第123話・どんどん調子が出てきましたよ!
フェアちゃんのお部屋に来てみると、ニコニコ笑顔でお出迎えされました。
どうしたのですかフェアちゃん。
なんだかとても嬉しそうですが。
「えへへ。実はね、皇帝陛下としっかりお話をしてきたんだけど、ちょっと希望が見えてきたかもしれないの」
ほほう。そうなのですか?
「うん。詳しくはまだ言えないし、もちろんこれからも、やらなきゃいけないことはたくさんあるんだろうけどね! それでも、……えへへ、」
はにかむフェアちゃんに、ロコさんとフラーさんも涙ぐんで頷いています。
よく分かりませんが、良い方向に話が進んでいくなら、それに越したことはありませんね。
「それでね、ナナシ。せっかくだから色々新しいスキルを取得してきたんだ♪」
ほほう、そうなのですね。
「うん。探知術を覚えたし、鑑定術も覚えた。それに転写術と複写術、それから収納術も覚えたよ。これでダンジョン大辞典をより厚くできるね♫」
ふむ、良いですね。
探知術や鑑定術は真名看破術とはまた違った情報を得られるスキルですし。
転写術は、記憶や記録を転写するスキル。
複写術は、文字や画像を複写するスキル。
どちらもフェアちゃんの真名看破術で判明したことを広めるために活用できます。
「あと、最上高等教育学校の教授に聞いてきたけど、ナナシの目論見もなんとかなりそうだよ」
おお、それは朗報ですね。
いえ、実は。
僕がゲヘナダンジョンを攻略してしまったとして、どうにかダンジョンを消滅させずに残しておくことができないかと考えていた(というか、消滅させたらダンジョン大辞典も意味がなくなりますし)ところでして。
第一案としては、おそらく最深層にいるはずのダンジョンデーモンをボコボコにして、ダンジョンの支配権を奪い取れないか試す、
第二案としては、ダンジョン内の全ての空間を僕の侵蝕結界で包み切って実効支配できないか試す、
というところだったんですけど。
どうでしたか?
「うん。ダンジョンデーモンは悪魔だから契約で縛れるんじゃないだろうか、というのが教授の見解だった。もしくは、ギリギリまで追い詰めてスキルオーブだけ出させて、デーモンは仕留めないとか」
ああ、なるほど。
時空間転移系のスキルさえ取得できるなら、ダンジョンデーモンを倒す必要はないのですね。
いえまぁ、前に会ったことのあるデーモンは、人類の敵です感バリバリでしたので倒す一択でしたけど。
ここのダンジョンって、帝国建国当初からずっとここにあるみたいで、その間に何度もダンジョンからエネミーが出てきたことはあるらしいんですが、どれも本気の侵略っぽくはなかった(つまり、脅威度が低めである)というところと、
冒険者証の作成運用技術とか、標準通貨とか、ダンジョン内で獲得できるドロップ品とか、人類側に利するものが多い(つまり、利益が大きい)というところで、
ワンチャン、人類に比較的有効か、それほど敵対的でない可能性があるわけでして、
仲良くできる、とまでは言いませんが、殺し合いをせずにお互いを放置しても問題ない、ぐらいの関係が築けるかもしれないわけです。
まぁ、どうしてもダメだったら仕方がないので捻り潰してダンジョンを消滅させ、もらったスキルオーブで時空間転移系のスキルをゲットするまでですが。
その時は、また何かフェアネス殿下の功績にできそうなことを見繕いましょうか。
そんなこんなの報告を聞いたあと、僕は自室に戻ろうとしたのですが。
「えっ。数日ぶりにナナシに会ったんだし、色々良いこと聞いてきたんだから、ちゃんと労ってよ」
とのことで、なぜか僕はフェアちゃんのベッドのフチに腰掛けさせられました。
そして、僕の体を背後から包むようにしてフェアちゃんが抱きついてきて、後ろに引き倒されました。
フェアちゃんの細くとも柔らかい身体に抱き締められて(ついでに両足も巻きついてきていて)身動きが取れない状態で、
「はぁぁ……。ナナシの匂いがする……。スンスン……、スンスン……。ふぅ、落ち着くなぁ……。クンクンクンクン……」
と、僕の後頭部やうなじに顔を埋めたままひとしきり僕の匂いを堪能したらしいフェアちゃんは、
「はぁ〜〜、満足。それじゃあナナシ、また明日ね〜♪」
と、そのままベッドに大の字になって、僕を解放しました。
僕は、無言でフラーさんを見つめます。
「……ナナシ様」
フラーさんは静かに首を振りました。
今度は無言でロコさんを見つめます。
「……ナナシ殿」
ロコさんは静かに首を振りました。
ええい、フェアちゃんに甘い大人たちですね!
「……フェアちゃん。僕の頭の匂いは、そんなに良いですか?」
「え? うん。落ち着くというか、穏やかな気持ちになれるというか……。心が満たされる感じがする」
一応言っておきますけど。
僕以外の、僕ぐらいの歳の男の子に無理やりそういうことをするのは、良くないですからね。
「えー? いやいや、ナナシ以外にこんなことしないよ。誰でもいいわけじゃなくて、ナナシのだから良いんじゃない♪」
……そうですか。
それならまぁ、良いですけど。
そうして、なんだか疲れた僕は、自室に戻ってそのままお布団に入って早めに眠りについたのでした。
すやぁ……。
◇◇◇
それから十日後。
ゲヘナダンジョン攻略開始から五十一日目。
僕たちは現在、四十九階層の下り階段前の大部屋で本日の宿泊準備をしています。
すでに巨大結界(今回は二重にしてます)と結界テント(六人分です)は作成済みで、今は大鍋でカレーを煮込んでいる(フラーさんに頼んでスパイスを買い揃えてもらいました)ところです。
うん。良い香りになってきました。
残念ながら帝国にはお米が無いのですが、かわりにナンを焼いてきていますのでそちらで食べます。
それと今回はなんと、フラーさんによって持ち込まれた大量の水を使って、お風呂も用意しました!
とはいっても、じゃぶじゃぶ使えるほどではなく、一人用のバスタブに結界鍋で温めたお湯を入れただけですが。
それでも、身体をサッパリさせてから寝ることができるので、今日のここまでの疲れをしっかり取ることができるでしょう。
当然、バスタブの周りは結界壁で囲って浴室にしていますし、その手前に脱衣所も作っています。
結界タオルもたくさん作成して置いていますので、好きに使ってもらって大丈夫ですよ。
「それじゃあ一番風呂は、」
フェアちゃんからどうぞ、と言おうとしたところに、フェアちゃんの声がかぶさります。
「ナナシから入りなよ。毎回一番頑張ってるんだし、一番歳下なんだからさ」
と、言われ、皆さんを見回してみても揃って同意されてしまったので、
しかたなく僕からお風呂につかることに。
ふぅ……、気持ちが良いですけど、ほんとにいいんでしょうか。
まぁ、お湯を無駄遣いしないようにして、早めに出ちゃいましょう。
皆さんがお風呂をしてから晩ご飯ですし、あまり遅くなるとキャベ子さんが腹ペコの限界になりますし。
とか、思っていると。
「湯加減どうー?」
と、全裸に結界バスタオルを巻いたフェアちゃんが、普通に浴室に入ってきました。