第143話・俗に言うざまぁ回というやつですね
◇◇◇
「……とまぁ、カクカクシカジカ、そんなこんなとありまして」
こうして、ニューホライズン帝国からゲヘナダンジョン、魔界を通じて帰ってきた次第です。
「そう。とちゅうちょっと意味が分からない部分も多々あったけど、とりあえず帰ってきてくれて嬉しいわ」
はい。
色々たいへんなこともありましたけど、こうしてまたハローチェちゃんと一緒にいられるようになって良かったです。
「それはまぁ、ほんとにね……。で、そちらの皆さんが……」
はい、最新版結界同盟プラスワン(ワンコちゃんだけに)の皆さんです。
すると、すすすっとフェアちゃんが前に出てきて、皇族の笑顔でハローチェちゃんにあいさつをしました。
「初めまして。私はフェアっていうの。貴方がハローチェなのね。これからよろしくね♪」
「……初めまして、フェアさん。こちらこそ、よろしく」
そうして握手をするお二人ですが、フェアちゃんがハローチェちゃんの耳元にお口を近づけてヒソヒソと何かを言いました。
とたんにハローチェちゃんが、ジトっとした目になったあと、僕を見つめてきます。
どうしました、ハローチェちゃん?
「……いえ、何も。懸念が現実化しそうだけど、比較的話ができそうな方だからまだマシか、と思っただけよ」
???
「まぁ、それより。私たちのほうも色々あったのだけれど、細かい話をする前にまずはこちらに来てくれないかしら?」
と、ハローチェちゃんが木造家屋を示したので、皆で建物内に入ります。
すると、ひと足先に室内に入っていたジェニカさんが、お茶の準備をしてくれていました。
そして、ジェニカさんとは別に、
「姉さん、急にどうしたの?」
「あら、そちらの方々はどなたでございましょうか?」
僕より少し歳下に見える、銀髪の男の子と女の子が座っていました。
え、このお二人って……?
「まずは紹介するわ。私の弟のケイトと、同じく私の妹のリーチェよ。ちょっと事情があって祖国から引き取ってきたの」
ハローチェちゃんの弟妹ということは……、ひょっとしなくても、グロリアス王国の王族ということですか……?
「まぁ、そうとも言うわね」
え、なぜここに?
という僕の疑問はスルーされて、今度は僕がお二人に紹介されます。
「二人とも、この方がナナシさんよ。私の婚約者」
「初めまして、ナナシです」
すると、男の子は見るからに敵意むき出しの表情になり、女の子はぱああっと表情を明るくしました。
「そう、この人が……」
「貴方様がお姉様のご結婚相手なんですね! ふぅ〜っ! テンションブチ上がってまいりましたわ〜!」
お、妹さんはノリが良いですね。
そういうの、僕好きですよ。
「それとあと数人、この二人の護衛騎士だった者たちも一緒に来てるわ。……そして、ここからは落ち着いて聞いてほしいんだけど」
……なんでしょうか。
「ナルさんとレミカさんは、……負傷が大きくて、今、ベッドで休んでいるの」
……マジですか。
◇◇◇
ナルさんとレミカさんは、ともに包帯でぐるぐる巻きになってベッドで寝ていました。
それぞれ数か所の骨折と、全身の打撲及び裂傷、内出血や皮下出血もみられます。
僕は、ナルさんとレミカさんの看病をしてくれていた元護衛騎士の方々(全員女性でした。分隊長はダフネさんというみたいです)にお礼を言ってから、お二人のベッドを五重の回復結界で囲み全力で魔力を込めました。
そして、どうしてこのようなことになったのか、ハローチェちゃんに聞きました。
「つまり、ハローチェの兄たちの策略によって弟さんと妹さんが幽閉されてしまい、そのことをヨークさん経由で知ったハローチェが、皆さんとともにグロリアス王国に乗り込んでお二人を連れ出してきたと」
「そうよ」
「で、連れ出してここまで逃げてくる間に何度か追手がかかり、そのときにナルさんとレミカさんが負傷してしまったというわけですね」
なるほど。
そうですか。
「……ソウ兄ちゃん。教えてください」
「なんだ」
「妹や弟たちを大事にせず、政治的にあるいは物理的に手を出そうとしてくる兄たちって、どう思いますか」
「けしからんな。兄の風上にもおけん」
ですよね。
「メラミちゃん、教えてください」
「おう」
「敵がナメたことしてきたら、どうしないといけないと思いますか」
「決まってんだろ。やられた分の倍返しだよ」
ですよね。
なので。
「ハローチェ。教えてください」
ちょっと僕もグロリアス王国に用事があるのですが。
「どう行けば、グロリアス王国に着きますか?」
◇◇◇
で、ハローチェちゃんたちと再会して二週間がたった現在。
僕たちはカベコプター・ユーフォースタイルに乗船して、グロリアス王国王都の南方約五キロメートルの上空を飛行しています。
今の僕は激おこプンプン丸を通り越してムカ着火ファイヤーですので。
グロリアス王国の王子たちにマジで目にものを見せてやろうかと思います。
「行きますよ、皆さん」
ということで。
いつぞやのレミカさんのご実家に乗り込んだ時以上にギラギラと輝いてビカビカと悪趣味に光りながら、ドンジャカドンジャカと大音量で音楽を流しつつ王都の上空を低空飛行します。
おらっ、王都の皆さん初めまして!
