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没落帝国紀行  作者: ろーと
プロローグ
4/6

第3話 再会

帝室内の親戚関係などは作者の知識不足によりガバガバどころかスカスカです。


有識者の方がいらっしゃいましたらご教授いただければ幸いです。

1914年に誕生したアーデルハイトは、幼い頃から神の子ともてはやされた。


新生児は基本的に泣くことで何かしらの要望があることを伝えるしかないが、アーデルハイトはわずか数ヶ月の頃から欲しいものを指で指し示すことが出来、滅多に泣かなかった。


さらに1歳の頃にはドイツ語を完璧に話すことが出来、普通の子供がやっと母国語を覚える3歳頃にはドイツ語に加え、英語、フランス語、ロシア語、さらに誰にも教えられていないのに日本語をも流暢に話せた。


また、帝国や世界の政治・経済の現状、軍事にも深い関心と知識があり、帝国の高級将校や技術官僚を幾度も驚かせた。


これはひとえに彼のこれまでの2回の人生による成果であったが、幼い頃から知識を披露するのは彼にとっての一種の賭けであった。

なぜなら、神童ではなく、悪魔の子として忌避される危険性を孕んでいるからだ。


この点彼の賭けは成功した。

確かに宮殿の中では彼女を忌避するような人もいたが、皇帝であった曾祖伯父と皇位継承者であった父は彼女に理解を示し、著名な教授を複数人家庭教師として招く程だった。


彼ら二人の権力は宮殿の中で絶大であり、そのため彼女を忌避する人はあくまで非主流派であった。


そもそもなぜ彼がこのような賭けに出たのか。

それは単純に時間の猶予がないからである。

なにせ前世の記憶通りに行くなら、彼が数ヶ月の頃にはセルビア戦争が開戦し、6歳の頃には帝国が政治・経済共に限界を迎え、空中分解するのだ。


さすがに6歳児に帝国の崩壊を止めるのは難しいにしても、父を通じて様々な提案をし、崩壊後に誕生するドナウ連合の結束力を高めておき、後々の目標である連邦国家の形成に向けた布石を打って置かねばならない。


その一環として、全ての臣民をオーストリア人と同等の地位に上げることや、各州ごとに数人議員を選ぶ連邦議会の設立、ドイツ語への公用語の統一、「ドナウ連邦市民」としてのアイデンティティーを確立する教育方針などを上げた。

