日常
カビ臭い畳の上で体育座りしながら、古めかしいテレビの中で活躍するヒーローを見てた。
何も考えてずにただ真剣に見てた。
周りの雑音も聞こえない、ヒーローしか見えない。
新体操の武器も額に埋め込まれている宝石も首に巻いてるスカーフも、全部好きだった。
自分よりいくらか大きな子供達が五人のヒーローの手助けをしているのを見て、あー、羨ましいなってずっと思ってた。
私にはできない事だから。私はただこの画面の向こうにいるヒーローを応援する事しかできないから。
あの頃の私にはそのヒーローが全てだった。
その日の私はひどくブルーだった。
基本頭の中お花畑の私は滅多な事じゃ落ち込まない。
と言うと語弊がある、実際先週も落ち込んでた。
ある漫画を見るためだけに買っていた週刊誌にその漫画の打ち切りの告知文。
正直血の気が引いた。
うん、これは来週から買わなくていいなレベルでは無く、来週から何を楽しみ生きていいのか分からないレベルだった。
打ち切りの理由?思い返すのも甚だしい。
まぁ、平たく言えば作者が法を犯したらしい。
そんなのこの漫画の登場人物達には関係なくない?
え?この漫画の登場人物達の先行く明るい未来はどうなるの?
二次元と三次元を行き来していた主人公は結局最終的にどっちの世界を選ぶの?
そんなモヤモヤを考えながら絶版したら困ると思い、まだ買っていない単行本を一気に迎えるため一番近くの本屋に向かっていた。
だけど、家に帰って思った。
買ったところでこの続きは永遠に無いのだ。
そんな本を買ってしまい一体私は何がしたかったんだろう?
あ、話が反れた。
今落ち込んでいる要因は…。
夕暮れ時誰もいない河川敷に座り、今日の出来事を思い出してみる。
『ごめん、やっぱりお前とは合わない』
同僚でありわりと気が合ったから付き合ってみた柴崎に急にそんな事言われた。
別に私もそんな好きじゃ無かったし、別れる事に関してはどうでも良かった。
問題なのはその後の言葉だ。
「いやー、ヲタクだと思ってたけどここまでキモヲタだと思わなかった」
え?その言葉ひどくない?
あなたに何の迷惑もかけていませんでしたよね?
入場者特典欲しい時には付き合って貰ったりしたけど。
あ、迷惑掛けてたか…。
でも、このキモヲタって言葉がどうしても引っ掛かってしまう。
「あーーー、こんな事考えてる時間もったいないのにー」
今日は予約している缶バッジのコンプリートBOXを取りに行かなくちゃ。
これが私の日常。
てか、現実って何?
今こうしてる時間って何だろう?
例えば今私がこの川に飛び込むとして一体何になるんだろう?
例えば拾った百円で宝くじ買って一等当選したら私は幸せになれるのか?
てか、幸せって何?
世界一の幸せも世界一の不幸も同じ気がしてきた。
特にやりたい事もないし、漫画やソシャゲ関連に給料全て捧げて。
現実にはそんなに好きでも無かった彼氏を失ったばかり。
生きてる実感何も無い。
言うては友達もいない気がする。
あれ?本当にいないのか?
私にだって友人の一人ぐらいいるはずだ。
LINEの友達欄を開きスクロールしていくと、昔よく遊んだ一人に指が止まる。
加藤麻実…、うん、確か小学生から高校まで一緒だった。
好きなアニメも好きな音楽も一緒でイベントよく行ってた。
って言うか学生時代このコしか遊んでいなかった。
小学生の時あるアニメがあった。内容はコメディ70%恋愛要素30%のアニメで子供向けの時間帯での放送でありながら、結構過激な内容も含まれていたものの大人気のアニメでその主人公が私の初恋相手だった。
主人公くんもヒロインも二人ともお互いに好きなくせに素直じゃなくて、全然くっつかない二人を見て、その頃子供だった私はイライラしていた。
私は主人公くんの事こんなに好きなのに、どうしてあんな素直じゃないヒロインが好きなのか理解できなかった。
あ!
一度だけあった!生きてる実感。
生きていて良かったって心から思えた事。
その主人公くんを演じていた声優さんに会えて自分の名前を読んでもらえた時、本当に死んでもいいと思うと同時に今まで生きていたのはこの日のためだったんだって思えた。
あれってもう五年前になるのかー。
ってまた話が反れた。
そそ、加藤麻実といつから連絡取らなくなったんだろう?
あれ?高校入ってから一度も連絡取ってない気がする。
LINEにはまだ名前残ってるんだよなー。
ちょっと、久々に打ってみるか。
『久しぶり、元気ー?』
全然対した事ない普通の言葉の返信は意外にもすぐに来た。
それは予想外の返答だったけど。
『すみません、誰ですか?』