第145話・いわゆるひとつの、最終回です!
◇◇◇
ぽかぽかした春の陽気の中で、僕は、目の前に広がる広い広い大草原を見回します。
この世界に来て、体感で丸四年がたちました。
僕の身体も、気がつけば少しばかり背が伸びたような気がします。
「いや、伸びてねーだろ。お前まだアタシよりチビだかんな」
そこ、うるさいですよ。
そんなことを言うなら、国家元首権限で今日の晩ご飯抜きにしますよ。
「おいおい、おーぼーなこと言うなよ。事実なんだからよ」
くっ……。いずれ身長追い抜いたら、目一杯バカにしてやりますからね!
「おお、怖い怖い。やれやれ、バカやられる前にジェニカんとこ行って荷出しでも手伝うかね」
そう言って、メラミちゃんは亜空間から資材を出しているジェニカさんのところに行きました。
キャベ子さんやナルさんレミカさんとともに力仕事を始めます。
むぅ。まったく。
「あら、ナナシさん。そんなにふくれてどうしたの?」
と、動きやすい格好のハローチェちゃんが僕の隣に来ました。
いえ、別に。
僕ももっと男らしくて逞しい身体になりたいな、と思っていただけですよ。
「そうなのね。でも、私は今のナナシさんも好きよ?」
そう言って、ごく自然に僕の右手に左手を絡めてきました。
そして身体を寄せてきて、僕の右腕がむにゅっとした感触に包まれます。
「もちろん、今までのナナシさんも好きだし、これからのナナシさんも好き。……私は全部好きだから、心配しなくていいわよ」
そうですか、ハローチェちゃんがそう言ってくださるなら、まぁ。
「ところでハローチェは、僕に何か用事があって来たのでは?」
「ああ、そうだったわ。まずは皆で住む家を建てたいのだけれど。お願いできる?」
はい。任せてください。
僕は、ハローチェちゃんと一緒に高く積み上げられた大量の木材のところに行きました。
そこには、建築図面を携えたフェアちゃんとフラーさんの姿が。
「あ、ナナシー。こっちこっちー」
手招きされて、手を繋いだままの僕とハローチェちゃんはフェアちゃんのところへ。
「見て見てー。これ、皇帝陛下にお願いして帝都一の建築家に図面を引いてもらったの! これを参考にして建てたら、きっとすごい家ができるよ♪」
ほほう、なるほど。
どれどれ……。
僕が図面を受け取ってじっくりと読み込んでいると、フェアちゃんが期待に満ちた目で僕を見ていました。
「……えーっと。僕の故郷では新しい家を建てたらお祝いにソバという麺類を振る舞うんですけど……、ソバのかわりにラーメンにしますか?」
「お、やったぁ♪ けど、それも良いけど今回はこっちが良いかな」
そう言うと、フェアちゃんは僕の髪の毛に顔を埋めて深呼吸をし始めました。
「くんくん、くんくん……。はあぁ、やっぱり良いね、ナナシって」
「ちょっと。貴女まだ正式な手続きは終わってないんでしょう? あまり堂々とやらないでほしいのだけど」
「えぇー? 帝国議会の承認も終わってあとは皇帝陛下のハンコ待ちなだけなんだから、もう終わったようなもんじゃない?」
「ダメよ。今はまだ私だけのナナシさんなのよ? 残り少ない時間は大切にさせてほしいわ」
そう言われたらしょうがないなぁ、とフェアちゃんは僕の頭から手を離しました。
「で、今日中に建てられそう?」
はい。
とりあえずは、僕たちの住むお屋敷と、一緒に来てくださった皆さんの住む仮の集合住宅を何棟か。
「勇猛楽団の皆さんは音楽会用のステージも欲しいと言っていましたし、イェルン姉さんとミーシャ姉さんは手続きが終わればここにも冒険者ギルドを出すと言っていましたが、それはまぁ追々ですね」
他にも、タマゾン姉貴がお弟子さんたちとともに食堂をやってくれそうとか、スーちゃんさんがここにもダンジョンを作るかもと言ってたりとか、ソウ兄ちゃんが滞在する用の家が必要そうとか色々ありますけど。
「せっかくこんなに広い土地をもらったので、後々のところまでしっかり考えて町作りをしていきたいですね」
「まぁ、もらったというか、辺境伯領のさらに先の未開拓領域で勝手にしていいよって言われただけだったけどね」
「それは仕方ないでしょ。ナナシの功績分領土を割譲したら、帝国全土の三割ぐらいになっちゃうんだから」
そんなになります?