「ワンコちゃん。ゴー!」
はいよぉ〜、とのんびりした返事とともに、ワンコちゃんが王都全体をまとめて飲み込むような巨大な黒い光球を上空に発生させました。
一気に王都中が騒然とします。
まぁ、これは見せかけだけのコケおどしなのですが、突如自分たちの頭の上に巨大で禍々しい見た目の光球が発生していつ落ちてくるか分からないとなれば、だいぶ不安に思うことでしょう。
「レミカさん。ゴー!」
続いてレミカさんが大量のバラの花を発生させ、ユーフォーの下面から王都中にばら撒きます。
ふわふわと落ちていくバラの花は地面や建物に触れるとバンッと大きな音と赤い煙を残して消えるようになっていて、王都中で混乱が起きています。
そしてようやく王都内の治安部隊や軍人たちが出てきましたので。
「ナルさん、メラミちゃん。ゴー!」
メラミちゃんの無双モードで戦闘職の方々を対象に取ってもらったうえで、
溜めに溜めたナルさんの電撃を全放射して、あらかたの敵戦力を麻痺させて無力化します。
ユーフォー内では、今回の作戦に参加していないジェニカさんやヨークさん、ケイト君やリーチェちゃん、元護衛騎士のダフネさんたちが、王都の惨状を見て引きつった顔をしていました。
そして僕は王城にユーフォーを寄せます。
「フェアちゃん。どのあたりにいますか」
王城全体を探知及び真名看破し、騒ぎを聞きつけてどこかに集まっているであろう王族の方々を探してもらいます。
「んー……、あ、いたいた。そこの二階の、窓のない部屋にいるね」
「分かりました。キャベ子さん。ゴー!」
「任せろ。……ヌンッ!」
ユーフォー内から、王城に向けてガオン斬を使ってもらいます。
王城の外壁が半径五メートルほどの円形に削り取られ、室内が丸見えになりました。
いますね。
煌びやかな服を着た男の人たちが。
慌てていますがもう遅いですよ。
「結界作成」
僕は、誰も部屋から逃げられないように結界で囲み、さらに室内にいる人間を個別で囲んで分断します。
特に、護衛として室内にいた人間たちは音と光と魔力を完全に遮断して無力化しました。
「……水竜搬道」
ソウ兄ちゃんが、ユーフォーから王城に向けて水竜を模した道を作ってくれました。
うん。素晴らしい花道ですね。
「さぁ。行きましょう、ハローチェ」
僕は、コテコテに飾りつけた結界服の襟を正しながら、同じくこれでもかと華美に飾りつけた結界ドレスを着たハローチェちゃんに手を差し出します。
ハローチェちゃんも、身につけた装飾品一式の位置を微調整してから、
「ええ。行きましょう、ナナシさん」
僕の手を取り、水竜搬道を通って優雅に王城に乗り込みました。
そして。
「ご機嫌よう、お兄様方」
ニッコリ笑顔であいさつするハローチェちゃんを見て……、その身につけた装飾品の数々を見て、ハローチェちゃんの兄たちは皆口々に喚き立てます。
おやおや、皆さんお口が悪いことで。
王族としてのあれこれを学んでいるとは到底思えませんね。
「……やっぱり今すぐ殺しましょうか」
気が変わった僕が、兄たちを圧殺するために結界をぎゅうっと小さくしていくと、結界内が一気に加圧されていきます。
おそらく、結界内の急激な気圧変化に伴う不快感と、生存領域が急激に小さくなることへのストレスで、兄たちは一気に半狂乱に。
そして圧死寸前までいったところで、
「ナナシさん。そのあたりで」
と、ハローチェちゃんからストップがかかり、僕は結界の圧縮をやめ、元の大きさに戻しました。
死の淵から生還した兄たちは、皆一様に怯えきった表情を浮かべています。
「次に、僕の愛しいハローチェに無礼な口をきいた者は、爪先から少しずつ全身をすり潰していって、この部屋いっぱいに広がる真っ赤な絨毯してあげます。どなたか一人だけ残っていれば、この国は続いていけるんでしょう?」
それなら、三人までなら絨毯にしても大丈夫ということですよね??
