10.後日談(完)
近衛隊の飲み会から数日後。
今日の護衛騎士はチェスターとコリンだった。
わたしがいつものように執務室で休憩を取っていると、扉の前に立つチェスターが心配そうに尋ねてきた。
「殿下、先日の件は、隊長に相当絞られましたか?」
「……あぁ、バーナードに内緒で王宮を抜け出した件ですか? ええ、まあ、生命の危機を感じるほどには怒っていましたね」
わたしが思い返しながらしみじみというと、チェスターは納得顔で頷いた。
「やはりそうでしたか」
「なにかありましたか?」
「実は隊長が『自分を鍛え直す』といっておりまして」
わたしは思わず紅茶でむせそうになった。
「殿下も驚かれますよね? 鍛えるも何も、隊長はろくに訓練などしなくても人外の強さでしょう。俺も、今度は何をいい出したんだこの男は? と心底不思議に思いまして、冗談のつもりで『大陸の覇者でも目指すつもりですか?』と聞いたんですよ。そうしたら『そんなものは今でもなれる。もっと大変な問題があるんだ』と」
わたしは耐えきれずに咳き込んだ。
大丈夫ですか? と気遣ってくるチェスターに頷いて、話の先を促すと、彼は難しい顔をしていった。
「大陸の覇者になるより難易度の高い問題とは何かと思いましたが……、おそらく、殿下がお忍びに出るときには必ず事前に察知する能力でも身につけようとしているのでしょう。俺が殿下絡みで何かあったのかと尋ねたら『殿下のためというより……、俺の望みのためだ。次の機会があったら、そのときは逃したくない』といっていましたからね。これは間違いなく、次に殿下がお忍びに出かけるときには護衛につこうという……、殿下? どうかなさいましたか? 暑いようでしたら窓を少し開けましょうか? ……いえ、その、いつもより頬に赤みがさしていらっしゃるようですから」
完結です。ここまでお付き合いくださってありがとうございました。
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