これらは全て多民族国家の成功例たるアメリカ合衆国を見習ったものであった。


その少し前、古い友人との再会があった。

彼と同じく、幼い頃から深い教養を持つ、大貴族の娘として紹介された。


「こちらの部屋でお待ちください」


執事兼家庭教師のエルンストが案内する。


「ありがとう」


しばらく待つと、部屋の扉がノックされた。


「どうぞお入りください」


「失礼します」


「...レヌーシュカ?」


「ミーシカ!」


「今まで大丈夫だったか!?」


「あんたこそ!」


「おまえも転生してきたんだな。ところで、転生って1度目?2度目?」


「...そう聞くってことはあなたも?私、2度目なのよね」


「実は俺、間に1回兵士としての人生挟んでて。セルビア戦争に従軍したんだけど、そこで1回戦死してるんだよね」


「へぇ〜すごい!」


「というか、名前同じなんだね」


「うん。神様みたいな人に出会って、私の名前は違和感ないからそのままにしてくれるって」


「おまえも会ったんだ、あの神様みたいな人」


出会って一瞬で打ち解けた二人に、執事のエルンストと保護者たちが目を白黒させている。


会話の内容も他人に聞かれたら精神病を疑われかねないようなものだったが、ここにいる人は誰も日本語を解さないので特に問題はなかった。


アーデルハイトはさらに、『使命』のことについても話し、レヌーシュカの全面協力を取り付けた


それ以降、二人は頻繁に会っては意見交換や討論を重ね、この帝国を救うべく動いた。

前世の世界線では1920年に帝国が崩壊することも、彼女との会話の中で聞いたことだ。

なお、前世の彼女は崩壊のゴタゴタで死亡したため、それ以降の出来事は分からない。


余談だか、4歳児二人が閣僚も驚く内容の話し合いをしている、ということは宮殿内でも有名になり、暇を持て余した貴族がたまにその様子を覗くらしい。


さて、帝国の連邦国家計画の中で最も邪魔なものはなんだろうか。

それは民族主義である。

ドイツ人にせよその他民族にせよ、多民族国家における民族主義は排除せねばなるまい。

国民全員に、「自分はドナウ連邦市民である」との意識をもたせ、内乱の危険を取り除く必要がある。


その点、民衆を動かすのは簡単だ。

既に現代的思想を主要な方針とした教育改革は行われているし、民族主義を信奉する以上の利益を与えれば多くの人は簡単に民族主義を捨てるだろう。


しかし、一部の過激な活動家連中はそうも行くまい。

数十年も経てば、史実の日本が民衆が戦争に熱狂するような国から平和国家になったように国民の意識改革ができるだろうが、それでは遅すぎる。


教育の効果が出るまでに少しでも時間を稼ぐべく、民族主義者共に蜂起を起こさせ、それを理由に活動家連中を排除する作戦が提案された。


皇帝は渋ったが、再三の説得により折れ、作戦が承認された。

しかし、活動家連中とてなんの理由もなしに突然蜂起はしない。

蜂起を誘うために釣りの餌を用意せねばなるまい。


そこで、2つの餌が用意されることとなった。


1つ目は公用語のドイツ語への統一である。

将来的に連邦制を敷く予定ではあるが、それでも単一の国家として動くためには公用語の統一は必要であった。


確かに帝国内でドイツ人は単独では過半数に満たないが、その多くが都市部などの文明レベルの高い地域に居住しており、他の民族と比べても識字率は高い。

また、他の民族もドイツ語とのバイリンガルである場合が多く、そうでない人々は総じて識字率が低い。

そうした人々に教育を提供し、ドイツ語を習得させれば帝国内でのドイツ話者はあっという間に大多数派となる。


これをもってドイツ人以外の民族の民族主義者を釣り出す予定である。


2つ目は全ての帝国臣民にドイツ人と同レベルの市民権を与えるというものである。

既に政府はこれまでの民族を否定し、全ての臣民はドナウ連邦市民であるとしているため、これは当然とも言える。


既に各メディアへの圧力や教育改革によってこの思想の国民への浸透率は高く、ドイツ人以外の民族からの支持率は高い。

また、国内移民の奨励により、多くのドイツ人が異民族の隣人や友人を持っている。


つまり一般市民からの支持率は高く、蜂起を小規模に留め、かつ、活動家連中を釣り出せる。


1918年に皇帝である父に承認されたこの作戦は議会への1年間の根回しを経て1919年4月、ついに第1段階である2つの法案の可決が完了した──。



1919年4月 オーストリア帝国 ウィーン 帝国議会議事堂前


アーデルハイトは眼下の光景を見て笑いが抑えられなかった。

なにせバカな民族主義者共はまんまとつられ、議会堂前に集まっていた。

ウィーン以外の主要都市でも似たようなことが起きているという。


2つの陣営に別れた暴徒たちは今にも相手との殺し合いを始めそうな雰囲気を出していた。

しかし問題は全くない。

既に軍と警察は厳戒態勢だし、付近の住民は避難している。


両陣営が衝突し次第、治安維持を名目に軍と警察でもって鎮圧する予定だ。


しばらく待つと、予想通り衝突が始まった。

始めは石ころの投げ合いだったものが、一瞬で人と人とがぶつかり合う乱戦に突入したのは随分と愉快な光景であった。


これを受け、軍と警察は行動を開始。

たかが暴徒が正規軍と警察に敵うわけもなく、数時間で完全に鎮圧された。


両陣営の衝突も含め、数百人の死者は出たものの、軍と警察は全員生還したため些細な問題だ。


首謀者も含めた参加者はみな逮捕され、裁判を待っている。

とは言っても、彼らの運命は既に決まっている。


首謀者と幹部たちは大量殺人と反乱を主導した罪で死刑。

その他の参加者も 5~10年程度の懲役と選挙権・被選挙権の永久剥奪が処される予定だ。


裁判と刑の執行は迅速に行われ、年内にはこの問題はほぼ片付いていた。



そして運命の1920年、帝国の崩壊は終ぞ起こらなかった。


予想以上の成果にアーデルハイトとレヌーシュカも驚きを隠せなかったが、それは嬉しい誤算というものだ。


しかし崩壊こそ避けられたとはいえ、やはり民族主義主義の火種は鎮火しきれてはいなかった。


そこで政府は、広大な領土の管理効率化を名目に4つの王国を独立させ、オーストリア帝国と合わせて5つの構成国をもつ新国家「ドナウ連邦」の樹立を決定した。

この決定は奇しくも1920年7月1日、二人の前世では帝国が崩壊した日に公布され、翌年1921年の7月1日に施行された。


これにより、「欧州の火薬庫」とも呼ばれたバルカン半島は安定の時代を迎えるだろう。


さて、アーデルハイトとレヌーシュカであるが、彼女らは飛び級を重ね、 1920年、晴れて大学生となった。


さらに1922年には大学を卒業し、わずか8歳で学位を取得した。

二人は共に大学院への進学を決定し、研究を続けていくつもりであるとした。


また、二人は学位の取得に伴い、連邦首相補佐官に任命。

これにより、名実共に権力を手にし、父を介さずとも政治ができるようになったのである。



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