4,シュガーとはサヨナラしたくないから
前髪も普通の長さにして過ごすと、快適なことが分かった!
レイヴァ様が仮面を外している姿もよく目撃されるようになった。
私がリリアーヌの恐怖から抜け出して変わろうとしているのと同様に、レイヴァ様も変わろうとしているようだ。
レイヴァ様はまだ慣れないようで、少しずつ仮面を外している時間を増やしているだけだが、侍従さんたちは「仮面を外せるようになるなんて…!」と感激していた。
夫婦としては接しないと言っていたが、私とレイヴァ様は仲良くしている。お菓子を食べてお話したり。
それと…私の結界めちゃめちゃ役に立ってるっぽい。辺境地での魔物の消滅とか、他国からの侵略がなくなったりとか。
まだ私は声は出せないけど、アーシュラン王国は随分変わっていっている。いい方向に。
そんな急成長を遂げたアーシュラン王国とは皆仲良くしたがるわけで。
私が大嫌いな祖国、リンフィー王国も含め、他国の偉い人物達を集めたパーティ―が開かれるのだった。
大嫌いなリンフィー王国のお偉いさん含める他国のお偉いさんがいらっしゃるタイムリミットまで、あと三時間。一方の私はというと―――。
『行きたくない!』と書かれた紙がかざされている布団の中に包まり、籠城していた。
「でーてーくーだーさーいー!」
力で布団という名の城がこじ開けられる。だけど負けない…!メイドのイリアと戦いをやり続けてはや一時間。中々粘るなイリア…!
布団の中で紙に『レイヴァ様のパートナーは他のお方にして!』と書いて、布団の外に紙だけを出す。
紙に書かれた私の主張を見て、イリアが「舞踏会ではお菓子が出ますよ!」と言った。
それはとても魅力的で…。グラグラ揺れる意思。誘惑に勝て、勝つんだティア…!ふんばれティアレシア…!
「上質の砂糖!ぶちまけますよ!」
しゅばっと布団を跳ね除けてベッドの上に立ち上がる。それだけは避けたいから…!
***
「ティア、行こう」
コクリと頷く。機嫌は底辺に沈んでる。いーやーだーよー。せめてもの救いはリリィが来ないこと…!来ませんように、来ませんように。病気になって、来られなくなりますように!
「…目を見られることが嫌なら仮面を付けるといい」
まあそれも嫌なんだけどー、リリアーヌたちに会っちゃうかもしれないことが嫌だ…。
でも、結局会ってしまって瞳の色を見られたらリンフィ―王国に連れ戻されちゃうかもしれないわけで。
ありがたくレイヴァ様の手から仮面を受け取った。仮面のサイズは小さく、目だけを隠すようだった。
目の場所に空いている穴は小さくて、瞳の色が分かりづらくなっているが、視界は広い、特注の仮面らしい。お値段いくらでございましょうか…。
『そういえば、レイヴァ様、仮面付けていませんよ』
「…好意を寄せる人の前でみっともなく怯える男は軟弱だろう」
どうやら好きな人が出来たらしい。
『側室に迎えるんですか?』
「…いや、側室を迎える気はない」
『私、別に嫉妬しませんよ?』
「いや、そういうわけでは…。……気づかれていないとは…」
『思いを伝えるテクニック一覧の本が図書室にありました、読んでみてはいかがでしょうか?』
「なんでそんなものが図書室に⁉」
『お菓子のレシピ探してたら発掘しました』
「そ、そうか」
そんなこんなで筆談で会話してたらお客様方々が到着した、と侍従が連絡をしてきた。リリアーヌは来てますか?とかすかな希望をこめて侍従に聞くと、来てますよ、と返された。ぽっきりと希望は折られた…。
影薄となって影と同化しよう…。そう決意する私であった。