神様のいない世界
この世界を創造したとされる神様はもうどこにも存在しない。その理由を知っているものもいない。神様の側近であった二人も例外ではなく。ただ、側近であった二人は知っていた。神様がいなくなってしまった世界には滅びという未来が待っていることを。
「これでしばらくは寒さをしのげると思うわ」
そういうと彼女の手から火の鳥が生まれ、大きく羽ばたき空を飛び回った。火の鳥が飛び回るだけで凍えそうだった空気感が穏やかな温もりに包まれた。
「ありがとうございます。この世界の救世主、カロナ様」
集団を代表して、カロナと呼ばれる人物の前に立っていた若い男は何度も何度も頭を下げていた。その後ろで女、子供達が喜びの声をあげていた。
「神様はもう、この世界にはいらっしゃらない。それでも神様から与えられたこの力は残っている。ならば、私たちが出来ることをするのは当然のことですよ」
カロナは凛とした姿でそれでいて優しい笑顔を見せた。
「いつまであれでしのぐつもりだ?」
カロナの隣を歩くもう一人の救世主ジュンマが口を開いた。先程までは一言もしゃべらず少し離れた場所からカロナを見守っていた彼。
「この世界が救われるまで」
ジュンマの顔を見るでもなくカロナは言い切った。歩くスピードも変えずに。
「そうか」
ジュンマは小さな声で返事をした。
「おそらくこの世界にはもう時間という概念は存在しなくなっているのね。太陽も月も久しく見なくなってしまった。それでも今まで適温でいられたのはこの世界の神様がいた名残みたいなものよね」
ジュンマはカロナの話を黙って聞いている。続けるカロナ。
「でも、それだけではもう限界を迎えてしまった。幸いにも私たちの力はまだこの手に残っている。だったら、私たちが出来ることってこういうことじゃない?」
こういうこと。この世界が救われるまで力を使い維持させること。
「俺はお前がやりたいことを全力でサポートする。それは変わらない。何があっても」
神様の側近にカロナが選ばれたときから決めている。神様がいなくなってしまったとしてもこの約束は決して破れることはない。
「ありがとう」
ようやくジュンマの方を向いたカロナはとびきりの笑顔を見せた。反射的にそっぽを向いてしまったジュンマであるがその顔にも笑みが浮かんでいた。