1 神様の始まり
18世紀、ヨーロッパが農業革命を経て国力を益し産業革命に差し掛かる頃、とある民族は土器に縄の模様を刻んでいた。
ユーラシア大陸からもアメリカ大陸からもはるか彼方の絶海の孤島、それが彼らの土地だった。縦に長も横にもひょろりと長い島国。北は雪が降り、南は美しいサンゴ礁まで見ることができた。国土の大半を占める島のほぼ中心には美しくそびえる山が印象的だった。
文化も科学も何かもが未発達に等しいその民族は、地球上のどの国にもまだ見つかることなくひっそりと暮らしていた。
しかしある日、腹違いの兄妹が生贄として神に差し出されることとなった。少しでも豊かな実りを得るために、恵みの雨が人々を飲み込む災厄とならないために。数年に一度、神に捧げる子どもたちを選ぶ事は彼らにとって必要不可欠な事だった。
父を亡くしていた兄妹は、二人の母親にとても惜しまれた。祭儀の始まる直前まで自分たちを身代わりにしてほしいと母親たちは懇願した。しかし古からのしきたりで生贄は幼い子供と決まっていた。
祭壇に登る兄と妹は涙する母親たちを見つめていた。兄は自分たち兄妹の運命を呪った。父のいない自分たちが生贄に選ばれたこと。そして父は殺されていたこと。父親がいない子供が生贄にされやすいこと。これはすべて仕組まれたこと。
兄はふと自分の考えに違和感を感じた。自分は今までこんなに思慮深かっただろうか。たかが10歳の自分が。この前まで稲作の手伝いや、族の子供たちと遊ぶことしか考えてなかった自分が。
ふと横にいる5歳年下の腹違いの妹を見た。昨日までこんな深い色の瞳をしていただろうか。
妹もふとこちらを見上げ、コクリと頷いた。途端に頭の中に声が聞こえた。
(お願い…殺さないで…神様…)
あんなに離れているはずの母親たちの声
(みんなで集まって何やってんだ?)
この前まで遊んでた子供たちの何もわかってない呑気な声
(可哀想に…でもこれでまた皆平和に暮らしていける)
族の大人たちの哀れみと安堵の声
(これで自分の息子は次の儀式では成年…生贄にならずに済む…)
そして隣でナイフを持つ族長の心の声
聞こえてしまった。わかってしまった。もう一度妹を見つめる。妹はまたコクリと頷いた。
ヒュッ
理不尽に振り上げられるナイフの音。兄は力の限り叫んだ。
「俺が神だあああああああ!!!!」
途端に稲妻が兄妹に降り注いだ。儀式に参加していた誰もが何が起こったのかわからなかった。わかる者がいるはずがなかった。
何故ならこの時、初めてこの島国に神が降り立ったからである。天に在るべき存在が地上に現れたのである。兄はこう言った。
「お前たちの祈り受け取った。我が名はガイア、大地と海を制するもの。彼女はサーバ、人の知を統べるもの。今よりこの地を日本とする。」
これが日本という国ができた、最初の最初のお話である。
拙い文章ですがお読みいただきましてありがとうございます。頑張って連載していきたいと思いますので宜しくお願いします。