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第013話・決意も新たに


 夕暮れが近づいてきたので拠点に戻りました。


 最近は、また少しずつ日が長くなって暑さが増してきている気がします。


 この森自体は亜熱帯性というか、常に蒸し蒸ししてて気温が高いのですが、それでもある程度の季節の移り変わりは感じられます。


 少し寒いな、という冬らしき気候が終わりを告げて、現在は短い春もあっという間に終わりそうなぐらいです。


 この後は、めちゃくちゃ雨の多い時期があってから馬鹿みたいに暑い日々に移っていくことでしょう。


 この森での生活も丸三年以上になってきたので、そのあたりのこともだいぶ分かってきました。


 さてさて、たくさんの森の恵みを採って拠点に帰ってきたところ、ちょうどお嬢様も家から出てきたところでした。


 お嬢様の足取りは寝る前よりしっかりしています。


 けど表情は、なんだか優れません。

 どうしたのでしょうか?

 不定愁訴?


 お嬢様のそばまで近寄って、おたずねしてみます。


「ねぇ、貴女。一応確認しておくけど、私が張った回復結界の上からもう一枚結界を張ってたでしょ?」


「はい、お嬢様の張った結界を真似して張りました。……もしかして、それが原因で何か良くないことが?」


 そうだとすればたいへんです。


 見よう見まねの生兵法でお嬢様の体調回復を邪魔したとあっては、このナナシ、腹を切って詫びねばならないかもしれません。


「いえ、想定以上に早く怪我が治ってすっかり良くなったわ。なんなら今までにないほど身体が軽いぐらいなんだけど」


「ほんとですか!」


 おお! どうやら完治したみたいです!

 良くなって良かったあ。


「目が覚めたときにあまりにも身体の調子が良すぎて何事かと思ったけど、結界が二枚あるのを見て察したわ。貴女、普通の結界術の使い方もちゃんとできるようね。褒めてあげるわ」


 わーい。お嬢様からお褒めの言葉をいただきました。


 えへへ、嬉しいなぁ。


「お役に立てて光栄です。ですが、それもお嬢様の用意してくれた見本があったからこそです。本当にありがとうございます」


 僕がペコリと頭を下げると、お嬢様は困ったように眉を寄せます。


「早く治してもらった私がお礼を言われるのも、何か違う気がするわね……」


「そうですか? けど、お気になさらないでください。これは僕の気持ちの問題ですので」


 それから僕は、治ったとはいえまだ病み上がり状態のお嬢様のために丹精込めて晩ご飯を作りました。


 メインは、昼間に獲れたプテラ君のお肉と、温めるととろけてミルクのようになる果実と、シャキシャキとした歯応えの山菜と、麦粒みたいな木の実をまとめてコトコト煮込んだ、シチューリゾット風スープ。


 砕いたクルミみたいな木の実とすりおろした山芋みたいな地下茎を混ぜ合わせて味付けし、お好み焼きみたいに伸ばして焼いた、とろろ餅。


 セロリみたいな山菜とりんごみたいな果実を細切りにして和えた、セロリンゴサラダ。


 アボカドみたいな果実を半分に切って種を取り、空いた窪みに鶏卵みたいな果実の核の部分(卵の黄身みたいな部分です)を乗せて、甘い木の皮と塩味のある木の根を煮詰めて作った特製タレをかけた、ユッケ風アボカド。


 デザートにはオレンジやグレープフルーツに似た柑橘系の果実の盛り合わせです。

 甘酸っぱくてフルーティーなので、食後に食べるとお口がサッパリするのです。


 調理が終わり、夕方の礼拝を済ませてお供えをした僕は、お嬢様のために作った料理をテーブルに並べていきます。


「こんなにたくさん……。しかも、……ゴクリ。美味しそう」


「お口に合えばよろしいのですが。どうぞ、召し上がってください」


「ええ、いただくわ。……ちょっと、貴女も早く座りなさいな。ほら」


 お嬢様の斜め後ろで控えて給仕をしようと思っていた僕に、お嬢様はそう言ってくれました。


「また同席する栄誉を賜ってもよろしいのですか?」


「いいわ。貴女にはいずれ従者としての立ち振る舞いを叩き込んであげるけど、それはそれとして一人でご飯を食べても美味しくないでしょう? これから先は、私が特別何かを言わないときは、私と一緒にご飯を食べなさい。いいわね?」


 お嬢様がそう仰るのであれば、喜んで!


