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第122話・徐々に本領を発揮し始めるフェアちゃん


 その日の夜。


「そういえば。私は二位で、ナナシはビリから二番目だったわけだから、ナナシも私のお願いをちょっと聞くのがスジじゃない??」


 という、フェアちゃんのゴリ押し強権発動により、僕は寝る前に十五分間ほどフェアちゃんに髪の毛の匂いをクンクン嗅がれてから結界テントに入りました。


 フェアちゃん、もしかしなくても匂いフェチなんでしょうか。


 まぁ、お足を舐めるのが好きな僕が、どうこう言うのもおこがましいのですけど。


 そして皆が寝静まったころの深夜。


 こそっと僕のテントに入ってきたメラミちゃんと少しだけ夜更かしをした(お互いのお足をペロペロし合いました。美味しい)のですが、


「……クッソ。コレやっぱ苦ぇな……」


 最後にそれだけ言い残してメラミちゃんは自分のテントに帰っていきました。


 ……そんなに苦いなら、ソレは全部飲まなくても良いですのに。




 ◇◇◇


 翌朝。

 攻略開始から三十八日目です。


 この日は午前中のうちに第十階層のフロアボス(キングゴブリンとかいう名前みたいですね)のスキルを看破(一時間ほどかかりました)し終わり、プチッと潰して地上に戻りました。


 すると。


「ちょっと一回、帝都に帰ってくるね!」


 と、フェアちゃんが言うので、この日と次の日とその次の日は休養日になりました。


 ロコさん含む護衛四人とフラーさんプラスメイドさん二人を連れて鉄道に乗ったフェアちゃんを見送り、僕はお家に戻って自室にこもります。


 カリカリカリカリと天上鋼から王冠を削り出していき、その日の深夜にとうとう削り出しが終わりました。


 今回作った王冠には、幾何学模様をいくつか重ねた細線図を下地にして、あやめの花をモチーフにしたデザインを乗せています。


 あやめの花はアイリスの一種ですし(お嬢様のフルファーストネームは、アイリスハローチェです)、あやめには「純粋」とか「希望」とか、そういう良い感じの花言葉があったはずですので、


