第117話・新人冒険者フェアちゃん爆誕!
◇◇◇
「ごめんなさい二人とも! ダンジョン攻略をちょっとだけ一旦休止します! この埋め合わせは後日必ずするので許してください!!」
「お、おう」
「ん。分かった」
◇◇◇
「ごめんなさい皆さん! ダンジョン攻略をちょっとだけ一旦休止します! この埋め合わせは後日必ずするので許してください!!」
「は、はい。分かりました」
「分かった」
「りょー!」
◇◇◇
「ごめんなさいソウ兄ちゃん! ダンジョン攻略をちょっとだけ一旦休止します! この埋め合わせは後日必ずするので許してください!!」
「もちろん良いとも。だが、また再開するときは必ず呼んでくれ。お兄ちゃんとの約束だぞ」
◇◇◇
というやりとりを朝イチのあちこちでしたあと、僕はフェアちゃん(プラス、ロコさんとフラーさん)を連れて冒険者ギルドにやってきました。
そして今、引きつった表情でミーシャ姉さんが書類を受理し、一枚のカードが出てきました。
フェアちゃんの冒険者証ですね。
これでフェアちゃんも新人冒険者の仲間入りです。
ちなみに、ロコさんとフラーさんはすでに自分のカードを持っていて、ロコさんは部隊全体でCランク扱い、フラーさんは単独Dランクらしいです。
フェアちゃんはGランクからなんですけど、
「ミーシャ姉さん。ゲヘナダンジョンに入るためには、冒険者ランクでの制限とかありますか?」
「…………一応、Fになれば入れるようにはなりますが」
分かりました。
今日中にFランクに上げたいんですけど、何をどうすれば良いか教えてください。
「……あの、ナナシ様と、……その、フェアネス殿下……」
「ミーシャ。今の私は新人冒険者のフェアだから。きちんとそう扱って」
「…………はい。それでは、フェア様。その、こちらの薬草摘みなどはいかがでしょうか? 新人がまず最初に受ける、初心者向けの常設依頼となりますが」
各種薬草を規定数採取してくるというやつですね。
ふむふむ、ポイント換算すると……。
「ここに載ってる薬草を全種類三セットずつ集めれば大丈夫そうですね、フェアちゃん。ちゃちゃっと回って集めてきましょう」
「はーい。それじゃあ、これ受けるね」
というわけで、僕たち四人は迷宮都市の外にある森に乗り込んでいろんな薬草を集めることにしました。
といっても、今は冬なので自生しているものを普通に探してもたいへんだと思います。
見つけても摘める部分がないかもしれませんし。
そこで。
「あ、ナナシ。これは『オロミンナ草』っていうらしいよ」
と、フェアネス殿下が誰かに葉を摘み取られた後の薬草を見つけました。
ふむふむ、根っこと茎の一部だけ残っているわけですね。
「分かりました。結界作成」
そこに僕の回復結界を五重に作成して、全開で魔力を込めていきます。
すると。
「おおー、すごいすごい! めきめき伸びてきたよナナシ!」
成長促進された薬草があっという間にニョキニョキと伸び、薬効のある葉っぱの部分がワサワサと生い茂ってきました。
そうして収穫可能になったオロミンナ草とやらを、僕とフェアちゃんでプチプチと摘んでいき、必要量獲れたら一纏めにしてフラーさんにお渡しします。
「次はこれ、『リボピタン草』だってさ」
ニョキニョキ伸ばしてプチプチ摘みます。
「これは、『リンゲインの実』が成る木だって」
ぐんぐん育てて実を回収します。
「これ『ゼリナ草の根』って名前だから、根っこがいるみたいだね」
ギュンギュン育てて結界スコップで根を掘り出します。
他にも、『ユルケン草の蔓』とか『チオタビン草の花』とか『アリミンナ草の実』とか、色々見つけては育てて摘みます。
「ナナシのその結界術、ほんとにすごいねー」
