6,ベリージュレのように甘酸っぱい
ベッドの上で、寝付けなくてごろごろする。今日はリリアーヌもお義母様も捕まったり、色んなことがある日だった。
…そして、あのあと判明したことだが、リリアーヌは瞳の色を特別な魔法で偽っていたらしい。『女神アシュアの涙』で魔法が破かれ、元の黄緑の瞳に戻ったのだ。
お義母様とリリィは裁判で判決が決まるが、刑が無いことは無い、ということだった。今は拷問で情報を吐かされているらしい。想像して怖くなって、すんっと布団の中に入った。
―――もう少しで眠れそう…というときに、窓が静かに開いて冷気が流れ込んできた。誰かが入ってきた…!
…侵入者?想像をして、怖くて微動だに出来なくなる。悲鳴をあげようにも声は出ないし…。侍従も部屋で休めさせてしまったし…。ガシリと体を掴まれて、侵入者だと確信した。
手にまかれた、リンフィー王国の紋章が描かれた革の腕輪からリンフィー王国の人間だということが分かる。
―――まさか、リンフィ―王国の国王⁉そんなに、聖女の私が、アーシュラン王国に渡されたくないの⁉
ロープで体をきつく縛られる感覚に、現実を突き付けられる。このままだと、本当に攫われてしまう…!
嫌だ、怖い、怖いよぉ――――!
―――そして、私の脳裏に浮かんだのは、助けてくれる、大切な人。
…あぁ、いまさら想いに気付くなんて、なんて私は愚かなんだろう。
リンフィー王国に囚われるのは、想いを伝えてからにしたかったなぁ。
なんて愚かな、影薄幸薄令嬢でしょう。
アーシュラン王国に来て、幸せなことしかなかったから、幸薄なことを忘れていたのね…。
誰かの手が、私の腕を手に取る。触らないで、嫌、想いを伝えたい、悲しい、怖い――――!
レイヴァ様…レイ、助けて―――っ。
「ティア!」
ドアが勢いよく開き、暗がりの中見えたのは、大好きなあなた。見られただけでほっと安堵して、力が抜けて、涙がボロボロ出てくる。
「…ッ」
逃げようとしたリンフィー王国の誰かを気絶させて、レイヴァ様は私を抱きしめた。
「ティア、良かった、良かった…!遅くなってごめん…!」
いまなら、声を出せるかも。そう思って、声を出そうと唇を開く。
「レ、イヴァ様…レイ、大好き、です」
声を、出せた。たどたどしくも、あなたへの、想いを伝えられたから、このまま死んでもいいや…。
眠気がふいに襲ってきて、意識が遠くなる。
広がったのは、真っ暗な闇だった。