第017話・美味しいものを味わう喜び
「お嬢様って、お姫様だったんですか!? ……はむっ」
ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ。
ぴちゃぴちゃ、べちょべちょ。
じゅるじゅる、ぺろぺろ。
「ああんっ。ちょっと、話の最後まで待てないの!? ……そんなに私の足を舐めたかったの?」
お嬢様が何かおっしゃっていますが、今の僕はそれどころではありません。
なにせ女の子のお足です。
しかもそれは、とっても可愛いハローチェお嬢様のお足なのです。
さらにいえば、昨日は勝手にお足を舐めて怒られてしまいましたが、今日はお嬢様から「舐めて良いよ」と言ってくださったのです。
もう僕は、身に余る光栄さに魂が打ち震えています。
ああ、お嬢様。
なんとお優しい……。
そんなわけで僕は、一心不乱にお嬢様の足を舐めます。
いや、舐めるだけでは足りません。
全てを味わい尽くさなくてはならないと思います。
まずはお嬢様の爪先を咥えてちゅぱちゅぱと吸い、足の指の間に念入りに舌を這わせていきます。
小指のほうから順に、薬指、中指、人差し指と、一本ずつ丁寧に。
個人的に、親指と人差し指の間の股のところが、女の子のお足で一番味わい深い部分だと思っています。
ここにはですね、いろんなものが詰まっているんですよ。
夢とか希望とか、愛と勇気とか、そういうものが。
それから指の肉と爪の間の部分も舌先でこそいでいきます。
さすがお嬢様、爪の間も綺麗にされていますね。
おかげでお嬢様の味がよりいっそう感じられます。
僕のヨダレで溶け出してしみ出てきたお味が、僕の舌先を幸せにしてくれました。
続いて足の甲は腱に沿って舐め上げ、くるぶしのあたりは唇を丁寧に這わせます。
そこから上のふくらはぎにも少しだけ目をやりますが、そちらはまだお許しいただけていないので今日は泣く泣く我慢します。
足の裏はもう楽園ですね。
どこをどう舐めても女の子の味がして、脳ミソが痺れてしまいそうなぐらい美味しいです。
それにハローチェお嬢様の足の裏は、全体的に皮が厚く、硬くなっています。
これは、鍛えている人特有の足の裏ですね。
前世では陸上部の子とか、スポーツを頑張っている子がこんな足の裏をしていました。
少し見た感じ、ふくらはぎやふとももの筋肉も引き締まっていましたし、やはりお嬢様は相当鍛えているのでしょう。
お姫様だったというのに、なかなか頑張り屋さんです。
「あっ、あっ、待って、足の裏は、わ、私、弱いのよ、ふふっ、あははっ、あははははっ!」
頑張り屋さんな女の子は、僕はとても好きです。
頑張っている分だけお足の味が濃くなって、旨味が強まるからです。
だから僕も一生懸命舐めます。
ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ……。
「あははははっ! あははははははっ! あははっ、ひっ、ひうっ。あっ、あははははっ! まっ、待って、ちょっと待ってナナシさん、あっ、あははははっ!」
ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ……。
「おっ、『おしまい』、もうおしまいだから! おしまっ、ひひゃっ!? あっ、あうんっ!? ……あは、あはははは! あはははははっ!!」
ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ……。
「まって、待ってナナシさん! それ以上はほんとに、あっ!? あっあっ、ああっ、んっ、んっ! んんーーっ!?」
ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ……。
ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろぺろ…………。
◇◇◇
「もうっ! いい加減にしなさいよ、このおバカ!!」
というお嬢様の声とビンタで正気に戻ったナナシです。
いやぁ、やりすぎちゃいました……。
お嬢様にはこってり怒られましたが、また全力土下座したら許してくれました。
お嬢様ったら、お優しい……。
◇◇◇
さてさて、ご褒美が終わったあと、お嬢様は右足をシャワーで洗ってから靴を履き直し、僕と一緒にカベコプターで拠点に帰りました。
それから僕は持って帰ってきた紅ティラノ君を捌いて美味しいところをたくさん切り出し、じゅうじゅう焼いてたっぷり皿に盛りました。
そして二人でもぐもぐお肉を食べながら、お嬢様とお話をします。
「そもそもどうしてお嬢様は、お国を追い出されたのですか? ……もぐもぐ」
「ちょっと私が優秀すぎたせいで、兄たちに疎まれてハメられたのよ。……もぐもぐ、あっ、コイツめちゃくちゃ美味しい」
お嬢様、紅ティラノ君のお肉をもりもりと食べています。
まぁ、美味しいですもんね。
今まで会った中で一番強い生き物でしたので、その強さに見合うだけの旨みがあります。
それにしてもお嬢様、疎まれてハメられたとは、おだやかではありませんね。
「お兄様方ということは、王子様ということですか? どうしてまた。……もぐもぐ」
「兄たちは、次の王座を巡って二派に別れて対立しているの。私はどちらの応援もするつもりがなかったんだけど、そしたら両方から政敵認定されちゃってね。……もぐもぐ、ごくん。おかわりある?」
お嬢様のお皿に追加のお肉を乗せます。
お嬢様は、驚かされた恨みを晴らすかのごとく紅ティラノ君のお肉を食べていきます。
しかし、なるほど。
「ぐびぐび、ごくん。……ははぁ、なるほど。それでこの森に来たんですね。流刑に処されたというやつですか」
「そういうこと。もっとも、この森に向かうようにしたのは、私が決めたことなんだけど。もぐもぐ、もぐもぐもぐ……」
「あれ? この森って、人類では太刀打ちできないような巨大な生き物が生息する人外魔境の地、ってことになってるんですよね? どうしてそんなところに行こうと思ったんですか? ……バギッ、ボリッ、ガリッ、ゴリゴリゴリ……」
うーん?
