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第137話・新鮮なので生卵でも大丈夫なんですよ


 よく溶いた産みたて卵に、しっかりと味のしみた薄切りお肉をくぐらせて、ホカホカご飯の上に乗せたら、


「お肉とお米を一気にかきこむ! ……うぅーん、美味しいです」


 僕は、舌がとろけそうなほど美味しいすき焼きをパクパク食べます。


 お肉も美味しいですしお野菜も美味しいです。

 新鮮卵も素晴らしいですし、炊き立てご飯も絶品です。


「食材がどれも超一級品ですね! さらに調理も丁寧で、僕、これほど美味しいすき焼きは初めて食べました」


「それは良かったよぉ。ほぅら、お肉もお野菜もまだまだあるけんね、たぁんとお食べ」


 はい!

 いただきます!


 ぱくぱくもぐもぐ。

 ぱくぱくもぐもぐ……。


 あ、具材が少なくなってきましたね。

 しばらくは僕がお鍋のお世話をしますので、ワンコちゃんも食べてください。


「そうかねぇ。ほれじゃあ、ちょっと燗を持ってこようかねぇ」


 と、別で準備していた熱燗のとっくりを取りにいきました。


 僕はお肉やお野菜をお鍋に敷き詰めて醤油とザラメ砂糖を足しながら、皆さんのお顔を見ます。


「スーちゃんさん、椎茸もちゃんと食べましょうよ」


「……シイタケ、美味しくない」


 好き嫌いしてると大きくなれませんよ。


「メラミちゃん、ご飯のおかわりはいかがですか」


「お、おぅ。そうだな、頼む」


 はい、山盛りにしておきますね。


「キャベ子さん、お豆腐が良い感じですよ」


「ありがとう、ナナシ。うん。このお箸というのは難しいが、すき焼きはとても美味しいな」


 どうしても食べにくかったら、結界フォークとスプーンを出しますので、また言ってくださいね。


「フェアちゃん、卵を追加しましょうか」


「うん、ありがと。……ねぇ、ナナシ?」


 はい、なんですか?


「えっとね……。美味しいんだけど、ちょっと緊張のせいでよく味わえないというか……」


 そうですか。

 じゃあ、ワンコちゃんが戻ってきたらスーちゃんさんとお話をしましょうか。


「いいですか、スーちゃんさん」


「……良いけど。そのスーちゃんさんってなによ?」


 スーちゃんより語呂がいいじゃないですか。

 だからスーちゃんさんです。


「……バカにしてるわけじゃないのよね?」


「もちろんですよ。僕は可愛い女の子の気を引くためにからかったりするタイプではないですから」


 とにかく尽くして尽くして尽くすタイプですよ。


 まぁ、そのせいで色々やらかしたりもしました(前世は五回ぐらい人生棒に振りました)けど。


「ふんふふ〜ん、美味しいお酒を燗できゅ〜っと、……おや、どうしたんじゃ?」


 あぁ、ワンコちゃん。

 ちょっとこの後スーちゃんさんとお話をしたいんですけど、


「僕、どうやったらスーちゃんさんとお友達になれると思いますか?」


「ほぅむ? そうじゃねぇ、まずはお互いが素直な気持ちでお話をするのがえいんじゃないかねぇ」


 なるほど。

 分かりました。


「スーちゃんさん。実は僕、可愛い女の子のお足をペロペロ舐めるのが好きなんですが、スーちゃんさんのお足も美味しそうなので舐めてもいいですか?」


「……はっ?」


 そのあとの「キッモ……!?」という恐怖したような瞳に、僕は首を傾げるばかりでした。


 ちゃんと正直な気持ちを話したのに!!




 ◇◇◇


「というわけで。僕は敬愛するお嬢様の元に帰らなくてはならないんですけど。そのためには二百年以上過去に戻らなくてはならなくてですね」


「待って待って待って。さらっと無茶苦茶言わないでくれる??」


 二百年とかふざけてるの?


