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拾われ猫

作者: 田中浩一

拾われ猫


見上げると、四角い空が見えた。青い空に筆で描いたようなかすれた雲が浮いていた。

遠くで川のせせらぎが聞こえる。大きな川なのか、魚が水をはぜる音がする。

時おり春先の冷たい風が、四角い空から舞い降りては、僕らのまわりを回って空に戻っていく。

隣には弟が寒そうに体を丸めていた。

いつからここにいるんだろう?

いつのまにここにきたんだろう?

僕は弟に寄り添って、少しでも暖をとった。弟は微かに息をしていたけれど、もうだめかもしれない。

あの暖かい家庭はどこに行ったの?

あのあたたかいみんなはどこに行ったの?

遠くで子供のはしゃぐ声がしている。

誰も僕らには気づかないのかな?

その時、自転車の音がした。続いて、はぁはぁと走り寄る子供の足音。不意に、四角い空から真ん丸い女の子の顔が覗いた。

「うわっ!捨て猫だ!」小学生くらいの女の子が、段ボールが震えるくらい大きな声で叫んだ

「マジマジ?」はぁはぁ息を切らしながら、あとから来た女の子も、前の子を押し退けるように顔を覗かせる。

「可愛い!」そう言ったと思ったら、急に二人ともいなくなった。いきなりのことでドキドキした僕は少し体温が上がったみたいだ。

お日様が真上に来るにつれて暖かくなってきた。あくびがでた。うつらうつらしてるところにさっきの女の子達が舞い戻ってきた。

「あたし、こっち!」弟があっという間に空へと持ってかれた。

「ん、じゃあ、あたしはこっちか~」仕方なし気に、僕も空へと持ち上げられた。

見ると弟が、自転車のカゴに入れられて走り去るところだった。永遠の別れなんだ、そう直感した。

僕はといえば、最初、女の子に抱かれていたものの、

「くさっ!」と、言われてから伸ばしきった両手のなかで宙ぶらりんになっていた。確かに僕はお尻を舐めてません。だって、コロコロしてしまうから、うまくお掃除できないのです。臭くてごめんなさい。

やがてその子の家に着いた。家族のみんなが、よってたかって僕を見に来ては、

「くさっ!」を連発した。

すぐに、温かいシャワーで洗われた。耳を押さえてもらっていた、ありがとう。

柔らかいタオルで拭かれて、ドライヤーの風でさらさらになった僕は、やっとこさ女の子にぎゅーぎゅーと抱き締められた。

田中カズマ。僕の名前が決まった。なんでも、お兄ちゃんが一貴で、あの子が香津奈で、そして僕が、カズマ。

なんだか幸せで、嘘なんじゃないかと思った。人間は、夢かしらと頬っぺたをツネルらしい。僕は、香津奈の手を噛んで、「痛い!」と、香津奈が言えば夢じゃないんだと、実感した。

番犬の、シロは僕がよその猫と喧嘩してると、わんっわんっ!と援護してくれた。

先輩猫の、クロさんは獲物の捕り方や、道路の渡り方を教えてくれた。シロもクロさんも、年輩だった。

クロさんは敵に襲われない、雨風も防げてなおかつ、日当たりのイイ場所を僕に教えてくれた。もう、クロさん自身、そこまでのジャンプが、辛いそうだ。

今日もその場所で、まどろんでいたら、香津奈の泣き声がする。またぞろママに叱られたんだな。仕方ない、涙が乾くまでそばに、寄り添ってやるか。


「2015年9月24日」

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