住民を救うための決断
今この状態で何時なのか、朝なのか昼なのか夜なのかはわからない。正直、ディスペイヤーが3日後と言っていたがこの世界にはもう何をもって日にちが経過しているのかはわからない。とはいえ、時計の数字だけが唯一時間の経過を示してくれている。この時計を動かしているのはジュンマの能力であるが。
時計の数字は23時を示している。小さな小屋には家具らしきものはあるがそれは生きるのに必要なものだけ。生き延びるのに必要なものだけ。あとは、何もない。頭まで布団にくるまっていたカロナは唐突にジュンマの名を呼んだ。
「私、この提案を受け入れたい」
ジュンマがどんな顔をしているのか、確認するのが怖いカロナ。布団から出てくることなく続ける。
「あのとき、ジュンマが言った通り、この世界を諦めてしまうことになってしまうのだけど、それでも住民が救われるのなら、私はなんだってしたいの」
一瞬の静寂があったがそれを破ったのはジュンマだった。
「俺はお前の決めたことを全力でサポートする。ただそれだけだ。カロナ、自信を持て」
ジュンマは表情をひとつも変えていなかった。自分の布団をお腹の辺りまでかけ、両手を組んでその上に頭をのせ天井を見上げていた。
布団から顔を出し、ジュンマの方をみてありがとうと呟き、カロナは眠りについてしまった。完全に寝入ってしまったカロナの方をようやくみるジュンマ。
「頑張りすぎなんだよ、カロナ。愛している」
ジュンマの独白だけが部屋に残った。
カロナたちはこの世界で生きている全員を集めて、ディスペイヤーとの出会いや異世界転移について、その提案を受け入れたいことについて説明した。急な話であり、状況がついていけないのも無理はない。住民たちは互いに顔を見合わせ戸惑っていた。ただし、そんな状況はすぐに収まった。住民の代表が決断してくれたからだった。
「異論はありません。全てをカロナ様、ジュンマ様に背負わせてしまうことは心苦しいですけれど、お二方がそのように決断されたのでしたら、私たちは信じて待つだけです」
全員が頷いている。泣きそうになる。本当にこの世界に生まれて、よかったと思えた。
それからと言うものこれまで通り代わりはなかった。あっという間に約束の時が来てしまった。でも、覚悟は決めている。恐れることはない。しっかりとした足取りで約束の場所に向かうと6つのクリスタルを漂わせながらディスペイヤーが待っていた。