第129話・最先端攻略再開
攻略開始から六十七日目。
今日も元気に探索です。
「じゃーん! こんな感じでいいのかな?」
昨日プレゼントした装備一式をさっそく身につけたフェアちゃんが、ニコニコ笑顔で僕に見せてきます。
はい、ちゃんと装備できていますよ。
ヘルメットと鉢金の留め帯に弛みはありませんし、革鎧の留め紐もきちんと絞っています。
腰のベルトも体格に合わせて留めていますし、ブーツの靴紐もしっかり結んでいます。
装備点検、全部ヨシ!
フェアちゃんは「えへへー」と嬉しそうです。
「これってとても頑丈だと思うんだけど、すごく軽いんだよねー。布の服とあんまり変わらないぐらい。ブーツはちょっと普通の靴より重いかもだけど、それでも鎧とかに比べれば全然だし」
まぁ、総合的な防御力の高さとずっと装備していても疲れない軽さの両立を目指しましたので。
ただ、
「フェアちゃんの技量だと、その装備をしていても街の酔っ払いを怪我せずに追い払えるかどうかというところなので、ダンジョン内では絶対に前には出ないでくださいね」
「はーい、分かってまーす」
この装備は、実用性は十分にありますが、それでもダンジョンの深層に潜るにあたっての単独戦闘などは想定していません。
あくまでも、フェアちゃんが冒険者としての格好をできるように作ったものになります。
「本当は小楯とかも作ろうかと思ったんですけど、使えもしないもの持ってても邪魔ですもんね」
「そうだねぇ。短剣ぐらいなら、まだ振り回すことはできるもんね」
そういうわけなので、フェアちゃんはこれからも後方からガンガン真名看破を飛ばしてください。
実際の戦闘は僕たちがやりますので。
「はーい」
ということで、ダンジョンゲート前で天秤会の皆さんとも合流しました。
今回の探索からは、
結界同盟の僕、メラミちゃん、キャベ子さん!
勇猛楽団のロビンちゃん、ユニ子ちゃん、ヘリーちゃん!
天秤会のソウ兄ちゃん、カイカちゃん、シャラちゃん、ニニノちゃん!
そしてフェアちゃん、フラーさん、ロコさん!
の、計十三名で突撃です。
「いや、多すぎんだろ……」
大丈夫ですよメラミちゃん。
僕の結界で皆さんまとめて運べますので。
ひとまず六十階層のリトライクリスタルにワープし、そこからアチアチ空間を進んで行くのですが。
「ほんとに暑いね。なんとかならないか、ちょっと試してみる」
と、フェアちゃんが何度かスキルを使ってみると、突然周囲の温度がガクンと下がりました。
「あ、できた。この階層の説明文に『超高熱空間』って表記があったから、そこから『超』の文字を削ってみたの」
わお、マジですか。
やりますねフェアちゃん。
「えへへ、やるでしょう。階層変わったら効果が切れそうな感じだから、階層移動のたびにスキルを使い直すよ」
そこから、以前よりはるかに涼しい状況でスイスイと進むことができました。
しかも、フェアちゃんの真名看破術の練度もかなり高まってきましたので、フェアちゃんが初見のエネミーでも一分もあれば情報文の完全表示ができるようになってきました。
「ここらの階層は、お泊まりするのは嫌だなー。ナナシ、ささっと進もうよ」
と、フェアちゃんが言うので、エネミー捜索もほどほどにしてどんどん下層を目指します。
途中でメラメライオン(真名看破すると、やっぱり灼熱獣でした)をひねり潰して毛皮をゲットしつつ、夕方ごろには七十階層に。
七十階層のフロアボス、火の化身(真名、ファイア・エレメンタルキング・レプリカ)もギュギュッと圧滅して。
はい。リトライクリスタルにタッチです。
まぁ、タッチするのは初めてここに来たフェアちゃん、フラーさん、ロコさんの三人だけですけどね。
「それでは明日明後日はお休みにして、明々後日からはとうとう七十一階層ですね」
そうして、六十七日目の探索はつつがなく終了しました。
ちなみにその日の夜は、メラミちゃんとキャベ子さんとフェアちゃんの三人が僕の部屋に突撃してきました。