「なるなる。言ったじゃん、あまりにも支払いが莫大になりすぎるって。それを、誰も支配してない土地で好きにして良いよ、国を興しても攻め込まないしたくさん貿易するよ、っていう宣誓書にハンコつくだけで済んだんだから。安く済んで良かったぁ、って財務大臣あたりは思ってるよ」
そういうものですか。
「まぁ、ナナシは実質的に領土が隣り合うブライト辺境伯とも面識あるみたいだし、向こうもナナシのことはよーく知ってるだろうから、変にこじれることもないと思うよ」
「そうね。それに大国の隣でポコっと国を興しても怒ってきたり理不尽を言ってきたりしないというのは、十分破格の対応よね」
なるほど、分かりました。
「それならぼちぼち、建てていきますね」
僕は、目の前にある大量の木材を加工していきながら、図面を基にしてお屋敷を建てていきます。
それで、釘を使わない組木工法でお屋敷を建てていたところ、
「そういえば、この国の名前はどうするの?」
国の名前、ですか?
「うん。それにほら、ナナシって家名もないでしょ。国の名前と最初の町の名前と、自分の家名ぐらいは決めとかないと」
名前……、ですか。
……うーん。どうしましょうか。
「僕、自分でいうのもなんですけど、ネーミングセンスがヘナチョコなんですよね」
「それは、確かに」
ハローチェちゃんに深く同意されました。
いえまぁ、別にいいんですけど。
「なので、ある程度落ち着いてきたときに皆さんからも意見を募って、それらを参考にしたいと思います」
「そっかー。ま、それでもいっか。……けど、そうだなぁ。自分の家名ぐらいは決めときなよ。なにかと書類を書くときに家名まであったほうが箔がつくからさ」
そうですか。
それなら……。
「……メガシャッターマン、はどうですか? 最大限意訳した『無敵の結界術士』という意味の言葉なんですけど」
そう言うと、ハローチェちゃんとフェアちゃんは揃って意外そうな顔をしました。
「普通ね」
「けど、比較的バカっぽくはないよね」
いつもは僕のネーミングをバカっぽいと思っているんですか??
「いやいやそんな。まぁ、フェアネス・メガシャッターマンも悪くないかな。帝都のロコッピに伝えて書類に書き加えてもらおっと♪」
と言って、フェアちゃんはそそくさとどこかに行ってしまいました。
フラーさんもペコリと頭を下げてフェアちゃんを追います。
「……ハローチェちゃんも、良いですか?」
「良いんじゃないかしら。貴方らしいし、貴方が無敵の結界術士だということは皆が知ることなのだから」
分かりました。それなら僕は、これからナナシ・メガシャッターマンとして頑張ります。
ハローチェちゃん。これからも、末永くよろしくお願いしますね。
「こちらこそ。生涯をかけて貴方とともに生きることを誓うわ」
そう言って、少しだけ背伸びをしてきたので、僕はハローチェちゃんとキスをしました。
……ほら、やっぱり僕の身長伸びてますって。
確か初めて会ったときは身長ほぼ一緒だったんですから!
「ふふふ。さぁ、これから忙しくなるわよ! まずは町作り! それから人集め! やるべきことはたくさんあるんだから!」
そうですね!
それじゃあここはひとつ。
この伝説の言葉でキメましょうか。
「僕たちの国作りは、……これからです!!」
第一部、完!!
完!!
第二部「僕は無敵の国家元首(仮)」編、書けたらいいなぁとは思っていますが、とりあえず年末年始はのんびりします。
ここまでお読みいただきありがとうございました!!
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