7,手放したくない幸せのシフォン
嫌な予感がする。執務室で書類仕事をしていると、唐突にそう感じた。
隣の部屋は自身の部屋。その隣の部屋は、ティアの部屋だ。
不安になってティアの部屋の前まで来て、ドアをノックして開けようとする。…けれどノックしようとした手はピタリと止まった。
ティア以外にも、誰かがいる。剣術で研ぎ澄まされた感がそう言っていた。焦ってしまい、ノックなどせずに、勢いよくドアを開ける。
案の定、誰かがティアの体を縄で縛り、攫おうとしていた。
衝動的に一撃かまして、「ティア!」と愛しい人の名を呼ぶ。安心したように真珠のような涙をポロポロと流すティアを見て、もっと早く助けられたのに、という後悔が押し寄せる。
腕輪からしてリンフィー王国の人間だろう―――。あの、腹黒狸国王の手下か。すると、とてつもなく苛ついて、まだうめき声を微かに上げていたソイツをキツめに気絶させた。
…そして、ティアが攫われなかった安心に身を寄せる。
「ティア、良かった、良かった…!」
俺に抱きしめられていたティアが、たどたどしく、微かながらも声を出した。ティアの初めて聞く声は、とても可憐だった。
「レ、イヴァ様…レイ、大好き、です」
鈴のように可憐な声で、好き、と伝えられた俺は、あまりの嬉しさと恥ずかしさに、赤面するのだった。
ティアの義妹とは比べ物にならないほど、愛称呼びの効果は絶大だった。
***
ゆっくりと瞼を開ける。日差しが眩しい。
「―――ア!ティア!」
「…レイ、ヴァさ、ま?―――って、私、喋、れて、ます」
「うぅ~~~~っ、ティアレシア様ぁ~~~~~!」
視界に映った号泣しているイリアと、声を出している事実に、驚きが二割増しになる。
「ティア…!良かった…!」
大好きな人の腕に抱きしめられながら、影薄幸薄な私は、今、この瞬間の幸せを噛み締めるのだった。