第134話・六大祖龍神の一柱、光老龍・幻想招来
「すげー! ぽこじゃか落ちてくし! マジヤバたんじゃーん!」
と、興奮しているヘリーちゃんの言うとおり、僕たちはたいした苦労もなくダンジョン内を進んでいます。
現在お昼すぎで、先ほど昼休憩をしたばかりです。
すでに八十四階層まで来ていますが、いまだに一度も攻撃を受けていません。
なにせ、上空五百メートルあたりを飛行する僕たちには、地上の竜種の攻撃は届きませんし、
飛行している竜種は、僕たちに近づく前にことごとく地上に落ちていって、その姿を魔石に変えていきます。
ははは。翼竜がゴミのようですね。
「……うん。閃いた。ちょっと新しい曲を書くよ」
「いやぁ、さすがナナシさんですね……。こんなあっさり竜殺しを達成するなんて……」
そうして、八十五階層に下りたところで。
「……お? とうとう天墜結界に抵抗する個体が現れましたね」
多少のふらつきは残しているものの、こちらに向けて飛行を続ける翼竜が現れました。
翼竜は、大きな口を開けてこちらに噛みつこうとしてきます。
「……ヌンッ!」
ガオンっ、と片側の翼が円形に削り取られました。
キャベ子さんのガオン斬ですね。
さすがに片方の翼を失ってしまえば、翼竜といえど飛行を続けることはできないようです。
そのまま墜落していってドロップ品になりました。
さらに、別の翼竜が来たところでは。
「……水竜穿角!」
噛みつこうとして開けていた口の中に、超高圧の水のレーザーが撃ち込まれます。
そのまま水のレーザーが脳天まで貫通した翼竜は、空中で消滅しながら落ちていきました。
さすがソウ兄ちゃん。
羽虫のように貧弱な翼竜たちとは違い、ソウ兄ちゃんの水竜は鋭くてキラキラしてて(スキルの効果でエフェクトがついています)カッコ良いですね!
さらにさらに。
それを見ていたメラミちゃんも。
「オラぁっ! ……お、できた」
遠当てのスタンパンチ(これもキン鉄'15の有名なバグで、ジャンプ攻撃してきた相手にタイミング良くスタンのかかる攻撃を出すと、なぜか当たり判定が全画面になって必ず攻撃が当たるんです。なので中級者以上は決してジャンプ攻撃を使いません)で翼竜を殴り落としていきます。
そんなこんなとしながら、この日は八十七階層の入口まで進んでからリターンチケットで帰還しました。
翌日は休養日にし、シン・女神様像の彫り出しを進めました。
それからフェアちゃんに近場で買える土地がないか探してもらうようお願いしたところ「オッケー任せて♪」と頼もしいお返事が。
土地が買えたら、どんな神殿を建てましょうかね。
そちらの設計図も並行して書いていきます。
その翌日。
攻略開始から八十二日目。
この日もひたすら翼竜たちを叩き落としながら階層を下り、八十九階層の下り階段前でリターンチケットを使います。
翼竜の魔石と爪と牙が大量に手に入ったほか、たまに骨とか革とか鱗とかも落とすので全部拾いました。
竜素材はともかく、魔石はなかなかのものだと思いますので、バッテリー用の魔石はこの翼竜たちの魔石でもいいかもしれませんね。
翌日はまた休養日に。
なんともうフェアちゃんが神殿用の土地を見つけてくれたそうです。
「じゃーん、ここだよ」
と言って見せられたのは、なんと僕たちのお家のすぐ真裏にあるお家でした。
なんか、急に家主が引っ越すことになって家ごと土地が売りに出されたらしいので、皇室名義で購入してくれたそうです。
なんだか裏取引とお金の匂いがぷんぷんしますが、もう買っているというならありがたく使わせていただきます。
また今度、結界ブルドーザーで更地にして、結界トンカチで神殿を建てようと思います。
あ、建築資材を買っておいてくれると助かります。フェアちゃん、良いですか?
