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【書籍化】縁談が来ない王妹は、狂犬騎士との結婚を命じられる  作者: 五月ゆき
第一部:二人が両想いになるまでの話
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8.急募:護衛騎士を口説く方法



あれからも、ストレッチは続けている。

もっとも、育成は、できたような、できていないような、微妙なラインだ。たわわに程遠いことだけは、認めたくないけれど事実である。


あの立ち聞きしてしまった会話を思い出すと、じわじわと妬ましさがわいてきてしまうけれど、バーナードが一般的に見ても格好良いと証明されたことだけは、嬉しくもある。


わたしの親しい人たちは、誰も、バーナードの容姿について言及してくれないからだ。

お兄様も「バーナードの顔立ち? ……そうだな、いかにも狂戦士(バーサーカー)という顔をしているな」なんて意味の分からないことをいうのだ。


でも、王宮内の女性官吏からすると、バーナードはすごく格好良いのだ。間違いない。ワイルド系のハンサムだ。やっぱり、100年に一度の美形なのだと思う。




……そんなバーナードと、結婚しろと、お兄様はいう。




わたしは、思わず、ため息をついた。


お兄様の結婚が内定しているなら、早急にわたしの結婚相手を決めて、婚約だけでも発表する必要がある。これはわたしも賛同する。


問題は、わたしに縁談がないことだけど、この際、リッジ公爵のお言葉に甘えてもいいかと思っていた。


……でも、お兄様のあの様子では、リッジ公爵との結婚は認めてくださらないだろう。


たしかに、バーナードのことは置いておくとしても、妹に、およそ60歳近い歳の差婚をさせるのは、お兄様にとって、いささか外聞が悪いだろうとも思う。王家の仲の良い兄妹と評判だったのが、実は不仲なのかと、無用な勘繰りを招きそうだ。



そうなると、わたしに残された手段としては、バーナードに無理強いをしないために、彼を手放すか、あるいは ─── ……無理強いではなく、本人が望んでくれるように、彼を口説き落とす、か……。



いや、どう考えても後者の手段は、無理があると思う。


せめて胸部の育成に成功していたら、まだ、女の魅力というもので迫れたかもしれないけれど、現状、わたしにある魅力は『王妹としての地位と権力』だけだろう。バーナードが、そのどちらにも興味がないことは知っている。このままではわたしは、地位と権力を盾に、彼に結婚を迫る女になってしまうんじゃないだろうか。それだけは避けたい。

でも、彼がわたしの傍からいなくなってしまうことも、考えたくない。

だとすると、やっぱり、バーナードを口説き落とすしかないのだけど……。



口説き落とす。

バーナードを。

─── どうやって……!?



しまった。これまで政略結婚しか考えていなかったから、恋愛の仕方もよくわからない。

世の中の恋人たちというのは、どのような流れでお付き合いが始まるものなのだろうか。


わたしが知る中で、印象深い恋愛事といえば、反乱軍を相手にしていた頃には「俺には、帰りを待っていてくれる可愛い婚約者がいるんですよ! こんなところでは死ねません!」と必死に戦っていたチェスターが、いざ王都へ帰還したら、彼女に「どうして戻ってきたの!?」と叫ばれて、その場に崩れ落ちたことくらいだ。交際の始まりどころか、終わりを目撃してしまった。


あぁ、でも、たしか、あの婚約者の女性が、ほかの男性とお付き合いを始めたきっかけは、エスコートなしで出席した夜会で、一人寂しく、ぽつんと壁の花になっていたところに、声をかけられ、ダンスに誘われたことからだったはずだ。


夜会でダンスへ誘う。これならわたしにもできそうな気がする。


わたしも、およそ二年間ほど、誰にもダンスに誘われていない。エスコートはお兄様がしてくれるし、ダンスも、お兄様が気を遣って誘ってくれることはあるけれど、恋愛的な意味合いで考えると、数には含まれないだろう。