 と、スーちゃんさんは言いますが、僕は大真面目ですよ。


「なにかこう、超・時空間大跳躍術みたいなスキルをさらっと手に入れる方法か、それに類することができるようになる知恵はありませんか。なければ、仕方がないのでこのゲヘナダンジョンをクリアしてスキルオーブをもらうようにしますが」


「仕方ないとかいう理由でこのダンジョンをクリアしないでくれる!? いや、そんなふざけた理由ではクリアなんてさせないけどね!?」


 いや、理由はどうあれ最深層でラスボスを倒せばクリアになるでしょう。


 そしてスーちゃんさん。


「ワンコちゃんならともかく。スーちゃんさんはそれほど強くないじゃないですか。完全クリアがどうしても必要になるなら、僕は明日またここに来てワンコちゃんを倒して、そのあとさらに攻略を進めてスーちゃんさんを倒しますよ」


 つまりですね、僕はこう言ってるんです。


「死にたくなかったら、僕に(知恵)(能力)を貸してください。協力してくれるなら、僕は貴女たちの良き友としてこれからもここに遊びに来ますから」


「恫喝してきておいて友達もなにもないんだけど!?」


「恫喝じゃありませんよ。いや、貴女たちが善良な一般市民なら恫喝になるのかもしれませんけど」


 貴女たちは、このダンジョンの九十階層フロアボスとラスボスでしょう?

 本来的には、僕たちと殺し合う相手でしょう??


「本来なら問答無用で倒されててもおかしくないところを、妥協点を求めて話し合いの場を設けているんですから。僕はよほど甘っちょろいやつだと思いますけど」


「ナチュラルにあたしたちを倒せる前提で話をしてるところがムカツクのよ! ちょっとワンダー! あんたも何か言ってやりなさいよ! こいつ、あんたのことも格下に見てるのよ! ムカつかないの!?」


 と、話を振られたワンコちゃんは。


「そうは言うてもねぇ。ななしはちゃんと強いよぉ。あたしの本体だったら負けやしないだろうけど、ここのあたしだったら、どうだろうねぇ」


「……え、こいつそんなに強いの?」


「強いよぉ。戦う力もそうだし、やり遂げる心の力が強いんだねぇ。あたしなんかはほら、のんびりさんだから。最後の最後に気迫の勝負になったら、分からないかもしれないよぉ」


 そう言われて、スーちゃんさんはちょっと考え込みます。


 そこに。


「あの、ちょっといいかな」


 フェアちゃんが手を上げました。


帝国(私たち)としても、ゲヘナダンジョンが完全攻略されて消滅すると困るんだよね。だから、なるべくなら貴女たち(ダンジョンマスター)と仲良くしたいんだけど」


「……あんたはいったい何なのよ」


「このダンジョンがある国の、支配者の一族の者だよ。貴女たちのダンジョン内に入っていく人間の大半は、私たちの国の人間たちなの」


 皇女殿下としての顔を取り繕って、フェアちゃんは言います。


「本当なら、今までにこのダンジョンに呑まれた国民の数を考えたら、さっさと滅ぼすしかないんだけどさ。ナナシが来て、ちょっと風向きが変わったんだよね。皇帝陛下(おとうさま)も、ここから得られる利益のことを気にするようになってきたし」


「なにが言いたいわけ?」


「このダンジョンに、今までどおりかそれ以上の数の人間が入るようにしてあげるから、そっちも今までどおりに資源をよこして。お互いに今後もその関係が維持できるなら、取引の相手としては悪くないんじゃないの? ダンジョンって、定期的に人が来ないといけないんでしょ?」


 スーちゃんさんが、不機嫌そうに表情を変えます。


「あたしたちと取引とか、舐めてるわけ? なんであんたら人間ごときが、あたしたち魔族と対等だと思うわけ?」


「対等でしょ? だってダンジョンって、魔界からこっちの世界に魔族が来るための通り道じゃない。魔界ならともかく、こっちに来た以上はこっちのルールがあるし、それに縛られるなら、人間も魔族も大差ないじゃん。……それに、」


 フェアちゃんが皇族の笑顔(ロイヤルスマイル)を浮かべます。


「スー。少なくとも貴女は、……純粋な魔族ではないんでしょ?」


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