三人が変わる変わる僕の体のアチコチをぺたぺたさわさわすりすりくんくんぺろぺろくんくんちゅーちゅーごっくんしてくるので、僕一人ヘトヘトになってしまい、次の日は終日ベッドでぐだっとしました。
そしてその次の日はイェルン姉さんとミーシャ姉さんを誘って一緒にスイーツを食べにいきました。
デラックスジャンボパフェが美味しかったです。
次に来るときはスーパーエクセレントプリンを頼もうかと思います。
◇◇◇
攻略開始から七十日目。
ダンジョンゲート前で集まった皆さんに、僕はかねてより作成していた灼熱獣のコートを手渡していきます。
ふふふ、この日のために皆さん一人一人の体型に合わせたコートを作ってきたのです。
さぁ、どうぞどうぞ。
「わぁー、ほんとにピッタリですぅ……。……なんで?」
「ピッタリすぎて、ちょっと怖い……」
首を傾げるニニノちゃん。
ちょっとビビっているシャラちゃん。
「さっすがナナシ君! 良いものくれるね!」
ウキウキで着て、クルリと回ってみせるカイカちゃん。
反応は人それぞれですね。
しっかりじっくり見つめてスリーサイズとボディラインを見極めた甲斐がありました。
「弟の! 弟の手作り……! あ、暖かいぞ……!! うおぉぉぉ……っ!!」
と、感動のあまり号泣しているソウ兄ちゃんはさておき。
「それではこれよりサムサムエリアに突撃です」
七十階層のクリスタル部屋に行き、階段を下って七十一階層へ。
冬真っ只中の地上よりもはるかに寒い空間ですが、灼熱獣のコートのおかげもあり、数分で凍死してしまう危険はなさそうです。
いつものように僕がエアコプターを作り、その周りをソウ兄ちゃんの水膜(今回は暖かいお湯です)が覆い、ついでにフェアちゃんが「寒すぎてヤだね。えいっ」と言って空間の寒さを軽減させます。
「超極寒を極寒にしたよ。もう一回やれば寒だけにもできるけど」
いや、コート着てエアコプター内にいれば大丈夫だと思います。
フェアちゃんは、出てきたエネミーの看破を重点的にお願いします。
「はーい」
そうしてこの日は七十四階層の入口まで来てリターンチケットで帰還し、翌日は休養日にしました。
「このコート、とっても暖かいね。……その、サイズピッタリなのはちょっと怖かったけど、こんな良いものをくれて、ありがとうね」
と、帰り際に天秤会のシュラちゃんにはにかみながらお礼を言われました。
いえいえそんな、お役に立てたようでなによりです。
「お礼に今度、ニニノちゃんと一緒にクッキー焼いてくるね! 楽しみにしてて」
ほんとですか。
わーい、やったあ。
七十二日目は七十七階層の入口まで進み、一日挟んで七十四日目に七十九階層の入口まで到達しました。
七十九階層にもなると、凄まじい猛吹雪の中を自由自在に飛び回る大きな鳥型のエネミーが現れ始めました。
真名看破したところ氷獄鳥というらしく、灼熱獣に近いポテンシャルを持っているようでしたので、とにかく全力の圧縮結界ですり潰していきます。
氷獄鳥の魔石と氷獄鳥の風切羽が大量にドロップしたので、この羽はまた何か作るのに使おうかと思います。
あ、そうだ。
どうせなら灼熱獣の革套の襟元に、ファーみたいに並べて付けましょうか。
なんか襟元フサフサのほうが偉い人のマントっぽいですし。
あとこの風切羽、なんか冷気を纏っている感じがあるので、熱気を纏っている灼熱獣の毛皮で作ったマントに付ければ、暑さと寒さの両方に対応できるようになるのではないでしょうか。
うん、良さげですね。
明日やってみましょう。
ということで、七十五日目は灼熱獣の外套を改造していたら一日が終わりました。
ちなみにこの日の夜はまたメラミちゃんとキャベ子さんとフェアちゃんの三人が部屋にやってきましたが、次の日に探索があるので夜更かしは少しだけにしました。
「すんすん、すんすん……。ぺろっ、ぺろぺろ……。んふふ、だんだんこの匂いと味に慣れてきたかも♫」
攻略開始から七十六日目に、八十階層のフロアボス部屋に辿り着きました。
八十階層のフロアボス部屋にいたのは、真っ黒な球体でした。