 まさしく、お嬢様にぴったりのデザインであると思います。


 うん、我ながら良い出来です。


 あとは装飾として、何か取り付けたいところですが、


「あ、そうだ」


 そういえば、火の化身が落とした赤い宝石って、けっこう綺麗でしたね。


 ちょっとはめ込み部分を彫ってみましょうか。


 しかし、僕の手持ち分の赤い宝石を確認してみましたが、僕が持ってるやつはあんまり大きくないやつばかりですね。


 せっかくなら大きくて形の綺麗なやつをつけたいところですが。


「うーん……」


 と、悩んでいると、キャベ子さんが僕の部屋に入ってきました。


「ナナシ、今日は、……ん。すまない、まだ作業中だったか」


 いえ、ちょうど一区切りついたところです。


 ……あ、そうだ。


「キャベ子さん、明日って予定はありますか?」




 次の日。

 攻略開始から三十九日目。


 僕は朝からゲヘナダンジョンのゲート前にやってきました。


「それではお二人とも、よろしくお願いします」


 一緒にいるのは、キャベ子さんとユニ子ちゃんです。


「ん。大船に乗ったつもりでいてくれ」


「今日は一段と寒いらしいから、ちょうど良かった」


 キャベ子さんは戦闘要員。

 ユニ子ちゃんは寒さを嫌ってアチアチ空間に行きたいとのことだったので、ついでに連れてきました。


「レッツ、ゴー!」


 六十階層のリトライクリスタルから出発し、ごとごとと下の階層へ向かいます。


 今日はソウ兄ちゃんがいなくてエアコプターを囲む水膜がなく、その分冷却機能に力を込めていますので、速度が少し遅めの飛行になりますが、


 急ぐ必要もないので、夕方ぐらいに七十階層につけるように調整しながら進んでいき、


「多重高速結界作成」


 火の化身を圧滅してやります。

 ドロップした赤い宝石を見比べてみて……、


「……うん。これが一番良いやつですね」


 大きさ、綺麗さ、形の良さ。

 総合的に一番良いと思えた一つを、王冠に付ける用の候補に選びました。


 そしてキャベ子さんとユニ子ちゃんにも赤い宝石を一つずつ選んでもらい、残った魔石と二粒の宝石は、僕の分ということになりました。


「そういえば、ナナシのために曲を作ったんだった」


 と言ったユニ子ちゃんが、自身の収納空間からオカリナを取り出し演奏の準備を始めましたので、


 僕とキャベ子さんは、七十階層のリトライクリスタルの前でしばらくユニ子ちゃんの美しい演奏を楽しんだのでした。


 ただ、曲名を聞いたら「ピンク頭の英雄伝説その八」だったので、そこだけちょっとなんとかならないかな、って思いました。




 さらに次の日(四十日目)も、再び火の化身を倒しに行きました。


 この日はキャベ子さんと一緒にロビンちゃんがついてきてくれました。


「次に書こうと思っているのが『太陽を討ち墜とせ!』という戯曲になりますから、もう一度、あの光景を目に焼き付けておきたくて」


 と、ロビンちゃんは目を輝かせて言いました。


「それに、最近ナナシさん、あちこちパタパタ動き回っていてなかなか落ち着いてお話を聞くタイミングがありませんから。今日はナナシさんのお話もたくさん聞きたいです」


 それについては、まことに申し訳なく思います。


 フェアちゃん応援活動をしている関係で、勇猛楽団の皆さんとは顔を合わせる時間が減ってしまっていますものね。


「いえいえ! 私たちは、というか私は、ナナシさんの活躍を全て記録して後世に伝えたいと思っているだけですので! 何をやろうと、私はそれを歌や詩にしていくだけです! それよりもナナシさんのほうが、……その、……いいのですか?」


 ? なにがですか?


「いえその、あれだけゲヘナダンジョンの完全攻略を急いでいたのに。今、フェアネス殿下のために時間を割いて、ダンジョンを攻略し直しているのはどうしてなんだろう、と思いまして」


 ああ、まぁ、そうですね。


 お嬢様の元に早急に帰らなくては、という気持ちは今も変わりませんが。


「イェルン姉さんにも言いましたが、僕はお嬢様たちのことと同じぐらい、皆さんのことも大切に思っています。今までは『皆さん』の括りの中にフェアネス殿下が入っていなかったんですけど」


 僕はエアコプターの操作のために前を向いたまま、話を続けます。


「とうとうフェアちゃんたちのことも放っておけなくなってしまいました。だから、これは僕のために必要なことなのです」


 殿下が犬殿下になるのをみすみす見過ごすのも、寝覚めが悪いですからね。


「それに、たぶんお嬢様がこの場にいたら、フェアちゃんたちのことも『ナナシさん、なんとかしてあげなさい!』って言うと思いますので。お嬢様たちのところに戻ったときにお嬢様に顔負けできないような、不義理な行いはしたくないのですよ」


「そうですか……」


 そうなんですよ。


「ナナシほどの男にそれほど敬われているんだ。ナナシのお嬢様は、さぞ慈悲深い人格者なんだろうな」


 キャベ子さんが噛み締めるように呟きました。


 そうですね。

 お嬢様はとても立派な御方なのです。


「そうか。それは、良いことだ」


 キャベ子さんは、嬉しそうに言いました。


 その後、ロビンちゃんから色々と話を聞かれながらダンジョン内を進み、火の化身を圧滅してから魔石と赤い宝石を回収しました。


 僕は、火の化身から出てきた魔石を超過剰蓄魔石状態にしてキャベ子さんに渡し(奥の手用の魔石、というやつです)、赤い宝石の中で総合的に一番良いと思えた一つを、王冠に付ける用の候補に選びました。


 ロビンちゃんはしきりに恐縮していましたが、一緒に潜ってくれたわけなのでロビンちゃんにも赤い宝石を一つ渡し、僕たちはダンジョンから帰還しました。




 その日の夜。


「ただいま! あ、ナナシ、この後ちょっと部屋に来てよ!」


 と、お元気な様子で帝都から帰ってきたフェアちゃんに、お部屋にお呼ばれをしたのでした。



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