第133話・真名判明
あの後フェアちゃんがラーメンを二回もおかわりしてしまったので、フラーさんとロコさんとタマゾン姉貴からやんわり叱られてしまいました。
「時間を考えてください」
「いくらなんでも食べさせ過ぎだ」
「晩ご飯が食べられなくなっちまうからねぇ……」
どうにも、食べた本人より作った僕のほうが叱られている気がしますが、まぁ仕方ないでしょう。
この人たちにも色々と立場というものがありますし。
かくいうフェアちゃんは、僕と一緒に叱られつつも、
「また明日も食べさせてよ。ね?」
と、耳打ちしてくるあたり、よほどラーメンが気に入ったみたいです。
あるいはまるきり反省していないのか。
おそらくその両方な気もします。
まぁ、真名看破情報を教えてもらっているのでラーメンをご馳走するのは構わないんですけども。
「良いですけど。定時のご飯に差し支えないようにしてくださいね」
「はーい」
というやり取りがあったりして、僕は寝る前に自室でフェアちゃんからもらった紙を読んでみました。
まず、僕のスキルについて書いています。
【ナナシのスキル「超・結界術(極)」は、ナナシの信仰心の高さに応じて出力上限が高まるらしいよ! 女神様のことを信仰すればするほど、より強い力が出せるわけだね!】
ほほう、そうだったのですね。
どうりで、僕の結界術は他の人の結界術より強力なわけです。
まぁ、僕ぐらい信仰心の高い人もそれほど多くないでしょうから、さもありなんといったところですが。
けど、そういうことならシン・女神様像の完成を急がなくてはなりませんね。
いえ実は、少し前から時間が空いたときに、お家の裏庭で丸太から彫り出して、全高三メートルの女神様像を作っているんですよ。
完成した暁にはお家の近くの土地を買って神殿を建てようと思っていたところでして。
そのあたりのところも、今度フェアちゃんを通じてお願いしてみましょうか。
それから、僕のことについても書いてあるのですが。
【そういえば、ナナシの真名看破してるとき、たまに名前が読めない文字で表示されることがあるよ! 一応、文字を見たままの形で写しておくね!】
との言葉とともに書き記されていたのは、
「…………あー、これって……」
そこには、たどたどしい日本語で、前世の僕の名前が書かれていました。
なるほど。
真名看破術なので、これも分かってしまうのですね。
「……ふむ。どうしましょうか」
女神様曰く、この名前はすでに使えなくなってしまっているはずなのですが、
こうして真名看破術で僕の名前として表示されるということは、僕の魂はまだこの名前を捨てきってはいないということなのでしょう。
「……まぁ、はい」
僕は、手元の紙を握り潰して口に入れ、もぐもぐしてからゴクンと飲み込みました。
「一応、フェアちゃんには口外しないように言っておくようにしましょうか」
それから僕はベッドに入り、眠りについたのでした。
すやぁ……。
翌日。
攻略開始から七十九日目です。
僕は朝からフェアちゃんにラーメンをご馳走しています。
いや、その。
フラーさんから睨まれているのは重々承知の上なのですが。
実は、夜明け前にこっそりフェアちゃんが部屋にやってきたので早起きぺろぺろをしたんですが、
その時に僕の前世の話をしたところ、「えっ。じゃあナナシって天人なの?」と言われてしまい、
そのこととか諸々含めて内緒にしてもらうかわりに、フェアちゃんが食べたい時はいつでもラーメンをご馳走する約束をしてしまったので……。
まぁ、タマゾン姉貴のご飯を残すととても怒られるということはフェアちゃんも知っていますので、そこはちゃんとすると思いますけど。
逆に言うと、絶対これカロリーの摂りすぎになると思います。
キャベ子さん(暴飲暴食術でいくらでも食べられる)やメラミちゃん(いつもたくさん動いている)ならまだしも、フェアちゃんがカロリーオーバーになっていくのはちょっと良くないですので、
「フェアちゃん。食べ過ぎで太り気味になったらさすがに制限しますからね」
「はーい♬ ズルズル〜♪」
というかフェアちゃん、普通に麺すすってますね。
お嬢様は「絶対無理よ」ってタイプでしたけど、同じお姫様でも違うものですね。
「お、美味そうなモン喰ってんな。アタシにも喰わせろよ」
「とても良い匂いだな……。うん、ワタシも食べてみたい」
と、食堂にやってきたお二人にもラーメンをお出ししたり、スープ作りや麺打ちを手伝ってもらったりして、この日は陽が暮れていきました。
で、その夜はいつもの三人と夜更かしをして、カロリー消費に励んだ(皆で筋トレしました。そのあといつものをしました)のでした。
◇◇◇
攻略開始から八十日目です。
さぁ、今日から竜たちの縄張りを進みますよ。
「が、がんばるー……」
昨晩慣れない運動(腕立て腹筋背筋スクワット)をしたフェアちゃんが、すでにヘロヘロ状態になっています。
「全身が、バキバキいってる……」
完全に筋肉痛ですね。
まぁ、ラーメン食べるならちゃんと運動したほうがいいですよ。
コルセットが締まらなくなったらフェアちゃんも困るでしょう?