「はい。女神様からいただいた結界術ですからね」
「そかそかー。だからすごいんだねぇ」
すごいんですよぉ。
「……無法すぎますね」
キャッキャと薬草摘みしている僕たちの後ろで、フラーさんが嘆息します。
さらに少し離れたところでは、森の獣が近寄ってこないようにロコさんが周囲の警戒をしてくれています。
ロコさんもフラーさんも、ありがとうございますね。
「ねぇねぇナナシ、次はあっちに行こーよ♪」
フェアちゃんがなんだか楽しそうです。
僕はフェアちゃんが行きたいほうに一緒に行って、摘める薬草を摘んで、食べられる実があったら一緒に獲って食べてみて、甘い蜜の出るお花を摘んでちゅーちゅー吸ってみたりしました。
で、お昼すぎには必要量の各種薬草が集まったので、カベコプターに乗って迷宮都市内の冒険者ギルドに戻ったところ。
「あ、おかえりなさいナナシ様、フェア様。これ、フェア様のFランク冒険者証です。どうせ必要になると思って、もう作っておきました」
さすがミーシャ姉さん。
仕事ができますね。
ということで、フェアちゃんはFランクになりました。
それならお昼を食べてから、一回ゲヘナダンジョンに潜ってみますか?
「うん! 行こう行こうー!」
そういうことになりました。
僕たちはギルド近くの食堂に入り、安い定食セット(硬いパンと、野菜の切れ端が浮かんだ塩辛いスープと、筋の多いぶつ切り兎肉を焼いたものに酢漬けの葉野菜を添えたもの)を注文してみます。
フラーさんが「このような粗末なものを殿下のお口に……」みたいな表情を浮かべていますが、まぁ、今はそういう話ですので。
そしてフェアちゃん。
出てきたカチコチのパンを机にコンコンとぶつけてみたり、スープを一口飲んで塩辛さにむせたり、固いお肉をモグモグして首を傾げたり、葉野菜の酢漬けを一口食べて口を手で押さえたり。
そういうことをしながらも定食を完食しました。
「新人は、毎日こういうご飯を食べてるの?」
そうみたいですよフェアちゃん。
「そっかあ。私、毎日これだと、さすがにちょっと嫌かなぁ……」
僕ももっと美味しいものを食べたくなると思います。
つまり、こういう食事から抜け出したいなら、もっとたくさんお金を稼げるようにならないといけないわけですね。
ちなみに、先ほどやった薬草採取も、普通ならあの中の一種類か二種類を一セットずつ集めるのがせいぜいで、その報酬額はさっきの定食一回分か二回分ぐらいです。
獣を狩ったりできるようになると、もう少しマシな食事を一日二食できるようになるみたいですけど、それでも寝る場所は安宿の雑魚寝部屋がせいぜいだとか。
きちんと鍵の締まる個室の宿に泊まって、一日三食バランスの良い美味しいご飯を食べられるようになるには、さらに腕を上げてダンジョン十階層のフロアボスを倒せるぐらいにならないといけないみたいです。
そこまでいって、ようやく新人冒険者を卒業、といった扱いをしてくれるんですって。
さて、フェアちゃん。
ここまでの話を聞いて感想は?
「うん。私、冒険者の生き方って向いてないと思う」
そりゃそうですよ。
だってフェアちゃんってお姫様なんですから。
そもそもの生き方や思想が合わないでしょうし、似合わないです。
「だからまぁ、フェアちゃんに似合う生き方がこれからもできるように、僕もこうしてお手伝いをさせてもらっているわけですよ」
「なるほどねぇ。うんうん、やっぱりナナシは頼りになるなぁ」
にへっと笑って僕のほっぺたをツンツンしてきます。
お返しに僕は、フェアちゃんの首筋を指でつつーっとなぞりました。
「ひゃあん!?」
思ったより可愛い声が出たフェアちゃんを宥めながら、僕たちはゲヘナダンジョンのゲート前に向かったのでした。