦、弁当の白飯を口に運ぶ。
「なにを」
テンポの悪い会話。彼は一拍遅れて答えた。
「いやごめん。なんでもない」
「だる、かまちょかよ。俺察し悪いからなんのことか言わなきゃわからんって」
ソナタが依然苦虫を潰したような顔でいるから、なんでもないわけがないともう一押ししてみる。当の本人は目を合わせてきたり、また逸らしたり忙しい。
「や、いや、お前に必要なことだと思うんだよ。カタルシス、みたいな……だから俺がどうこう言えるもんじゃなくて聞かなきゃいいじゃんってだけで……」
いつもとは違う覇気のない声で、うだうだとまとまりなく連ねられるそのことばの方が気に障る。
「だから結局なんなんだよ。うざいって」
「その……愚痴? 先生とかクラスメイトの陰口……みたいなのとか、やめてほしい」
喉元まで出かかったことばを、白飯と一緒に流し込もうとする。けれど、どうも上手く飲み込めなかった。
「そんなこと」
「ごめん」
申し訳なさそうに言う彼は、自らの弁当のピラフをスプーンでがしがしと突いている。愚痴が与えるストレスは相当なものだったようだ。
「別に、そりゃ気持ちの良いものじゃねぇよな。気ぃつけるわ」
「……ごめん」
それ以来ソナタはまた押し黙って昼食を食べ進めていた。