「良いよー。けど、そのかわり……♪」
はい。
今日は特製コジロー系ラーメンをご馳走しますね。
「やったあ!」
と、女神様神殿・ニューホライズン帝国迷宮都市支部の建築準備を進めながら、八十三日目は終わりました。
なお、この日の夜はフェアちゃんが一人で僕の部屋に来て、
「くんくん、くんくん……。はあぁ、とっても良い匂い……♪」
と、僕の全身をさわさわぺたぺたしながら、髪の毛とかうなじとか色んなところの匂いをクンクンしていきました。
で、最後は優しくお手々ですりすりされて、ぱくっとちゅーっとされてしまい、
「ふあぁ……、こっちもほんとに、クる匂いだね……♬ ……んっ」
よく味わってゴックンと飲み込んだフェアちゃんが、楽しげに唇をペロリと舐めたのでした。
翌日。
攻略開始から八十四日目。
この日僕たちは、夕方ごろに九十階層に降り立ちました。
そしてそこで、真の龍を目の当たりにしました。
「おやまぁ、よく来てくれたねぇ。ほら、こっちに来んしゃいね」
……え、幼女?
九十階層のフロアボス部屋にいたのは、おばあちゃんみたいな喋り方をする、ツノと翼と尻尾の生えた十歳ぐらいの女の子でした。
◇◇◇
「あたしゃ、光老龍のワンダーコールと言うんよ」
と、おばあちゃん幼女は言います。
「とは言うても、本体は魔界におるんじゃがねぇ。ここにいるあたしは、だんじょんに呼び出された影法師のようなもんじゃ。本体ほどの力もないし、日がな一日ぽかぽかと、日向ぼっこをさせてもろうとるんよ〜」
ここはいつでも良い天気じゃからねぇ、としみじみした様子で言いますが、そんなことより僕は、この九十階層のフロアボス部屋の構造に感動していました。
フロアボス部屋に入ったとたん、のどかな風景が広がっており、小さな森ときれいな小川、いくつかの畑と田んぼに、小山の中腹には果樹林もあります。
スズメがピーチク飛び回り、カカシにとまって毛繕いをし、
小川では川魚がぴょんと跳ねて水中に戻っていきます。
すごい……!
なんか、ザ・田舎の日本って感じの風景です……!
田舎暮らしに必要なあれこれが全部揃っています……!!
そしてボス部屋の真ん中に大きな平屋の日本家屋があり(庭先には鶏が放し飼いされていて、奥の方には薪割り場や、牛や豚の小屋まであります)、
その玄関口でおばあちゃん幼女のワンコちゃん(なんか、そう呼んでくれると嬉しいとのことなので)が待っていたもので、皆で客間に通されて今に至っています。
僕たちは今、一定の警戒はしつつも、ワンコちゃんの出してくれたお茶と漬物を味わいながら畳の上でお話を聞いています。
「いつかここにもお客さんが来ると聞いとったから、ずうっと待っとったんよ。ほら、ぽりぽりさんももっとお食べ」
僕は、美味しい漬物をぽりぽりしながら、ワンコちゃんとお話をします。
「僕たち、この下の階層に行きたいんですけど、どうしたらいいですか?」
「それなら、裏山の反対側に回ると鳥居が立っとるから、それをくぐればえいよ」
ワンコちゃんはニコニコと教えてくれました。
「鳥居の向こうに、くりすたるっちゅうもんが置いてあるらしくてねぇ。自由に出入りできるようにしとるから、あとで行ってみるとえい」
「え。……クリスタル部屋からここに入れるんですか?」
「入れるよぉ。あたしゃ泥棒さんも怖くないから、鍵はかけとらんのよ」
マジですか。
いや、今まではクリスタル部屋に飛ぶことはできても、そこから同じ階のフロアボス部屋に入ることはできませんでしたので、わりと衝撃的な事実です。
「それなら、そこのクリスタルからまたここに遊びに来ることはできますか?」
「おい、ナナシ……!?」
僕の言葉に、思わずといった様子でメラミちゃんが口を挟みます。
しかし、そんなことは気にした様子もなく、ワンコちゃんのお顔がぱあっと明るくなりました。
「ほんとうかい! いやぁ、嬉しいねぇ。あたしゃここに誰かが来るのを、ずうっと待っとったんよ!」
そうでしたか。
それならまた明日も来ますね。
「うんうん! ぜひまた来ておくれ!」
そうしてこの日は、皆で九十階層のリトライクリスタルにタッチして地上に帰還したのでした。