ディスペイヤーの提案
「ディスペイヤー様は何をしにこの世界にやって来たのですか」
思うところはあるが神様であろうが準神様であろうが自分よりも格上の存在に敬意は示す。カロナは真っ直ぐと彼を見つめている。
「ちょっとした寄り道だ。偶然この世界のそばを通りかかったときに休めそうな場所があったからね。住民がいたことには驚いたさ。それに、よそ者の私が寄り道させてもらっていることに少しばかり申し訳なく思ったくらいだ」
ようは旅の途中の休憩がてらにこの世界にやって来たということだった。だから、この世界を救いに来た救世主というわけではない。
「しかしまぁ。勿体ないとは私も思うさ。確かにこの世界は滅んでいる……いや、滅びかけているが住民はまだ生きている。このまま放置して立ち去るのも引っ掛かるものがある」
まるでディスペイヤーはこの世界の現状を知り尽くしているのではないかと疑ってしまうような発言を見せる。カロナもジュンマもただ彼の発言を静かに聞いている。
「この世界には興味はないが、この世界の住民、特にカロナ。お前に私は興味を持った。どうだ、ここは私の提案を受け入れてみないか」
ただでさえ死神のような不気味な容姿をしているディスペイヤーは不気味な笑みを浮かべ一歩カロナの方に近づいた。その瞬間、ジュンマがカロナより一歩前に出る。カロナを守る体勢だ。
「興味を持っていただき光栄です。しかし、提案とは具体的にはどのような内容でしょうか」
ジュンマの背中に守られながらもカロナは返事をする。
「神の私でも滅びかけたこの世界を修復することはできない。そもそも自分で創造した世界ではないからなおさらだ。しかし、私には他者を異世界へと転生、転移させることが出来る」
つまり、この世界の住民を異世界に転移させることで救い出すということだそうだ。私たち二人をまず転移先の世界に転生させ、下準備をしそれから住民全員を転移させるということ。転移先の世界はディスペイヤーが準備するとのことだが具体的には語られなかった。
「なるほど確かに住民が救われる道は異世界転移しかないのかも知れない。ただ、この世界に生まれこの世界と共に生きてきた住民が納得するかはまた、別の問題ですね」
考え込むカロナに代わり、ジュンマが返答する。ディスペイヤーもその返答がもっともであることは認めている。
「住民とも話し合う時間は必要であろう。ただし、時間は待ってはくれない。3日後に、ここで返事を聞かせてもらおう。私もまた、その間に準備をし、待っていよう」
それだけを残し、ディスペイヤーは姿を消してしまった。
ディスペイヤーの容姿は人間とも言いがたい姿であり、黒いマントを羽織っている。ふよふよと空中に浮かんでいる。