第121話・トランプで勝負しましょう
翌日。
攻略開始から三十七日目。
今日も皆でダンジョンに潜ります。
「じゃあ、今日はまた第一階層から行きましょう」
そうして皆で平原に降り立ちます。
「今日はどうするの?」
「昨日と一昨日は、エネミーたちの情報を集めました。今日からは、エネミーたちのスキルの情報を集めてみましょう」
スキルの情報?
と、フェアちゃんが首を傾げました。
「フェアちゃんの真名看破術って、ものの名前が分かるんですよね。それって、物理的に存在するものだけなのですか?」
「いや、違うと思う。現に私は、自分の真名看破術に対して真名看破術を使えたし、……あー、そういうこと?」
「はい。このダンジョンのエネミーたちの中にはスキルを使っているタイプのやつがいますので、それも図鑑に載せたいなって思います」
魔力の流れを見ていると。
単に身体強化しているだけの個体と、明らかにスキルを使っている個体が混在しているのが分かります。
たとえば棍術を持っていると思わしき緑色の小鬼は、普通の小鬼より明らかに棍棒の取り扱いが上手ですし。
体術を持っているであろう小鬼は、そうでない小鬼よりも体捌きが巧みです。
他にも、ツノ付きウサギの中には明らかにツノでの突撃が巧みなやつがいました(跳躍術か、刺突術を持っていると推測できます)し。
イタチみたいなやつはごくたまに風の刃みたいなもの(風魔術、というやつでしょうか)を飛ばしてきました。
なので、どのエネミーがどのスキルを持っている可能性があるか分かっていれば、不慮の事故を防ぐ手助けになると思うのです。
「たぶんフェアちゃんの真名看破術って、そこにあるものと理解して、あるいはそこにあるものと信じて使うと、対象を感知して名前を表示してくれるんだと思います」
名前が出てくれば、それはそこに存在するものだということですし、名前さえ分かればそこに対して真名看破術を使い続ければ、情報の表示もできると思います。
「分かったナナシ。やってみるね」
ということで。
僕たちはカベコプターでスイスイ進みながら、手当たり次第に足元のエネミーを捕獲していき、フェアちゃんの真名看破術のエサにします。
もうフェアちゃんも慣れてきたもので、説明文の完全表示に至るまでの時間が少しずつ短縮されてきているようでした。
で、ぼちぼち夕方に差し掛かる時間で、なんだかんだで第九階層の下り階段前まで来ていて、あとは第十階層のフロアボスに会いにいくだけという段階になって、
「ねぇ、今日はお泊まりしないの?」
と、フェアちゃんが言い出しました。
「お泊まり、ですか? ……え、今日もしたいんですか?」
「うん、したい。それで昨日のうちにフラーシフォンに言って、前回と同じぐらいの量の食糧は持ってこさせてるよ」
フラーさんを見ると、コクリと頷きました。
ロコさんもすでに地面に穴(不要物を捨てるためのものです)を掘り始めていました。
ふむ……。
お二人はどうですか?
「いいぜ、別に」
「ご飯があるなら大丈夫だ」
そうですか。
じゃあ、今日もお泊まり会にしましょうか。
「やった! ナナシありがとう!」
あ、ミーシャ姉さんには伝えてありますか?
帰ってこないの知らなかったら、心配させてしまいますが。
「はい。ミーシャ様が冒険者ギルドに出勤される前に、私からお伝えしています」
抜かりなしですねぇ。
それなら拠点を作りましょうか。
僕はその場に大型結界で拠点を作り、各種必要なものを結界で作成していきます。
それと。
「まだ晩ご飯の準備には少し早いので、皆でトランプでもしますか?」
僕は結界製のトランプを作ると、テーブルの上に置きました。
余談ですが、帝国にはチェスもあればリバーシもありますし、少し高級品の扱いですがトランプも普通にあります。
これもどこかの誰かが天人としてやってきた時に、残していった文化なのでしょうかね。
「お、良いもん出すじゃん。スラムで魔性の指先と恐れられたアタシのイカサマテクニック、見せてやんよ」
いや、イカサマはやめてくださいよ。
僕だってやろうと思えばどれが何のカードか分かります(僕の結界なので)けど、そういうことはしないんですから。
「ナナシ。これはどうやって使うんだ?」
おっと、キャベ子さんはやったことないご様子ですね。
それならまずは、簡単なババ抜きからやりましょうか。
僕はキャベ子さんにルールを教え、遠慮しようとするロコさんとフラーさんもテーブルに着かせて皆でババ抜きをしました。
結果、最初の数回だけキャベ子さんが負けましたが、あとは全て僕が一人負けしました。解せぬ。
◇◇◇
そんなこんなで、トランプで遊んでいて。
そろそろご飯の準備をしようかというところで。
「じゃあ最後の一回は、一位だった人が最下位の人になんでも一つお願いできるってのはどう?」
と、フェアちゃんが言ったものだから、たいへんなことになりました。
種目はガーデンカーテン。
トランプ二組を使って遊ぶ、二人から八人までで対戦できる点取りゲームです。
帝国発祥のやつらしく、僕とキャベ子さんはメラミちゃんからルール(マージャンとポーカーとババ抜きが混ざった感じですね)を教えてもらいました。
いやぁ、たいへんでした。
カードを配るメラミちゃんにフェアちゃんが「今なにかイカサマしたでしょ。手元で技名が見えたよ」と言って配り直させたり、
フラーさんのカードを引こうとしたフェアちゃんにメラミちゃんが「お前今、カード名を盗み見ただろ。スキルに魔力が流れてたぞ」と言って引き直しにさせたり、
メラミちゃんが役作りのための伏札をすり替えようとしてロコさんに見破られたり、
ロコさんが山札を一枚引いて場札にするときに、フラーさんとフェアちゃんがテーブルの下でカードをやり取りしようとしてメラミちゃんにバレたり、
そんなこんなが色々あって、最終的に。
「やった! アタシの勝ちだ!!」
と、僅差でメラミちゃんが一位になりました。
二位になって悔しがるフェアちゃん。
慰めるロコさんとフラーさん。
「ところで、ワタシのこれは何点だ?」
と、いまいちルールが理解できず、全く役が作れていないキャベ子さん。
ちなみに僕は、一応ちゃんと役を作っています。
「はぁっ!? それじゃあキャベ子が最下位じゃねーか!!」
「そうなのか?」
そうですね。
ちなみに僕はブービーです。
「なにやってんだよテメーっ!? せっかくナナシに、いつもの仕返しでアレコレさせてやろうと思ってたのに!」
「ふふふ。残念だったね、メラミ」
「クソがっ!!!」
その後、怒ったメラミちゃんが「キャベ子テメー、今日は晩飯抜きな!!」と言ったのですが、
晩ご飯(今日はポトフです)中のキャベ子さんのものすごいお腹の音に耐えかねて「分かったよ悪かったよ、良いからお前も飯食えよ……」となったのでした。