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第119話・初めてのお泊まり会


 ◇◇◇


 僕たちは現在第三階層にきています。


「ふむふむ。ほうほう。……おおー、そうなんだ」


 ギャッギャッギャ、ギャッギャッギャ!


「ふんふん、なるほど。……ほほー、知らなかった」


 ギャッギャッギャ、ギャッギャッギャ!


「そうかそうか、そういうことだったんだね……」


 ギャッギャッギャ、ギャッギャッギャッギャ!!


「……あ、ナナシ。この子も全文表示されるようになったよ」


 分かりましたフェアちゃん。


 僕は、結界に閉じ込めていた緑色の肌の小鬼を捻り潰しました。


 フェアちゃんの前で汚らしい歯をむき出しにして喚いていたのですが、今は小さくて濁っている魔石に成り果てました。


 その後も何度か別の個体を捕獲してはフェアちゃんに真名看破させ、最終的にどの個体に対してでも一発で全文表示がでるようになりました。


 つまり、この緑色の小鬼に対しては確定で真名看破術が通るようになったわけですね。


「それなら次は、あの子を見てみよっか」


 了解です、フェアちゃん。


 僕はフェアちゃんの指差した先にいたツノの生えたウサギを捕獲して、フェアちゃんの前に連れてきました。


 そしてまた、全文表示されるまでひたすらこのツノ付きウサギに真名看破を使っていくのです。


「このウサギは倒すと小さな魔石の他にお肉を落とすこともありますが、それほど美味しくないので、要らなければ捨て置いていいと思います」


「んー、そっか。でも、試しに一回は食べてみたいかも」


 それなら、お肉がドロップしたら焼いてみましょうか。


 どれどれ。


 僕は目の前のウサギを握り潰しましたが、残念ならがお肉はドロップしませんでした。


「残念でしたね」


「うーん。まぁ、仕方ないね」


 などと言いながら何十羽のウサギを真名看破し捻り潰していると、いくつかのお肉をドロップしましたので、これらは今日の晩ご飯に使ってみましょうか。


「なんだかだんだん、コツが掴めてきた気がするな♪」


 それはなによりです。


「なんていうか、どういう風にスキルに魔力を流すと掛かりが良いか分かってきた」


 いいですね。

 この調子でどんどん行きましょう。


「おおーい、フェア子。今度はこれなんかどうだ?」


 と、近くをうろついていたメラミちゃんがイタチみたいなエネミーの首根っこを捕まえて連れてきました。


 こちらに向かってぽいっと放ってきたので、結界でキャッチしてやります。


「さぁ、フェアちゃん。どうぞ」


「うん、ありがとね。メラミ、ナナシ」


 こうしてフェアちゃんは夕暮れの時間が近づくまで、ひたすらスキルを使い続けました。




 ◇◇◇


 夕暮れの時間になり、不思議なことにダンジョンの天井に描かれた青空も夕暮れの茜色に変化しました。


 僕たちは現在第五階層の下り階段の近くにいます。


 今日は、このままダンジョン内で一泊してみるつもりです。


 というのもフェアちゃんが「皆で潜るなら、お泊まりでやってみたいな。それに新人の人たちって、何泊もしたりしながら第十階層を目指すんでしょう?」と言ってきたので、


 ここに入る前に慌ててダンジョン内でお泊まりできる準備をしたことでした。


 すでに僕の結界術により付近一帯を囲む大型結界と、人数分の結界テント(防音機能付き)は作成済みです。


 今は、フラーさんの収納空間から大量の薪や食材を取り出して調理をしているところで、ロコさんとキャベ子さんは一応付近の警戒、メラミちゃんはフェアちゃんとおしゃべり中です。


 僕はフラーさんと一緒にとにかく大量の食材を刻み、結界鍋に入れて煮込んでいきます。


 今日ゲットしたウサギ肉も下処理をしっかりして下味を濃いめにつけて、別の結界フライパンで焼いて焼き目をつけてからお鍋に入れました。


 いつもの如く、シチューを作っています。


 まとめてたくさん作れて温かいものといえば、やはりシチューかカレーになりますからね。


 この国ではあまりカレーに適する香辛料が出回っていないようなのでシチューにしましたが、フェアちゃんがちょっと興味があると言っていたので、今度試しに作ってみたいと思います。


「ナナシー。ご飯はもうすぐできそう?」


 フェアちゃんがやってきて、牛乳とダシ(干した魚を細かく砕いたものと干したキノコを細かく刻んだもののブレンド)をお鍋に入れてかき混ぜている僕の後ろから、お鍋の中をのぞき込みます。


 はい。もう少しで食べられますよ。ほらっ。


「わあっ、良い香りで美味しそう! 楽しみだなー♫」


 ルンルンとした様子です。

 そんなに嬉しそうにされると、こちらも嬉しくなってきますね。


「フェアちゃんは果物とかはお好きですか?」


「うん! 私はちょっと酸っぱめの柑橘類が好き!」


 それなら。

 僕はユズみたいな果物の搾り汁にハチミツを入れてかき混ぜ、結界コップに注ぎます。


「こちらをどうぞ。サッパリして美味しいですよ。ついでにメラミちゃんにも持っていってあげてください」


「ありがとナナシ♪ メラミー、一緒に飲もー」


 そう言ってメラミちゃんが座っているテーブルに戻っていきます。


「フラーさん、パンの準備は……? フラーさん?」


 フェアちゃんを見送ってフラーさんを見ると、フラーさんは信じられないものを見たような目で僕を見ていました。


 おやおや、どうしました?


「……殿下をアゴで、……いえ、なんでもありません」


 そうですか?

 それならいいですけど。


 それより、フェアちゃんが楽しそうにしていることについては、どう思いますか?


「……率直に申し上げるならば」


 はい。


「あのように、本当に屈託なく笑う殿下を目にしたのは、数年ぶりです」


 ふむ。それで?


「……ごく個人的な意見として聞いていただきたいのですが。……皇族然としての笑顔より、よほど素敵だと、私は思います」


 そうですか。

 奇遇ですね。僕もですよ。


 そういうわけなので、しばらくの間はフェアちゃんのことをフェアちゃんとして扱いますね。


 慣れてくださいとも、目をつぶってくださいとも言いません。

 けど、素敵だなと思ったり、良いことだなと思ったことは、自分の中でなかったことにはしないでくださいね。


 さぁ、ご飯を並べましょう。

 皆で揃って美味しい晩ご飯を食べますよ。


「……はい。ナナシ様」




 その夜、六人でテーブルを囲み、皆で美味しくシチューを(キャベ子さんはカサ増しのために魔石と一緒に)食べました。


 それからそれぞれの結界テントに入って、ダンジョン内で一泊したのでした。


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