「まぁ、そうなんだけど。もう少し待ってちょうだい」
仕方ありませんね。
皆さん、ハローチェちゃんの寛大な心に感謝すると良いです。
「ふぅ。さて……。いつぞやはたいへんお世話になりましたわ、皆様。おかげさまで、私はこのように元気に過ごしておりましてよ」
ハローチェちゃんは笑みを深めます。
「それと、先日はお邪魔いたしました。なにやら、私の可愛い弟妹たちまでお兄様たちの策謀に巻き込もうとしていたようで。そればかりは許せませぬと、弟妹たちをお迎えに参った次第です。二人とも、こちらで元気にしていましてよ?」
そうしてハローチェちゃんは、手にしている蓬莱樹の笏杖をカツンと打ち鳴らします。
「それともう一つ、今日はご報告に参りました」
頭に乗せた天上鋼の王冠をくいっとし、
「私、このたび婚約いたしまして」
首にかけた燕晴貝の首飾りを指でなぞります。
「相手はそう、こちらのナナシさんでして。……ええ、ご想像のとおり。ここから南に広がる大秘境、極魔の大森林に降臨した天人様なんですの」
肩に羽織った灼熱獣の革套をバサリと払って右手を突き出し、
「これらの至宝も、全てナナシさんが私のために作ってくださったのですよ?」
それから、マントの留め具の横に取り付けた、龍顎鱗の徽章を指差しました。
「お兄様方は、私を疎んでこの国から追い出されましたね。なので私は、この国よりもっと素晴らしい国を作ってやろうと思いましたの」
呆然と、魂が抜けたような表情を浮かべる兄たちに向けて、
「ありがとうございました、皆様。皆様方の策謀のおかげで、私はこうしてナナシさんに出会い、見初められ、王妃として生涯をともにすることを誓うことができました」
満面の笑みを浮かべたハローチェちゃんは、
「私はこれからナナシさんと国を興し、人を集め、大きくしていって、その先にある幸福を追求していきます。……皆様方におかれましては、どうぞこの国で今までどおり頑張ってくださいませ」
と、宣言しました。
そこに。
「僕からも、御礼申し上げます。皆様のおかげで愛しいハローチェと巡り会うことができました。そこだけは、感謝しています」
僕は、思わせぶりにスッと右手を上げてみせました。
それを見たワンコちゃんが、上空に待機させていた巨大な黒い光をゆっくりと降下させます。
「そしてそれ以外に関しては、僕はハラワタが煮え繰り返るほどの怒りを感じていますので。置き土産をしていくことにします」
兄たちが慌てふためきますが、知ったこっちゃありません。
「あの黒い光が王都を包んだのち、何が起こるかはまさしく神のみぞ知るところとなりますが。一つだけ言えることは」
まぁ、ぶっちゃけ何も起きないんですけど。
みせかけだけの、ただのコケおどしなので。
けどまぁ、思いっきり脅すぐらいはいいでしょう。
「今後貴方たちが僕たちに干渉するようなことがあれば、この埋伏する呪いを解き放ち、この国の土地と人の全てを呪ってさしあげましょう」
黒光が、王都に堕ちました。
禍々しい光が全てを包み込みます。
そして、黒いのにまぶしいという不可思議な光で皆の目がくらんでいるうちに王城を脱出。
皆で森の拠点まで帰ったのでした。ちゃんちゃん。