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没落帝国紀行  作者: ろーと
プロローグ
6/6

第5話 大戦の産声

──1922年11月30日 スイス連邦 ジュネーヴ──

早朝にも関わらず、街全体が騒然としていた。

無理もない、夜明けの直前から街の至る所で爆発が起きていた。

未だ政府の公式発表はないが、フランス領から重砲の発射音が絶えず聞こえ、誰が見てもフランス軍が侵攻してきていることは明らかだ。


間もなく総動員令が発令され、予備役が招集されるだろう。

それに先立ち、市民たちは物資の備蓄、武器の点検を開始し、それぞれ招集と占領下での抵抗の準備を開始している。


情報を入手した連邦参事会はすぐさま総動員令を発令、スイス連邦は総力戦体制に移った。


これに対しフランス革命政府は、あくまで今回の攻撃はスイスによる奇襲攻撃であり、これまでも人民への弾圧を継続してきたスイス政府に対し、フランス革命政府は懲罰を行うと主張している。

しかしそんな共産主義者の戯言に耳を貸す国はなく、欧州列強は12月2日、共同でフランスに対する非難声明を発した。


特にイタリア王国は、今回の行動は許されざる蛮行であり、スイス連邦に対するあらゆる援助を惜しまないとしている。


しかしフランス革命政府はこれを事実上の参戦宣言と解釈、奇襲攻撃を防ぐため4日に先制して宣戦布告を行った。


フランス革命政府はこれらを防衛戦争と主張したものの、英国政府はフランスによる先制攻撃とし、英伊協商を根拠に5日参戦を表明した。


まさか英国が正式に参戦すると考えていなかったフランス革命政府は、蜂の巣をつついたかのような大騒ぎとなったが、好戦的な共産主義者が集った革命政府では「講和」の2文字は発言することすら許されなかった。


そんな彼らが取ったのは、これ以上の他国の奇襲参戦を防ぐためにドイツ、ネーデルラント、イベリアへの宣戦布告という、国家を掛け金にした大博打であった──。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



──1922年12月18日 フランス人民共和国 パリ──


クリスマスまであと1週間となったこの日、パリ7区には異様な空気が漂っていた。

無理もない、これからこの国を待ち受けるのはフランス革命戦争とそれに続くナポレオン戦争以来の大戦争なのである。


「同士トレーズ、ドイツ、ネーデルラント、イベリア以上参加国に対する宣戦布告が完了致しました。」


「うむ。ご苦労」



───モーリス・トレーズ(1900〜)


史実においてフランス共産党から「左翼反対派」を一掃し、党を「モスクワの長女」と呼ばれるほどの親ソ的マルクス・レーニン主義政党に仕立てあげた彼は、この世界においてもその手腕を発揮していた。


革命を成し遂げた「親愛なる同士フロッサールが凶弾によって倒れた事件」の後、犯行を帝国主義者だと「極めて早期から断定」した彼は、弱冠21歳でフランス人民共和国総書記に就任した。


あくまで平和主義的であったフロッサール時代から一転、一年の間にフランスを「スターリン主義」化した彼は、一党独裁・個人崇拝を推し進め、フランスという国を共産主義の名を借りた効率的な戦争機械へと変えていった───。



「改めて『事実』を確認致します、同士トレーズ。まず11月25日、ジュネーブを出発しマルセイユに向かっていた列車がアヌシー・グルノーブル間で突如爆発、乗車していたフランス人民15人を含む計27人が死亡しました。これに対し、我が国の捜査機関はスイスの()()()()()の構成員がアヌシーで下車した後、イタリアへと入国していたことを発見、さらなる捜査のためスイス政府に対し『寛大な条件』を提示したところ、スイス政府は愚かにもこれを拒否。さらにあろうことか我が国の国境警備隊へ攻撃しました。そのため我が国は11月30日にスイスへの宣戦布告を通告しました。しかしながらスイス政府の虚偽報道に踊らされた英伊が我が国と12月4日から5日にかけて開戦、また、ドイツ、ネーデルラント、イベリアも我が国への侵略の姿勢を隠そうともしなかったがために、今日をもってそれら3カ国とも戦争状態に突入しました。」


「うむ、完璧だ、バルべ外務人民委員。その通りに人民へ発表したまえ。」


「はっ。承知いたしました。」


このようなわけでフランスは大戦争へと突入した訳だが、もちろん彼らにも戦争計画というものがあった。

それが世界に先駆けて創設された機甲師団である。

先進的な全周砲塔を搭載したルノーFT-17と、世界初の制式採用された軍用航空機であるSPAD S.VIIによる陸空連携攻撃がフランス赤軍の肝であった。


もちろん、戦力だけ揃っていても仕方がない。

その点で、フランス赤軍はドクトリンにおいても先進的だった。

世界に先駆けて縦深作戦理論を実用化し、全縦深同時打撃のための飛行船やそれを用いた空挺大隊をも保有していた。

そしてこれらの理論を編み出したのがかのミハイル・トゥハチェフスキーである。

祖国ロシアの行き詰まりを感じていた彼は、トレーズによってスカウトされ、フランスに亡命してきていた。


「では、改めて作戦を説明してくれたまえ、参謀総長。」


「はっ、赤軍参謀総長のトゥハチェフスキー中将です。私から改めて今次大戦争の作戦を説明させていただきます。まず、我々の最初の戦略目標となるのがイベリアです。かの国を攻略することにより正面を1つ減らすのみならず、ジブラルタルを攻略することで地中海における英国海軍の作戦行動を妨害することができます。」


「なるほど。ではその作戦を確認しよう。」


「はい、それではイベリア侵攻作戦─白作戦の確認をしていきます。まず、かの国は我が国に対する要塞としてバイヨンヌ要塞とジローナ要塞を保有しています。また、イベリア軍の主力は我が国との国境で唯一の平地であるバイヨンヌ要塞周辺に配置されており、ボルドーなどの都市を脅かしています。我が軍の最初の目標はこれを包囲・殲滅することです。始めに陽動としてジローナ方面で5個師団による歩兵攻勢を行い、敵の戦略予備を釣りだします。バルセロナ、サラゴサ、ビルバオに集結している計6個師団の移動を確認し次第、本命の攻勢を行います。歩兵師団により突出部の北部から助攻を行いつつ、ポーの街に集結した機甲師団によって東から西へ突破し、サン・セバスティアンまで占領し、バイヨンヌ要塞の包囲を目指します。このとき、重砲だけでなく、航空機を用いて敵後方戦力への打撃および空挺師団をサン・セバスティアンへ降下させ、後方の撹乱を行います。包囲が完了した後は潜水艦による海上封鎖を行い、敵の物資が尽きるのを待って降伏を促します。イベリア軍主力を殲滅した後はビルバオ、サンタンデールを ───中略─── なお、イベリア攻略の最中は東部および南部戦線は歩兵師団によって防衛を行いますが、ジュネーブの突出部に限っては3個歩兵師団による攻勢を行い、ローザンヌ=イベルドンのラインまでの占領を目指します。」


「なるほど。理解した。感謝する、トゥハチェフスキー中将。この内容で実施したまえ。」


「はっ、了解です。」


「...赤軍、ひいては我が国にとって初の本格的な対外戦争だな。私も頑張らねば。」


将校たちが部屋を去ったあと、トレーズはそうひとりごちた。

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