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4 東野と西野

翌日のCTでは特別異常もなく、ほぼ健康体であることが証明された。以前居た病院での処置のおかげらしい。しかし、長く眠っていた影響も考え、退院まであと数日は必要と阿倍野に診断された。


目覚め時から思ってはいたが、なかなかのイケメンだ。眼鏡は嫌味のない黒縁、焦げ茶の髪の毛を綺麗に撫で付けハリのあるシャツとネクタイ、感染対策のゴム手袋をしっかりつけ白衣を着た姿は完全にデキる医者だ。


昨日の態度からは想像できないテキパキとした作業で義國の診察を終える。


兎にも角にも数日暇ができたので病院を探検して見ることにした。そしてある違和感に気付く。


「東野さーん、東野ミチエさーん、外来3番へどうぞ」

「東野由香さんですね、お薬14日間分です」

「東野雅子と申しますが、東野照夫の病室はどちらでしょうか…」

「東野先生呼んできて!あ、瑛太先生ね!」


どこに行っても東野、東野、かくいう自分も東野なのだ。

そして最後のダメ押しに昨日のキャンキャン看護師、改めまして由美子さんまで…


「由美子さんって、名字…東野なんだね…」


「そうですよ?それがどうかしました?」


「いや、なんていうかこれって皆親族だったりするのかな〜とか。俺の家族とかだったりするのかなぁとか…」


目覚めて2日目、体の調子はすこぶる良いことにに安堵するが、頭の調子は依然良くない。記憶を失っているせいか、東野という名前を聞くたび自分のことを知る人かと心湧くが、どうやらどの人も自分を知らないらしい。


「よかったらさ、検温とか終わったあとでいいから少し話せるかな?色々と知りたくてさ…」


はは…っと乾いた笑いをしてしまう。

そんな義國とは正反対に由美子の瞳がキラリと光る。


「あら!あらあらあらあら!!!では私が先生としてご教示して差し上げましょう!どんどん何でも聞いてくださいね!阿倍野先生から義國君には手厚いサポートを、とお達しも受けているのでどんとこいですよ!」


両手でギュッと手を握られる。え…握力強くない…?由美子の急激なキャラクター崩壊に一瞬ドン引きしかける。が、ふと両手から伝わる温かさに気づく。不安がっている自分を元気づけているのだと理解して少し気持ちが落ち着いた。


=====================


「…俺も由美子さんも東野だよね。この病院にも東野って人が多くて…それでもしかして家族とまでは言わなくても遠縁何じゃないかと思って」


「ババン!答えましょう!恐らく親戚である可能性は限りなく低いです!」


ドヤ顔である。なんだろう…元気づけてくれてるのはわかるけどちょっとムカつくのは何故だろう…


「同じ東野なのに?何か明確な理由があるのか?」


「ふふふーん、それには()()が関わってくるのだよ、義國君!」


なるほど…やはりこの由美子さんはかわいいけどちょっと人を苛つかせる天才だ、可愛いけど。


「叡智っていうのはね、昨日の阿倍野先生のガイア様とサーバ様の話は覚えていますか?」


「西の土地を治める大地と海を制する兄神と東の土地を治める人智を統べる力を持つ妹神だっけ?」


「ピンポンピンポン大正解です!流石まっさらなキャンバスのように何もかもを忘れてる義國君、覚えが早い!この二人の神様は人々に特殊な能力を与えて、日本共和国をたった200年ちょっとで海の向こう側の大国と肩を並べられるほどのの強国に創り上げたのでーす!」


やはり阿倍野と同じで一言多い。


「それで、東野が多い理由は?神様を信仰してる人の名字とか?」


「ううん、この日本共和国の人はその殆どがガイア様とサーバ様を信仰してる。東野っていう名字はその中でも特殊な人たちなのです。」


「特殊?」


「うん、さっき言った叡智っていう、神様の力を一部受け継いで、国の発展に貢献する役割を与えられた人達に贈られる名字が東野とよばれています。正確には西のガイア様から叡智を授かりしものは西野さん、東のサーバ様から叡智を授かりしものは東野さんですね!だから元々は佐藤さんとか鈴木さんって人が大人になって東野さんに変わることになりますです!」


なるほど…ということは…もしかして俺も…?


「つまり俺や由美子さんも叡智をさずかって…」


「ないんですよねぇ〜これが。ああ!ほんとに、悔しい、悔しいの!!ちょっと枕貸してっ!」


ボスっボスっと枕にパンチの雨を降らす由美子に若干恐怖を感じる。


「私の家ではおじいちゃんが叡智を授かりし者だったん、(ボスッ)です。優秀な医者だったと聞いて、(ボスッ)ます。私は東野3世なん、(ボスッ)です。おじいちゃんはおばあちゃんとお見合いして結婚して、そしたらお父さんが生まれて、お父さんはお母さんと大恋愛の末結婚して、そして生まれたのが私由美子なんです!でも由美子もうすぐ30歳だけど彼氏もできなくて〜うわあああ!!」


なにかのスイッチを入れてしまったのだろうか…

最初は枕を殴りながら噛みしめるかのように語りだしたが、最後には泣き出す由美子に病室の備え付けのティッシュを渡す。


「由美子さん、ちょっと落ち着いて。つまり、東野の名字はおじいさんから受け継いでるけど叡智までは遺伝しなかったってこと?」


「ヒグッ…そうなんです。東野の叡智が遺伝することは稀なんです。知識の叡智は時に大量の人を安易に殺める道具として悪用されかねません。サーバ様は叡智に相応しい人格者でないと力をお分けくださらないと小学生の時に習いました…うぅ…」


