ユートピアは廃れたり
私的にいろいろあって割とゲームする時間もなかったです。次から気を付けます。
店主はずっと小声で聞いてくる。ナノマシンの性能だとかコンタクトディスプレイについてだ。俺はこの時代の先端技術を知らないため今使っている機能が既存のものなのかわからない。もしオーバーテクノロジーだった場合少し面倒なことになるかもしれない。今ここにいることですら訳が分からないのだ、ちょっとしたことがバタフライエフェクトとなって元の時代に影響を及ぼしてしまうかもしれない。だからのらりくらりと質問を回避する。
「そのコンタクトディスプレイは何処製なんだい?やはり日本か?でもアジアの人間じゃないだろ?あんた。ドイツでこんな高性能なものは売ってたか?」
「失礼な。俺は日本人だぞ。」
「どうみても白人に見えるのだがな。」
「両親どっちも日本人だ。白人の親戚なんか聞いたことないし。」
「これは知り合いにもらったものだ。それに俺が何人でも関係ないだろ。ちょっと黙っててくれ。」
やはり白人は肌の色にこだわりを持つのか?確かに色白であることは認めるが親族がみんな黄色人種なのに白人なわけないだろう。 身近にも外国人はいたが彼らは特に人種にこだわっていなかったな。やはり本場は違うというのか?あそこは黄色人種が多かったからか人間関係のトラブルも無く暮らていたのか。時代柄というわけではなかったか。
武器もなく、片足だけで老人を引き連れているときた。一人なら何とかなるかもしれないが複数人は流石に無理だろう。サイコガンでもありぇばなぁ。何とかなったかもしれないが。無いものねだりはしても意味がなってもんだ。ならおとなしく静かに進むしかない。視界の右上隅には呼吸音や脈動を感じ取って人間の位置を表示してある。体内のナノマシンが超音波を発して反響を感知してマップデータを作っている。
すごーく簡単に言えばソリトンレーダーの上位互換ようなものだ。音の跳ね返りを解析して物の輪郭までもわかる。負荷は上がるが音が届くところならば輪郭を解析できるらしい。でも負荷が高すぎて体内のナノマシンが発熱しだして体温が2~3度も上がってしまうのがデメリットらしい。つまり日常生活では大した活躍もしないくせにスカートの中を見れる(輪郭だけ)とかいう痴漢とかの悪用にしか使えないゴミ機能だ。
レーダーに二人の人影が見える。恐らく居眠りをしているのだろう。目が開いてないし寝息のような音を発している。互いに片方が見張っていればいいだろうと思ったんだろう。好都合だからしっかり仕事しろとは言わない。ラッキー☆
レーダーによると角を右に曲がった先3mところらしかった。角から顔を少し出して見張りの様子を垣間見る。ちゃんと寝ていた。しかも少しだけだが服の隙間から銃のグリップが見える。気付かれずに盗めたらいいが……
「ちょっと黙ってここにいてくれ。」と小声で言う。
年寄りは耳が遠いとはいえ耳小骨付近に埋め込んであるであろう翻訳機は拾ってくれたに違いない。
息を殺して壁に寄りかかりながら寝ている男たちに近寄る。熟睡しているようで傍に立っても起きる様子はない。
なんとなく頭の中でよぎった選択肢。”殺害”
手で直接殺すことに若干の抵抗感を覚えた。しかし永久に黙らせることができるというメリットもある。
でもどうやって殺すのか?首絞めは多分通用しない。頭を掴んで壁や床に強く叩きつけるという方法しか思いつかない。仕留めそこなったら終わりだが。
よし。もしばれたら仕方ないから殺そう。変にリスクを抱える必要はない。そろーっと腕を伸ばして銃を抜き取ろうとする。
突然腕を掴まれる。そして男が虚ろな目をつけた顔を合わせてきた。しかしそのまま、男は脱力して椅子から落ちる。一体どういうことなんだ。明らか目は開いていたが、起きていたのか・・・?寝相が悪い?気味が悪いやつだ。もう一人が音に驚いたのかしゃっくりのような声を上げた。そしてそのまま椅子からずり落ちた。
よくわからないが、まずは先に進むしかない。
爺さんを呼び寄せる。
「銃持つか?」
「使えんから持たん。」
「あっそ。」
「それより腐敗臭がきつくないか?地下だから空気が回ってないからか?」
「すまんが、俺はハウスダストアレルギーでさっきまで吸いまくったから鼻づまりしててわからん。」
よく見たら顔をしかめている。相当臭いがきついのだろう。ハウスダストアレルギーが昔から相当ひどかった。今も鼻呼吸よりも口呼吸で酸素を取り入れている状況だ。
やはり地下は空気がこもるのだろう。通学に使っていた地下駐輪場もゴムの匂いだとか、湿気が凄かった。なんとなく地下は嫌だ。
さっきまでいたのは地下1階でないことが分かった。地下5階の牢屋に監禁されていたよう。
しかし変に人が少ない。案内によれば地下にも機能を持った部屋は多い。もっと人がいても変じゃないはずだ。こっちからしたら楽だからいいのだが。
誰にも会うことなく1階に出てきた。流石にいろいろ理由を考察し始める。明らかに奇妙だからだ。
多組織の襲撃で壊滅したのか、警察の調査が入ることを聞いて逃げたのか。店主によれば俺が牢に入れられてから5時間は経っているそう。5時間もあれば大ごとが起きていてもおかしくはない。
装備は・・・どこにあるんだろう。パクられたかもなぁ。。せっかく買ったのに。
あっけないけど脱出しよう。建物外にあっさりと出ることが全く人気がない。来たときはもっと人がいたはずだが。いくら日暮れとはいえこんなに人がいないもんなんか?まるで異界に迷い込んだみたいだ。
「なぁ?ドイツってこの時間帯にはもう外に人はいないもんなんか?」
「そんなことはないと思うが...奇妙だな?ここの地域はそうなのかもしれないが。」
二人とも困惑していると、突然サイレンが鳴り響く。
「「いったい何が?」」
奇妙な夜の始まりだった。