「う、うぅー……」
さてさて、皆でお家を出て冒険者ギルドに顔を出し、ダンジョンゲート前に向かいます。
「……おはよう、マイブラザー」
おはようございます、ソウ兄ちゃん。
おや、他の皆さんはどうしました?
ゲート前でいつものように天秤会の皆さんと合流するものと思っていましたが、今日はソウ兄ちゃんしかいませんね。
「……実は、な」
ソウ兄ちゃんのお話をまとめると、カイカちゃんとシャラちゃんとニニノちゃんは、今日から別行動になるそうです。
どうにも、以前から自分たちの実力に見合っていない深層を進むことに抵抗があったらしく、先日の虚空蟲討伐を見てその思いを強めたとのこと。
そしてしばらくは自分たちの実力向上に努めたいそうで、天秤会から株分けした旧メンバーのパーティーに同行して、四十階層のフロアボス討伐を目標に活動するそうです。
なるほど、なるほど。
「すまん……。だが、マイシスターたちも新たなステージに進むことを決めたんだ。俺には、止めることなどできない……!」
いえ、そういうことなら仕方ないですよ。
無理強いするつもりもありませんし。
「けど、そうですね。いずれ僕がこのゲヘナダンジョンをクリアするときがきたら、盛大にお祝い会をしてもらおうかと思っていますので。その時は、ぜひカイカちゃんたちにも会に参加していただければと思います」
「! ……ああ、伝えておく」
そういうわけで、今日は十人で八十階層のリトライクリスタルに飛びます。
そして階段を下りて竜たちの棲家に足を踏み入れました。
さて、皆さん。
「ちょっと試してみたいことがあるんですけど、良いですか?」
皆さんが頷いたのを確認してから、僕はまずエアコプターを作成して皆さんとともに乗り込みます。
そして。
「結界作成、……天堕」
薄く広く、侵蝕結界に似た結界を作成します。
半径三百メートル、地上から高度一キロメートルぐらいまでを囲む巨大な円柱形の結界です。
と、タイミング良く一匹の翼竜が、僕の天堕結界の範囲内に入ってきました。
すると。
「……堕ちたね」
「堕ちてくな」
「地面に叩きつけられて、動かないぞ」
空を自在に飛び回っていたはずの翼竜は、突如浮力を失ってきりもみ落下。頭から地面に突っ込んで動かなくなりました。
うん、成功ですね。
僕は、堕ちた翼竜からドロップした爪と牙と魔石を結界泡で回収しながら説明します。
「魔力の流れを見ていると、どうもあの翼竜たちは何らかのスキルか魔力の操作によって空を飛んでいるようでしたので。そういうのを禁止する結界を作ってみました」
つまり。
この天堕結界の中では、鳥や虫が羽ばたいて飛行することはできますが。
スキル効果や魔力操作での飛行ができないように、飛行に関する魔力を乱す効果を付与しているのです。
と、さらに何匹かの翼竜が僕たちに気づいて近寄ってきますが。
全て僕たちのはるか手前で墜落し、ドロップ品と魔石に変わっていきます。
ははは、これは良いですね。
蚊取り線香の煙を浴びた羽虫たちのように落ちていきます。
「さぁ、それではいきましょう」
僕が操作するエアコプターだけは、天墜結界の影響を受けずすいすい空を飛べますので。
ガンガン進んでいきましょう。