ズビーッ!と鼻をかんでポイとティッシュをノールックで投げ捨てる。


「東野の名前を持つものは子供を作る力が普通の人よりも弱まります。サーバ様の叡智が誤った人間に渡る確率を限りなくゼロに近づけるためです。特に男児は生まれにくいです。基本的には女の子の子供が生まれます。たまに孫世代が生まれる事もありますが、それは奇跡と言われています。」


つまりは由美子も奇跡の存在の一人なのだ。だが恐らく叡智を遺伝する子供が生まれる確率はそれよりもっともっと低いものなのだろう。


「それに比べて西野さんは出生率の枷はありません。しかも結婚して生まれた子供が男の子ならば、一人だけ高確率で叡智を受け継ぐと聞きます。グズッ…大地と海を制する為には人手が必要であるからと。そうでなくともガイア様から直接叡智を賜る者はサーバ様の何十倍とも言われています…!」


由美子もかなり落ち着きを取り戻したようだった。


「私もお父さんもおじいちゃんみたく、お国のために働きたくて、頑張ったんです。でも叡智は遺伝もされなくて、もちろんサーバ様から賜ることもできなくて…お勉強沢山したけどこうやって今看護師止まりなんです、あはは、出来損ないなんですよ、私。」


由美子の寂しげな横顔になんとも度し難い思いを抱いてしまった。看護師として今精一杯頑張ってる、そんな彼女にかける言葉を探した。


「君が君らしくあることは恥ずべきことじゃない」

(あれ、これどこかで…?)


「義國さああああん!!ありがとうございますううう〜!患者さんをサポートする私が、患者さんに慰められるなんてええええっ!!」


不思議な既視感を抱いた直後、ガバッと由美子が義國に抱き着いてきた。胸、胸が顔を圧迫して苦しい…!必死にギブアップを伝えてやっと開放される。


「はぁ…はぁ…死ぬかと思った…多分落石に巻き込まれた時より死ぬかと思ったと思う…」


「義國さん〜…すみません、なんだか感情が高ぶっちゃって…あははは…」


しょんぼりとする由美子の頭をポンポンと撫でると元気を取り戻したようだった。


「というわけで、私のおじいちゃんみたいな二人の神様から叡智を賜った者、特別に叡智を遺伝した者、そのどちらでもない親族の3パターンに分けられますね。叡智を持つ者たちは東野の中でも真東(まひがし)と呼ばれます。この病院は近くにサーバ様の研究機関があるので、患者さんには真東さんも、普通の東野さんもごちゃまぜなんです!」


ニパッと笑う由美子は30歳とは思えない可憐さがあった。

そしてシンプルに疑問に思った。


「真東と東野の見分けはつくのか?」


「はい!枢密院と言う叡智を管理する政府組織があります。遺伝の叡智を持つものも含めてしっかりと鑑定をされるんです。無事に認定された場合、ガイア様の叡智なら右手の甲、サーバ様の叡智なら左手の甲にこんな感じの菱形の紋様を彫られます。菱形の紋様は特権階級の証です。…私は紋様を手に入れられなかった落ちこぼれの東野さんです…」


由美子は指で作った小さな菱形を見つめながらもの寂しげに語った。こうしてみると少し拗ねてる子供が手遊びをしているようだ。


「由美子さんも、こうやって看護師としてしっかり働いてるんだから、あんまり自分を卑下しないでいいと思うぞ。まぁそんな急に言われても現実味ないかもだけど、俺は目覚めて初めてあった人が由美子さんで良かったと思うしな!…つーことは、西野にも真西(まにし)って言う奴らがいるってことか…」


「そのとおりでーす!やっぱり義國さんは優しいし賢いし良い人だ!嬉しい〜!そのすっからかんな頭に抱きついちゃおう!」


やはりこの看護師、一発くらいは殴っても良いのではないか…?という気持ちをぐっと抑えながら由美子抱きつき攻撃を片手でいなす。


「でも、それなら東野を極めるんじゃなくて真西としてガイアから叡智を貰うとか考えなかったのか?分野は違えど国のために働く功労者には変わりないんだろう?」


「うーん…ガイア様の叡智を賜る為には、小さい頃から親元を離れて西日本に点在する大社にて、巫女としての長い修行が必要と聞きます。私は自分の東野としての可能性にかけて勉学に励みながら家族との時間を優先してしまったんです…それに…えっと…だから…モゴモゴ…」


「それに?」


由美子の顔が赤い。もじもじとしてなにか言っているがよく聞き取れない。じっと由美子の顔を見つめると観念したのか話しだした。


「だーかーらー…!!ガイア様の叡智を賜るには…ガイア様と()()()しないといけないんですっ!でも私は…私は…初めては好きなヒトとしてみたいんですうううっ!!!」


してみたいんですうぅ…ですうぅ…ですうぅ…

院内に由美子の叫びが木霊した。


この日俺は目覚めて初めて察した。

一つは神の叡智には性行為が必要なこと。いや、これは察するとは言わない。説明を受けている。

本当に察したことは由美子さんはまだ処女であることだ。



拙い文章ですがお読みいただきましてありがとうございます。頑張って連載していきたいと思いますので宜しくお願いします。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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