ここはちょっと硬いかな。
「……貴女、骨ごと噛み砕くのはやめなさいよ、みっともないから……。コホン、追っ手をまきたかったのよ。兄たちからの刺客が来るかもしれなかったし、そんなのいちいち気にしてられないから。この森の上空を通って森の反対側まで抜けてしまえば、同じように飛行してくるか大きく森を迂回しなければ私を追跡できないと思ったの」
「なるほど。危険を承知で来たわけですね」
「ええ。けど、あまりにも見通しが甘すぎたのは確かね。まさかあんな凶暴な飛行生物がいるなんて……。こんなこともあろうかと思って大金をはたいて飼育させてたキングスカイクロウが、簡単にやられちゃうんだもの」
「まぁ、この森の生き物たちはどいつもこいつも凶暴で、そのくせ執念深くて狡猾ですからね」
「まったくだわ。おかげで羽をちぎられて落ち始めたときは、本当に死を覚悟したんだけど……、結果的にそれで貴女に会えたわけだから、人生何がどう作用するか分からないものね」
僕も、コクリと頷きます。
「空からお嬢様たちが落ちてきたときは僕もビックリしましたし、木箱の中でお嬢様が倒れているのを見たときはもっとビックリしましたよ! けどまぁ、あの時落ちてくるカラス君を受け止めようと思って良かったです。一瞬、面倒臭いから落ちて潰れた後で洗い流そうかな、って思いも頭をよぎったんですよね」
ピタリ、とお嬢様が食べるのをやめて僕を見つめます。
そしてものすごく何かを言いたそうにして、それらの言葉をまとめてお肉と一緒に呑み込んだように見えました。
「……そうならなくて、本当に良かったわ。ほんっっっとうに、良かったわ……!!」
「それで、お嬢様。今日はもうこのあと暗くなってきたら寝るだけなんですが、明日はどうされますか? また一緒に食糧調達に行かれますか?」
「いや、私も今日のことで自分の未熟さを思い知ったわ。私が今まで学んできた対人戦闘技術なんてこの森では役に立たないし、ちょっと色々考え直して、鍛え直すことにします。それには、貴女も付き合ってもらうわよ」
「分かりました! まぁ、しばらくはお肉には困りませんし、木の実や山菜なんかはすぐに集めることができますので、お食事には不自由ないようにさせていただきますね!」
「お願いね。……そういえばここのご飯、食べてるとなんだか魔力が高まってくるような感覚があるのだけれど、気のせいじゃないわよね?」
そうなんですか?
僕、魔力のことってあまり詳しくないのでよく分かりませんが……、まぁ、お嬢様が言うならそうなのでしょうか。
けどたしかに、美味しいものを食べると心身ともに成長するものですので、つまりはそういうことなのでしょう。
「魔力が高まればスキル容量も増えるわけだし、そうすればスキル構成も組み直せるし……、うん、考えることも多いわね。いちだんと気合いを入れていきましょう。ナナシさんにも色々覚えてもらいたいことを教えてあげるから、これから一緒に頑張るわよ」
はい!
お任せくださいお嬢様!!
そしてそれからしばらくの日々は、お嬢様とともに楽しく賑やかに流れて行ったのでした。