第127話・業銘逆転(リバーススキル)
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攻略開始五十三日目から五十五日目までの泊まり込みで、五十一階層から五十五階層までを探索しました。
中二日挟んで五十八日目から六十日目までの泊まり込みで、五十六階層から五十九階層までを探索しました。
さらに中二日挟んで六十三日目と六十四日目に、できる限り粘って五十九階層でゴーレム狩りを続け、
六十四日目の夕方ごろに、六十階層のゴリラゴーレム(真名看破したところ、正式名称はグレイテスト・ガンガン・ゴリラ・ゴーレム・コスモスチールエディション。つまり、略してG4Cと判明しました)を倒し、リトライクリスタルにタッチしてから地上に帰還しました。
今回の一連の探索での主な戦利品としては、
天上鋼のインゴット一つ、
オリハルコンのインゴット一つ、
アダマンタイトのインゴット三つ、
ミスリルのインゴット八つ、
その他金属のインゴット多数、
魔石は山盛りたくさん、
となります。
なお、今回のMVPは。
「それにしても、あのゴリラをまさかフェア子が倒しちまうとはなぁ」
そうなんですよ。
なんとフェアちゃん、あの長い四本腕と魔導砲を連打してくるゴリラゴーレムを、一撃で倒しちゃったんですよね。
「いやぁ、私もまさかできるとは思わなかったんだけどねぇ」
と言うフェアちゃんですが、嬉しさを隠しきれずに照れ笑いを浮かべています。
「うっ、うっ、殿下……」
その後ろでは、フラーさんが喜びのあまり感極まってボロ泣きしていて、ロコさんが肩を貸しています。
そのロコさんも、目尻に涙が浮かんでいますので、よほどフェアちゃんの活躍が嬉しかったのでしょう。
「つーかあれ、いったい何をどうしたんだよ?」
メラミちゃんの問いに、フェアちゃんが答えました。
「情報を読み込めるなら、逆に書き込むこともできないかなって思ったんだー♫」
「書き込む?」
「そ♪ 私のスキルって相手の情報を読み取るものなんだけど、スキルを逆に使ったら、こちらから相手に情報を書き込めないだろうかってね。それで、試してみたらできちゃって、ゴーレムの文字列の左端の一文字を削除することができたの」
「???」
そこからのフェアちゃんの説明を聞くに。
どうやらフェアちゃん、真名看破術というスキルを使いまくった結果(おそらく発動回数は十万回を超えています)、スキルに魔力を通したときに、スキル内を流れる魔力の向きに一定の方向があることを理解したようで、
それならその通常流れる方向と反対向きになるように意識しながら魔力を流したらどうなるんだろうと考えて実践した結果、
情報文の完全表示に成功した対象に限り、書き込みに挑戦することができそうだと判明したようです。
これの何がすごいかと言いますと。
スキルって本来、スキルごとに発揮できる効果が決まっていて、
それを解釈だとか運用によってある程度までは拡張することはできても、全く違う効果を発揮するということはできないわけです。
例えば、剣術というスキルの効果は剣の扱いが上手くなるというもので、槍や斧の扱いにもある程度は活用できますが、
剣術のスキルでは炎の魔術を使うことはできませんし、当然、時空間跳躍をすることもできません。
あるいは、水魔術というスキルなら水を出したり操ったりできますし、氷魔術のように氷を出すこともできなくはありません(出した水を冷却して凍らせると氷になるわけですので)が、
水魔術のスキルでは収納空間を作り出して物を収納することはできませんし、格闘遊戯術のようにコンボを繋ぐことはできません。
僕の結界術ですら、色々なことをやっているように見えますけど。
実態としては元々包括的にデフォルトで備わっている能力の応用と組み合わせでやれることを増やしているだけなのです。
なので、
確定で名前が分かる。
ごくたまに、ついでにもう少し詳しい情報も読み取れる。
というスキル効果の真名看破術で、
場合によっては、相手を確殺できる。
という使い方を編み出したフェアちゃんは、だいぶすごいと思うのですよ。
それにこれって。
「フェアちゃんは、蒼だけじゃなくて赫も使えるようになったということですよね……。というかつまり、この世界でも術式の反転みたいなことができると……」
これは本当に画期的なことだと思います。
なにせ、スキルに魔力を逆向きに流すという発想は、言い換えれば僕でも使える技術だと言えるからです。
業銘結界が、結界術の真髄であるとすれば。
魔力逆流による業銘逆転は、スキルそのものの奥義と言えるのではないでしょうか。
うん。良いですね。
今度ちょっと練習してみましょう。
結界術を逆転させた場合、いったいどんな効果が現れるのか、今から楽しみです。
「つまりね、例えば書き込み判定に成功した相手に『滅』の一文字を書き込めたなら、書き込まれた相手はその瞬間に滅び去っていくことになると思うの。……まぁ、もっとも、今の私だとまだ文字を書き足すんじゃなくて、削除することしかできなさそうだけどねー」
「……つまり。ゴーレム相手なら、決まれば勝てるってことか?」
「そゆこと♪」
「ふーむ……」
メラミちゃんが唸ります。
あっ、あの表情は。
悔しい気持ちの時のお顔ですね。
「ナナシやキャベ子ならいざしらず、フェア子まで単独撃破可能になるとは……。アタシはまだやったことないのに……」
ああ、そうか。
今までにゴリラゴーレムにトドメを刺したことがあるのって、僕かキャベ子さんだけだったんですよね。
メラミちゃんも戦闘に加わってくれたりはするんですけど、メラミちゃん単独の火力でゴリラゴーレムを倒し切ることはできていません。
なので、初めて六十階層に来たフェアちゃんに、単騎火力討伐で先を越されたのが悔しいようです。
「……なにかないか。アタシのスキルで火力を上げる方法。コンボを繋ぐとかの小技じゃなくて、一撃の威力を純粋に高めるには……」
そうして、思索にふけるメラミちゃん。
魔石をポリポリしているキャベ子さん。
今日はメイド一同でご馳走を作ります、と張り切るフラーさん。
フェアちゃんの成果を超特急で皇室に伝えに行く算段をしているロコさん。
こそっと僕に「今日は私も活躍したから、夜中お部屋に行ってもいい?」と耳打ちしてくるフェアちゃん。
そんなこんなとワイワイしながら、僕たちは暖かいお家に帰ったのでした。