 僕はいそいそと椅子を出し、僕の分のご飯もよそってからお嬢様の対面に座りました。


「大地の恵みに感謝を。いただきます」


「女神様のお慈悲に感謝を。お嬢様のお慈悲に感謝を。いただきます」


「……私に感謝するのは、何か違うんじゃない?」


 そんなことを言ってから、二人でぱくぱくとご飯を食べます。


 うん、今回のご飯も美味しく作れました。

 お嬢様も、美味しそうに食べてくれています。


 特にお嬢様はユッケ風アボカドが気に入ったご様子でしたので、いくつか追加で作ってさしあげました。


 美味しいものは、お腹いっぱい食べないといけませんからね。


「こういう食べ方もありますけど、いかがですか?」


 僕は、アボカドみたいな果実の皮を取ってスライスしたものに、塩味の強い種子の絞り汁(お醤油みたいな味がします)とワサビみたいな植物のすりおろしを添えて出しました。


「か、からい……!? けど、すごく美味しいわ! 毎日でも食べたいぐらい!」


 こちらも好評ですね。よかった。


 とはいえ、こんなカロリーの塊みたいな果実を毎日食べるのはちょっとよろしくないかと。


 いくらお嬢様のお身体が成長期であっても、過剰なカロリー摂取はノットヘルシーですから。


 それに、太っちゃいますよ?


「そう……。それなら、たまにでもいいわ……」


 お嬢様は、少しだけ悲しそうな顔で空になったお皿を見つめました。


 そしてすぐに何かを閃いた顔になりました。


「そうだ。食べた分は使えばいいのよ!」


 おお、真理です。

 ダイエッターの誰もが目を背けることでお馴染みの。


「ナナシさん、明日は私も食糧調達に連れていきなさい! 私の実力を見せてあげるわ!」


 そう言ったお嬢様は、どこからともなく長い木の棒を取り出しました。


 長さは二メートルぐらいで、太さは二センチぐらいでしょうか。


 真っ直ぐな円柱形の棒で、両端には赤い色が塗られています。


「お嬢様、その棒はどこから出したのですか?」


 明らかにお嬢様の背丈より長い棒が突然出てきました。


 僕が気づいていなかっただけで、実はこの世界ってギャグ漫画の世界か何かなのでしょうか?


「私の習得しているスキルに収納術というスキルがあって、別の空間に物をしまっておけるの。そこから出したのよ」


 へぇー!

 そんなスキルもあるんですね。便利!


「そして私は槍術や杖術や棍術のスキルも持っているわ。この棒ならスキルの複合使用も可能ってわけ」


「お嬢様って、いろんなスキルを持ってるんですね! すごいです! さすがです!」


「まあね!」


「僕は結界術しかスキルを持っていないんですが、普通の人ってお嬢様みたいにいくつもスキルを持っているんですか?」


「うーん。人によるわね。先天スキル一つしか持っていない人もいるだろうし、汎用スキルを後天的にいくつか習得している人もいるし、まちまちよ」


 ほうほう。と、いうことは、僕も新しいスキルをゲットできるかもしれないのですか。


 それなら僕、前世のインターネットに接続できるスキルが欲しいです!


 そうすれば、お料理のレシピをもっと増やせると思いますし。


「いや、貴女の場合は……。うーん、なんというか、非常に難しいと思うわ。詳しい理屈はまた今度説明するけど、貴女にはその結界術があるから」


 そうですか……。残念です。


 けど、それならそれで仕方ありません。


 僕には女神様からいただいた超・結界術(極)がありますし、今後お嬢様からも結界術の基礎を教えていただけるのですから。


 僕は結界術を極めて、極めて極めて極めようと思います。



 誰にも負けない無敵の結界術士。



 うん、次の目標が見えましたね。


 女神様への信仰心を現しながら、お嬢様の忠実な僕として働きながら、僕は結界術士界の頂点を目指します。


 よぉーし、がんばるぞぉー!


 決意も新たにしたところで、今日のところは早めに休もうという話になりました。


 家に元々あるベッドはそのままお嬢様に使ってもらうことにして、僕は部屋の隅に新しいベッドを作成し、そこで眠りにつくことにしました。


 そういえばお嬢様って、僕のことは全然男として見ていないんでしょうかね?


 仮にも同じ部屋で男女が一緒に寝るのって、色々よろしくない気もするんですけど。


 僕は前科(無断足舐め罪)があるわけですし。


 あるいは、今日の今日で再び不埒な行いをすればどうなるか、考えなさいと。


 きちんと従者として自制心を持って私に仕えなさい、というお嬢様からの無言のメッセージなのかもしれません。


 いや、きっとそうなのでしょう。


 僕には分かりますよ、お嬢様の思いが。


 そうであればこのナナシ、きちんと我慢してみせますとも。


 同じお部屋で素敵なお足の女の子が寝ているという事実に少しだけ悶々とした後、僕は気持ちを切り替えて、すやすやと眠りについたのでした。


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