王妹という立場上、壁の花になることはないけれど、わたしを取り囲むのは、年齢層が高い方々ばかりだ。夜会で独りきり度数を計測したら、わたしだって相当なものだろう。


わたしからダンスに誘われたら、バーナードだって『ほかに踊ってくれる人がいないんだな』と憐れんで、わたしの手を取ってくれるにちがいない。


そして、わたしは、彼と踊りながら、こう囁くのだ。


『その礼装、よく似合っているわ。今夜のあなたは、とても格好良いわ……』

『いつもの近衛隊の礼装ですよ? どうしたんですか、殿下。もしかして、俺が目を離した隙に、酒でも飲みましたか?』



─── ……これは、ちがうわね。バーナードなら、こういうでしょうけど、これはちがうわ。ロマンチックじゃないわ。



もっと別の切り込み方をしよう。そう、たとえば……。


『あなたはダンスも得意なのね。わたし、胸がドキドキしてきたわ……』

『やっぱり酒を飲みましたね、殿下!? まったく、油断も隙もないな。あなたは酒に弱いんですから、公式の場では口にしないでくださいと、いつもお願いしてるでしょう!』



……ちがう、ちがうの、やめて、お酒の心配から離れてちょうだい、バーナード……!



わたしは懸命に、想像の中のバーナードに訴えたけれど、彼は酒の影響だと信じ切っていて、早々にダンスを切り上げてしまい、わたしを控室へ連れていくと、医者を呼んできた……という結末まで、眼に見えてしまう。

長い付き合いだ。バーナードがいいそうなことも、取りそうな行動も、だいたいわかる。


わたしは思わず額に手を当てた。夜会はダメだ。諦めよう。


もっと、お酒の心配をされない方法がいい。夜会はきっと、夜だからよくないのだろう。


そう、たとえば、昼間に、王宮を抜け出して一緒に散策へ出かけない? と誘うのはどうだろう。


これは立派なデートのお誘いだろう。バーナードも了承してくれるはずだ。

何といっても、今までも何度も実行してきている。身分を隠して街へ降りて、人々の暮らしを見て回り、ときどき露店などでささやかな品を購入するのは、わたしの楽しみの一つだ。

これならバーナードも付き合ってくれる。護衛として。



─── いえ、護衛ではダメでしょう……!!



わたしは頭を抱えたくなった。

バーナードは確実に同行してくれると思うし、むしろ、彼を置いていくほうが、ものすごく叱られると思うけれど、これはどう考えてもデートではない。ただの王妹と護衛騎士だ。ロマンチックさの欠片もない。



─── いえ、でも、王妹として見ないでほしいとお願いしたら、ロマンチックになるのではないかしら……!?



今日はお互いに身分を忘れましょう、わたしのことは一人の女として見てほしいの。


……これは重い。重いし、困るだろう。


わたしが男性だったら、仕事上の付き合いでしかなく、そのうえ、自分より立場が上の相手から、こんな台詞をいわれたら、ものすごく困る。困り果てる。下手なことはいえないけれど、相手の期待には答えられない、お断りの意志は示したい、だけど問題になったらどうしよう等々、弱り切ってしまうだろう。



─── ……最初は、もっと、遠回しな方法がいいのかもしれないわ。ダンスやデートは、初手から距離を縮めすぎよね。そうだわ、もっと遠回しに、たとえば、プレゼントを贈ってみるとか……。



バーナードが好きなものや、欲しがっているものを贈るのだ。

彼が求めているものといえば、まず、丈夫な剣だろう。剣がよく折れると、前にぼやいていたのを知っている。

「まぁ、折れても、敵から剥ぎ取るからいいんですけどね。戦場で剣の補充に困ることはないですから」ともいっていたけれど、手持ちに丈夫な剣があったら、それに越したことはないだろう。


バーナードの戦いに耐えきる剣を探し出して、彼にプレゼントするのだ。彼はきっと、喜んで、「ありがとうございます、殿下。この剣で、この先も一生、あなたをお守りします」と改めて騎士の誓いを……。



─── いえ、ダメよ、騎士の誓いを立ててもらってどうするの……! ロマンチックじゃないわ……!



わたしは途方に暮れた。

どうしたらいいのだろう。


想像の中のバーナードが、どう迫ってみても、ちっとも口説かれてくれない。




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