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第142話・立場を変えても


 ◇◇◇


 久しぶりに帰ってきた森の拠点は、僕が最後に見た時とそれほど変わってはいませんでした。


 拠点の木造家屋の外観もそのままですし、神殿や、超巨大女神様像(全高十五メートル)の御威光もそのままです。


 超巨大女神様像(全高十五メートル)を見て呆気に取られている皆さんはさておき、お嬢様たちはどこにいるのだろうと見回すと。


 木造家屋の扉がガチャリと開きました。


「はぁ〜、今日は冷えますねぇ。この森でもこれだけ冷たいなら、北のほうはもっと……、って、えっ?」


 中から出てきたのは、ジェニカさんでした。


 ジェニカさん!

 お久しぶりです!!

 

 僕は嬉しさのあまり駆け寄って、ジェニカさんに抱きつきました。


 うわぁ、本物のジェニカさんです!

 あ、貸してた簡易版概念結界鎧、まだ着てくれてたんですね!


 えへへ、嬉しいなぁ。


「えっ、へっ……? ナナシくん? ほんとにナナシくんなの?? というか知らない人がいっぱい……、って、本当にナナシくん!?」


 はい。

 ナナシですよ。


「……! た、たいへん! ハローチェさん! ハローチェさーん!!」


「どうしたの、騒がしいわね……」


 っ!?


 このお声は……!!


「まだケイトもリーチェも寝ているのよ、そんなに大きな声を……」


 お嬢様!!!


「はっ、えっ……、 ナナシさ、うぐっ……!?」


 僕が嬉しさあまってお嬢様に飛びついて押し倒すと、お嬢様は苦悶の声を出しました。


 お嬢様!

 ハローチェお嬢様!!


「ごほっ、ばっ、ええっ……、ナナシさん? 本当に、ナナシさんなの……?」


 はい!

 お嬢様のナナシです!


 たいへん遅くなりました!

 ただいま帰還いたしました!!


 すると、僕のことを認識したお嬢様の目から、ボロボロと涙が……!?


「えっ!? お、お嬢様、どうしたんですか……!?」


 はっ!


 まさか、勢いよく飛びつきすぎて打ちどころが……!?


 あわわわわ、いけませんいけません!

 す、すぐに回復結界を、……って、あれ?


「〜〜〜〜っ! ナナシさん!!」


 はいっ!!

 ……って、うわっ!?


 僕は、お嬢様に顔を掴まれると、ぐいっと引き寄せられました。


 そして、なんと、お嬢様に、思いっきり()()をされました……!!?


「!!?」


「〜〜〜〜っ、ぷはっ!」


 たっぷり数秒間唇同士を重ね合わせたあと、お嬢様は息継ぎに口を離しました。


 そしてまた僕を引き寄せて、今度は力一杯抱き締められました。


 ぎゅうう、っと、もう絶対に離さないとばかりに力強く抱き締められ、僕は目を白黒させるしかありません。


「お、お嬢様……? あの……」


「バカバカバカ! ナナシさんのオタンコナス! どうしてこんなに遅くなるのよ! どうしてもっと早く帰ってこないのよ!!」


 抱き締められたまま、そんなことを言われます。


「ご、ごめんなさい。ちょっと、色々ありまして」


「寂しかったのよ! 辛かったのよ! ナナシさんがいなくて、私もう本当にダメになっちゃうところだったの!」


 は、はい。ごめんなさい。


「毎日毎日悲しくて悲しくて! 貴方が帰ってくるのをずっと待ってたの! すぐに後を追いますって言ってたのに全然出てこないから、本当に心配してたのよ!」


 そうですよね。

 ごめんなさい。


「……あの、お嬢様」


 返事のかわりに、僕を抱き締める力が一段と強まります。


「悲しい思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。ダンジョンから出る間際にラスボスさんから最後の抵抗を受けてしまって、気がついたら全然知らない土地に転移させられていたんです」


「……ぐすっ」


「しかも、場所どころか時間まで飛んでしまってて……、今から二百年以上先の未来に行っていたんです。なので、そこからここに帰るためにあれこれしていてですね……、それで、帰ってくるのが遅くなってしまいました」


 ごめんなさい。


 と、重ねて詫びると、抱き締める力が少し緩みました。


「あの、今後は二度とこのようなことはしないと誓います。お嬢様の元から離れて悲しい思いをさせたりしないと女神様に誓います。……だから、もう泣かないでください、お嬢様」


 お嬢様は、しばらくぐすぐすと鼻をすすっていましたが、やがて小さな声で言いました。


「……お嬢様じゃ、イヤ」


 え、それはどういう……?


「私のことは、ハローチェって名前で呼んで」


 お名前で、ですか?


「えーっと、泣かないでください、ハローチェちゃん」


「……ちゃんもいらない。ハローチェがいい」


 …………えぇーっと……。


「泣かないでください、ハローチェ。そんなに泣かれると、僕まで悲しくなってしまいます」


「……分かったわ」


 そう言うと、腕から力が抜けて僕は解放されました。


 僕が身体を起こすと、お嬢さ……、じゃなかった、ハローチェちゃん(心の中では勘弁してください)も上半身を起こします。


「ナナシさん」


「なんでしょうか、ハローチェ」


「……私、本気で貴方のことが好きなの。だからこれからは、もっと私の婚約者として接してちょうだい」


 え。


 ……あー、はい。


「分かりました。これからの僕はお嬢様の従者あらため、マイハニーハローチェの未来の旦那様です」


「未来の旦那様……。その響き良いわね。ナナシさんに紹介しないといけない子とか伝えとかないといけない事とかたくさんあるんだけど、……それよりも」


 ハローチェちゃんが再び目を閉じて、軽く唇を突き出しました。


 僕は察して、ハローチェちゃんに軽くキスをしてあげます。


「……えへへ、ナナシさんだ。本当に帰ってきてくれた……」


 うっ。ハローチェちゃんの輝かんばかりの笑顔に、思わず僕もドキッとしてしまいました。


 うーん。これは美少女。


 やはりハローチェちゃんはスーパー可愛い女の子ですね。


 そして、僕とキスをしてニコニコしていたハローチェちゃんでしたが、ふと、僕の後方に視線が動いたかと思うと、ピシリと固まってしまいました。


 はて?

 僕も振り返ってみると、そこには。


「はわわぁ……。いきなり交尾でも始まるかと思うて、どきどきしたよぉ……!」


 と、僕と一緒に帝国からやってきた皆さんが、恥ずかしさでそっぽを向いてたり興味津々で見つめてきてたり後方兄貴面でうんうん頷いていたりしました。


 あー、うん。


「紹介しますね。あちらの皆さんが、僕がここに帰ってくるためのあれこれに協力してくれた人たちになりまして」


「……は、は、はや……!」


 はや?


「……そういうことは、早く言いなさいよーー!?」


 と、顔を真っ赤にしたハローチェちゃんが収納空間からハリセンを取り出して思いっきり僕のほっぺたを引っ叩いたのでした。痛いっ!?


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