第118話・図鑑とかトロフィーのコンプリートを目指すように
買い物と準備を済ませてからゲヘナダンジョンのゲート前に来たところ、よく知った二人が僕たちを待ち構えていました。
「お、来たな。おせーぞナナシ」
「待っていた。さぁ、一緒に行こう」
メラミちゃんとキャベ子さんです。
お二人とも、どうしてここに?
「あん? アタシらがいちゃいけねーのかよ?」
「ミーシャが教えてくれたんだ。昼過ぎにはナナシたちがここに来るだろう、と」
ふむ。さすがミーシャ姉さん。
仕事が早いですね。
実はかくかくしかじかで、フェアちゃんを冒険者登録したのですが、ダンジョンに入れるランクに上がったので今から一緒に入るところだったのです。
「フェアネス様が、冒険者ねぇ……」
「どうしてワタシたちを誘わなかったんだ?」
いえ、だって。
これってハッキリ言うとダンジョン攻略とは無関係の僕のワガママですし。
それにダンジョンをまた第一階層から潜り直すのって、けっこう時間がかかるじゃないですか。
前半の階層なら僕一人の力でも進めますし、お二人にはもう少し階層を進めた後で合流してもらおうかなって思ってました。
するとメラミちゃんが「お前もバカだなぁ」と呆れます。
「そもそもアタシたちは、お前がダンジョン攻略したいって言うから一緒に攻略しに来てんだよ。それもお前のワガママみたいなもんだろ。だったらこれも同じように、アタシたちも誘えよ」
……ふむ。
言われてみれば確かにその通りですね。
「ナナシが楽しそうに何かやってるのに、誘われないのは寂しい」
……はい。
「メラミちゃん、キャベ子さん。ごめんなさい。僕はまたちょっと見栄を張ろうとしていたみたいです。お二人も一緒に来てくれるなら百人力ですし、明るく楽しくダンジョン探索できると思います。ここからは僕だけじゃなく結界同盟として、フェアちゃん応援活動を推進していきましょう。よろしくお願いします」
「おう、良いぜ」
「ん。任せてくれ」
ということで、このお二人も一緒に潜ることにします。
フェアちゃんもそこはご了承ください。
「うん、いいよ。それにそっちのほうが楽しそうだし。……あ、それならこうしようよ」
と言ったフェアちゃんの提案に僕は同意し、さらにちょっと買い物と準備をしてから六人でダンジョンゲートを潜りました。
◇◇◇
ゲヘナダンジョン第一階層にやってきました。
一月ぶりぐらいに来ましたが、以前に見たときと変わっていませんね。
広々とした草原、抜けるような青空(実際は、青空に見える高い天井ですが)、遠くにぽつぽつと見える他の冒険者たちや、それに対するダンジョンエネミーたち。
もっとも、一桁階層のエネミーたちは、新人冒険者でも最低限の装備を整えて三人以上で行動すればたいした危険はありません。
向こうはだいたい一匹か二匹で出てくるので、こちらの数的優位が崩れなければそんなに怖くないのです。
まぁ、たまに罠みたいに強い個体が現れて、死者及び重傷者多数みたいな阿鼻叫喚の地獄絵図(ゲヘナダンジョンだけに、ですね)になることもあるらしいですが。
まぁ、僕たちなら目を瞑っていても大丈夫です。
フェアちゃんは一撃でも喰らうとやばいかもしれませんが、そこは皆でカバーしましょう。
幸いにして、ロコさんやフラーさんもこのぐらいの階層なら余裕で戦える程度には強いらしいので、ここではフェアちゃんにたくさん頑張ってもらいましょう。
「フェアちゃん」
「はい。ナナシ」
それではさっそく、スキル強化の特訓を開始します。
僕はフラーさんから紙束とペンを受け取り、それをフェアちゃんに渡しました。
「これからフェアちゃんは、とにかく目につくもの全てに真名看破術を使いまくってください」
魔力の消費量が自己補完の回復量を上回りすぎないラインを見極める必要はありますが、なるべく多くスキルを使い、あらゆるものの真名を看破してください。
というのも、フェアちゃんの真名看破術は基本的にものの名前しか分からないのですが、
たまーに効きが良いとき(良い乱数を引いたとき、とも言えます)は、名前プラス一行か二行の説明文が見えるそうなのです。
説明文は、対象一つにつき何行かあるみたいで、どの行が見えるかはランダムなのですが、同じものに何度も真名看破術を使っているといずれ全ての行を見ることができるわけで、
全ての説明文を読んだものは毎回確定で情報全文を読めるようになるほか、全文情報判明したものの種類が増えると、スキルの練度も上がっていくそうなのです。
なぜこんなことを知っているかといえば、フェアちゃんもスキルを獲得したばかりのころに、真名看破術そのものに真名看破術を使ってみていた時期があるとかで、
それによりこの真名看破術のシステムが分かったのだとか。
そしてそれは、単なる物品に対してよりも、自分より上位の存在に対して看破を仕掛けたときのほうが練度の高まりは良いらしく、
ここのような、周辺にあるもの全てがダンジョンにより生み出されたもの(フェアちゃんよりも遥か格上の存在が作り出したもの、ということです)の中でスキルを使いまくると、
おそらく、普通に身の回りのものにスキルを使うときの何倍も練度の高まりが良くなるはずなのです。
そして。
「フェアちゃんには、このゲヘナダンジョンに出てくる全てのエネミーやギミックを看破し、それらをまとめたダンジョン大辞典を作ってもらいたいです」
「うん。分かった」
真名看破術で判明した事項は、この世界における真実です。
つまりそれは、間違いのない確かな事実ということであり、それをまとめたものは誰もが活用できる知識になるということです。
「もしフェアちゃんが、例えば三十階層までのものであったとしても。そこまでをまとめたゲヘナダンジョン大辞典(上)を編纂して出版し、それがこの町の冒険者たちに行き渡れば。冒険者全体の攻略深度をさらに深めることができると思うのです」
そうすることで、この迷宮都市で産出される魔石の質や量を高めることができ、それはつまり帝国全体の利益に繋がるということになるのです。
そうなればもう誰も、フェアネス殿下のことをお飾りのお姫様だの高貴なお手振り人形だのとして扱うことはないでしょう。
「やりましょう、フェアちゃん。フェアちゃんのことを伝書鳩の送り先兼ハニトラ要員だとでも思っているフシのある皇帝陛下に、フェアちゃんの凄さと活躍っぷりをこれでもかと見せつけてやりましょう!」
僕なんかのことがなくても、フェアネス殿下は帝国に必要不可欠な御方なのだと、それを思い知らせてあげるのです!
「それでは皆さん!」
ダンジョン探索、レッツゴー!